観光衛生マネジメントとは、「観光地の経営において、衛生対策、特に感染症の未然防止や感染者発生後の円滑な対応への備えにより、旅行者、地域にとって安全、安心の維持を総合的に図る活動」です。
以下の視点で、外部から旅行者を呼び込みたいと考えている地域が観光衛生マネジメントを行うことを目的とします。
- 衛生対策を施し安全を確保したオペレーションを確立
- 衛生対策の質を維持・向上とさせながら収支バランスを維持
- ツーリズム産業たるエンタテイメント性を失わない新たな観光事業運営
- 地域ぐるみの安全・安心のイメージ確立により、ブランド価値向上につなげる
背景
ウイルスや細菌は人類の誕生以前から存在していました。中世ヨーロッパで流行った「ペスト(黒死病)」は人口の3分の1が死亡したと言われ、また1918年にパンデミックとなった「スペイン風邪」でも、世界で感染者5億人以上、推定2,000~4,000万人が死亡するなど、多くの尊い命が奪われてしまった歴史があります。
21世紀に入ってからは、2003年の「重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome:SARS)」、2012年の「中東呼吸器症候群(MERS)」、2013年の「高病原性鳥インフルエンザA(H7N9)」が知られていますが、グローバル化が進むと共に、影響は大きくなってきました。
2020年に広がった「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の感染拡大は、経済に打撃を与え、人々の日常生活や価値観を変え、移動の自由を阻み、ツーリズム産業の根幹を揺るがしました。今後、ワクチンや治療薬ができたとしても、歴史が示すように感染症の課題は避けられません。自由な移動の確保のためにも、持続的な観光衛生マネジメントが、今、求められます。
JTB総合研究所が提案する観光衛生マネジメントのあり方
現在、出現している感染症の多くは、その病原体はもとより、感染経路、潜伏期、治療と診断、予防法が明らかになってします。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については全貌解明にまで至っていませんが、対応策のガイドラインは世界中で、そして政府や自治体、各業界で策定されています(2020.9現在)。こうしたツーリズム産業の特殊性に鑑みた観光衛生対応を基軸としたサービス、機能、組織の再構築、管理・運営手法である「観光衛生マネジメント」が求められる時代になってきたといえましょう。
観光衛生マネジメントは、観光地や企業運営の上位概念となる経営だけで必要なものではありません。現場レベルでも業務の実態に即した計画を策定し、状況に応じてブラッシュアップしていく必要があります。実際、業界毎に策定されているガイドラインは一般論となっている箇所も少なくなく現場のサービスや機能に合わない可能性もある可能性もあります。こうした問題は仮説検証を講じながらベストプラクティスを見出し、持続的に発展させていくPDCAサイクルを講じていく必要があります。
図は、旅行会社の現場での衛生マネジメントシステムを計画した例になります。顧客からの要望やニーズを的確に把握し、観光事業者と共有しつつサービスを計画し、万が一の際の医療対応・体制の確認、そして現場での管理・配慮を実践・評価し、ステークホルダーとサービスを創り上げ、常に高度化させていくようなマネジメントシステムが検討できます。特に、衛生対応を施すことにより、顧客が求めるサービスニーズ、安全確保ニーズとの乖離が発生する可能性があり、そうした声を吸い上げ改善していくことが従来のサービス以上に求められる側面が存在します。
ヘルスツーリズム研究所では、2005年の設立当初より医学界の監修を受けトラベルメディスン観点での旅行・観光産業の在り方を研究し人財育成や啓発活動を展開してきたノウハウを活かし、観光衛生マネジメントに関するサービスを提供することが可能です。
参考文献
厚生労働省「厚生労働白書(16)」(2004)
国立感染症研究所HP
日本感染症学会HP
日本旅行業協会 主要旅行業者50社の旅行取扱状況速報(2003)