「ユニバーサルデザイン2020行動計画」と「ユニバーサルツーリズム」

JTB総合研究所 ユニバーサルツーリズム推進チーム

1. ユニバーサルデザイン2020行動計画

障がい者、高齢者等に関する法律や施策は各国の歴史的背景や社会構造などによって国ごとに異なります。戦争が多く、障がい者が増加した国では、人権問題とともに障がい者に対する法律や施策、福祉政策などが早期から成立していますし、EU諸国などの国境を越えた移動の多い地域では、自国だけでなく隣国と連携した施策が発達しています。また、障がい者スポーツは、第二次世界大戦以降、戦傷病者の機能回復のためのリハビリテーションとして行われたのがはじまりです。高齢化への対応も同様で、高齢化が一定水準を超えると高齢化施策が推進されます。介護保険制度は、ドイツで1994年、日本は2000年に成立し、高齢者が増え始めたところである中国ではまだ検討段階です。

ユニバーサルデザインの考え方にも同様のことが言えます。実は、日本でもっとも早くからユニバーサルデザインへの対応が進んでいるのは、国際線を運航する航空会社です。日本の障害者差別解消法などに先んじて、米国やEUから、域内に乗り入れる日本の航空会社に対して法令順守の要請があり、航空機を利用する旅客への接遇について、「障害を理由に差別しないこと、航空機、その他の関連施設、提供されるサービスを障害者にもアクセス可能にすること等」が求められたからです。

世界が注目する2020年パラリンピック競技大会は、誰もが生き生きとした人生を享受することのできる「共生社会」の実現に向けて人々の心の在り方を変える絶好の機会です。日本政府は、この機を逃さず、世界に誇れるユニバーサルデザインの街づくりを実現するとともに国民全体を巻き込んだ「心のバリアフリー」の取組を展開することにしました。具体的には、2016年2月、オリンピック・パラリンピック担当大臣を議長とするユニバーサルデザイン2020関係府省等連絡会議が設置され、様々な障がい者団体(18団体)等の参画を得て、共生社会の実現に向けた施策を総合的に検討されました。2017年2月20日にこの連絡会議を関係閣僚会議に格上げし、障がい者団体の出席を得て、第一回ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議を開催し、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(以下「行動計画」)が決定しました。主なポイントは以下の通りです。

【行動計画の主なポイント※】

(1)政策立案段階からの障がい者参画

障がい者に関する施策の検討及び評価に当たっては、障がい当事者が委員等に参画し、障がいのある人の視点を施策に反映させること。

(2)主な施策

<ユニバーサルデザインの街づくり分野>
  • 平成29年度中に交通バリアフリー基準(省令)・ガイドラインを改正
  • 平成28年度中にホテル等の建築物に係る設計標準を改正
<心のバリアフリー分野>
  • 2020年度からの学習指導要領改訂を通じ、すべての子供達に「心のバリアフリー」を指導
  • 平成29年度以降、接遇を行う業界(交通、観光、流通、外食等)における全国共通の接遇マニュアルの策定・普及
  • 全国で障がい者等を支援する意思を持つ人々が統一のマークを着用して、ボランティア文化を醸成

このように、国は共生社会の実現に向けた大きな二つの柱として、国民の意識やそれに基づくコミュニケーション等個人の行動に向けて働きかける取組(「心のバリアフリー」分野)と、ユニバーサルデザインの街づくりを推進する取組(街づくり分野)を進めています。2020年に向けての3年間は、日本において、ユニバーサルデザイン、共生社会の普及のために文字通り国を挙げて取り組む「もっともタイムリーな」時期といえます。

2. ユニバーサルツーリズムの意義と共生社会

障がい者スポーツの効果と言われるものに、「する効果」「見る効果」があります。当事者自身が「するスポーツ」の効果として(1) 全身的な機能の回復に有効、(2) 心理的側面からの効果、(3) 社会への適応に大きな自信となることがあげられます。一方、「見るスポーツ」の効果では「障がい者理解の促進」が最大のものと言われています。

年齢、性別、国籍、障がいの有無などにかかわらず、すべての人が楽しめる旅行「ユニバーサルツーリズム」についても同様のことが言えます。自宅や介護施設などにこもりがちだった障がい者や高齢者などが、外出をし、日常生活圏から外へ出かけたときの本人への効果としては、(1) 生きがい(生きる目標:精神面での効果)(2) 健康への努力促進(リハビリ:物理面での効果)(3) 仲間づくり(孤独感からの開放:心理面での効果)があげられます。また、周囲の人・社会への効果としては、(1) 配慮が必要な人を外で見かけることにより当事者理解が進む、(2) 当事者との遭遇する機会やタッチポイントが増加し、「自分事」として考えられるようになる、その結果心のバリア(ハードル)が低くなるということが言えるのではないでしょうか。

国も、私たちも、目指しているのは、障がいの有無にかかわらず、女性も男性も、高齢者も若者も、外国人もすべての人がお互いの人権や尊厳を大切にし支え合い、誰もが生き生きとした人生を享受することのできる共生社会の実現です。国をあげて取組を進めている今が「ユニバーサルツーリズム」にとって最も追い風の吹いている時期であり、共生社会の実現につながる重要な時期でもあるのです。このタイミングを逃さずに様々な取り組みに参画して行きたいと考えています。

※出所:内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議」

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