中国人の訪日旅行動向(2)
今後の中国アウトバウンドを担うマーケットはだれ?海外旅行と競合するのはどのような商品?消費の選択肢が増えつつある中国の今を、現地取材に基づいてレポートする。
河野 まゆ子 執行役員 地域交流共創部長
前回のコラムで、中国における訪日旅行市場の現状について触れた。現地の旅行会社は口を揃えて「中国発の海外旅行市場は今後さらに拡大するし、深化する」と言う。では、今後の中国で海外旅行というひとつの消費財は、誰に、どのように選ばれてゆくのだろうか。
上海の中心市街に店舗を構える上海梅龍鎮伊勢丹の担当者は、「海外旅行の一般化に伴い、旅行の競合となる商品は『車』と『高級電化製品』になる」と推測する。上海では、諸経費込み60,000中国元(約90万円)で安価な国産コンパクトカーが購入でき、これは上海で働くビジネスマンの年収とほぼ同額だ。また、近年需要が急増しているパソコンが5,000元(約75,000円)からと、訪日旅行とほぼ同額。同じく若年層に人気のハイスペック携帯が3,000元(約45,000円)と東南アジアに2~3泊の旅行ができる金額だ。大都市部での年収上昇に伴い、かつては一部のエリートビジネスマン向けだったこれらの商品が、一般的なサラリーマンにも手が届くものになった。そして、そのひとつが「海外旅行」である。
また、中国都市部では完全能力制を採用する大企業が増加している。これにより、高学歴・高所得の若年層が増えつつある。とりわけ「一人っ子政策(1979年~)」以降の出生者は高い教育レベルと完全能力制のモチベーションを背景に、高い給与を目指して総合職でバリバリ働く。これら「80年以降世代」の最初期の世代がちょうど20代後半に差し掛かり、経済的にも余裕が生まれてきた。この世代の女性は最新情報や消費に対する意識が高く、インターネットや女性誌での情報収集を怠らず、日本を通じてトレンドを追いかける。クレジットカードで買い物をして消費を牽引し、海外旅行にも積極的だ。また、日本やアメリカへの留学経験を持つ「エリートビジネスマン」は45歳未満、特に30代に多い。彼らは、出張やインセンティブ旅行を通じて何度も日本を訪れ、「ゴールデンルート」以外の日本のよさや楽しみ方を知っている。将来「ゴールデンルート」だけでは満足でいない旅行者が増えてきたとき、彼ら「訪日のベテラン」が辿ったデスティネーションが脚光を浴びることを中国の旅行会社は期待している。
今後の中国発海外旅行市場は、若きビジネスマンたちが主役となるであろう。彼らの動向から目が離せない。