購買行動からみた商業施設を考えてみる
人口減少社会に直面して、郊外型社会の発展によって疲弊してしまった「まちなか」を再生しようという動きが注目されている。今、「立地」の意味がさまざまな面から重要になってきている。まちづくりや地域活性化、旅行業の店舗立地にも関係の深い商業施設について消費者の購買行動から考えてみた。
若原 圭子 主席研究員
1990年代以降、急速に郊外立地のショッピングセンターが開発された。とくに、モータリゼーションの進んだ地方都市では、車を利用する住民が郊外の農地や工場跡地に建設された広大なショッピングセンターに集まり、「まちなか」に立地する商業施設を凌駕している。近年、国は「まちづくり三法*1」を改正し、郊外の大型集客施設の開発規制を強化した。小売業は郊外の大型店から「まちなか」への出店や業態開発に移行し始めている。
JR東日本はイオンと駅ビル開発・運営で業務提携した。首都圏の「駅ナカ」、駅ビルが好調な一方で、伸び悩む地方都市の駅ビルの魅力を向上させたいJR東日本と、郊外型商業施設の出店規制が厳しくなるなかで、駅という好立地を今後の店舗展開に生かしたいイオンの意図が一致した結果である。
このように「立地」が商業施設にとって大きな意味をもつようになっている。これまで、店舗面積・販売方法・取扱商品の割合等で分類されていた「業態」(百貨店、総合スーパー、専門店など)だけでは、消費者の購買行動や商業施設・店舗の特徴を表現することが難しくなってきている。消費者の購買行動から見れば、立地が郊外か駅前などの「まちなか」か、品揃えが高品質か、カジュアルあるいは価格訴求型の商品か、というMD(マーチャンダイジング)レベルの違いで商業施設を分類する必要があろう。
最近のガソリン高騰によって郊外型商業施設の売上げが落ち、宅配やネットスーパーの利用が増えているという。消費者はバブル崩壊以降、賢い生活防衛術を身につけており、どこで何を買うのが得策か、常に考え即実行している。
そこで、表のような商業施設や店舗の分類を試みてみた。すべての商業施設や小売企業を明快に分けることは難しいが、それぞれの顧客像や商圏、来館方法などを想像しやすいと思う。旅行業の店舗戦略立案や、地域活性化において商業施設等の誘致を検討する際にも、消費者の視点から考えるとターゲットやMDが見えてくるのではないか。オーバーストア*2のなかで、商業施設自体のスクラップ&ビルドも頻繁に行われている。誰に何をどこでどのように売るかというのは、大変重要なポイントである。
*1 まちづくり三法:中心市街地活性化法、都市計画法、大店立地法の3つ。平成10年にまちなかが疲弊しないようにと作られたが、疲弊に歯止めがかからず、平成18年に中心市街地活性化法、都市計画法が改正された。改正により、郊外化、拡散化したまちの都市機能を街なかに集約し、歩いて暮らせるまちづくりによって、これからの人口減少社会に対し、サステナブルな都市づくりを目指すもの。改正都市計画法は平成19年11月30日に施行され、郊外の大型店開発が規制されることになった。
*2 オーバーストア:小売店などの商業施設が、ある商圏に対して需要より供給が過剰になるほど出店している状態のこと