「ユニバーサルデザインの街づくり」とバリアフリー法改正
2018年がスタートしました。2020年東京五輪・パラリンピックの開催を機に共生社会の実現を目指す「ユニバーサルデザイン2020行動計画」では、共生社会の実現に向け、個人の行動に向けて働きかける取組「心のバリアフリー分野」と、ユニバーサルデザインの街づくりを推進する取組「街づくり分野」を大きな二つの柱として計画を進めています。
今回は、ユニバーサルデザインの街づくりを推進する取組である「街づくり分野」と関連する法律改正について紹介します。
1.共生社会とユニバーサルデザインの街づくりの考え方
共生社会の実現に向けては、障がいのある人が、日常や社会生活を送る上で障壁(バリア)となるようなもの(社会的障壁)を取り除いていかなければなりません。その中でも、障害のある人が自分自身で自由に移動し、スポーツを楽しむ等の活動を妨げている、段差や車いす使用者等の通行を妨げる障害物等の障壁(物理的障壁)や、音声案内や手話通訳、分かりやすい表示の欠如などによる文化・情報面での障壁を取り除いていくことがまず求められます。街なかの段差、狭い通路や、わかりにくい案内表示等を見直し、ユニバーサルデザインの街づくりに取り組むことで、障害の有無にかかわらず、すべての人が共に生きる社会に向けて我が国が大きく前進することとなります。
2006年に制定されたバリアフリー法*1では、高齢者、障害者、妊産婦、けが人などの移動や施設利用の利便性や安全性の向上を促進するために、公共交通機関、建築物、公共施設のバリアフリー化を推進するとともに、駅を中心とした地区や、高齢者、障害者などが利用する施設が集まった地区において、重点的かつ一体的なバリアフリー化を推進することとしています。
街づくりにとって重要なバリアフリー法は、概ね5年ごとに見直しが行われています。前回の改正から4年が経過し、その間、2020 年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の開催決定や、障害者権利条約の批准、障害者差別解消法の施行、観光立国推進による訪日外国人旅行者の増加など、社会情勢は大きく変化し、建築物の一層のバリアフリー化が求められています。また、我が国においては諸外国に例を見ない急速な高齢化が進行しており、本格的な高齢社会への対応は急務となっていました。
*1 平成18年に制定された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」。一体的・総合的なバリアフリー施策を推進するために、ハートビル法と交通バリアフリー法が統合・拡充されました。ここでいう障害者とは、身体障害者のみならず、知的・精神・発達障害者など、全ての障害者を対象としています。
2.社会の変化に対応した建築設計標準の改正
バリアフリー法の改正については、交通バリアフリー基準(省令)・ガイドラインは、平成29年度中に改正するべく現在取り組みが進められていますが、ホテル等の建築物に係る建築設計標準については平成29年3月に既に改正が行われました。その概要について、「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」から「建築設計標準の主旨と今回の改正について」の主要部分を紹介します。「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」とは、すべての建築物が利用者にとって使いやすいものとして整備されるように、バリアフリー設計のガイドラインとして定められたものです。
今回の改正においては、前述のような背景から、高齢者や障害者等に配慮した施設に対する需要が特に高まっており、特に建築物の新築時だけでなく、既存の建築物を改修し、バリアフリー化することも強く求められています。
これらを踏まえて、利用者の目線に立ち、全国の建築物におけるバリアフリー化を一層進めるため、特に宿泊施設と、トイレ等について建築設計標準の改正が行われました。
宿泊施設については、「車いす使用者用の客室」以外に、高齢者、障害者等が利用しやすい「一般客室」のガイドラインの追加のほか、既存建築物における改修方法の提案、ソフト面での配慮等の記述の充実が記載されました。また、トイレについては、車いす使用者用、オストメイト設備を有するもの、乳幼児用設備があるもの等について、全て1ヶ所に集めるのではなくそれぞれの機能を分散させることや、小規模な施設や既に建っている建築物での整備を進めるための記述がなされました。
具体的な事例として、「ホテルまたは旅館」のチェックポイントを紹介します。
(参考)
ホテル又は旅館の場合の設計上のチェックポイント
- 車いす使用者用客室を設ける
- 車いす使用者用客室以外に、高齢者、障害者等の利用に配慮した一般客室を設ける
- 客室には、高齢者、障害者等の利用に配慮した設備・備品(シャワーチェア、補助犬用の備品、携帯端末等)を設置、又は貸し出す
- 共用スペース(レストラン、宴会場、大浴場・個室浴室、共用便所等)には、段を設けない
- 宴会場等への聴覚障害者用集団補聴装置の設置等に配慮する
- 共同浴室を設ける場合には、車いす使用者の利用に配慮する
- 緊急時の避難動線の確保や情報提供等に配慮する
今回の改正にあたっては、障害者権利条約の批准、障害者差別解消法の制定により、「障害」とは個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されるものであり、社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという考え方に立って、改正が行われました。新たな建築設計標準(ガイドライン)が広く活用され、すべての人にとって使いやすい建築物が社会全体で整備されることが望まれています。
ユニバーサルデザイン2020行動計画
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/ud2020kkkaigi/pdf/2020_keikaku.pdf
建築設計標準改正について
http://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000658.html
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