体験型観光に求められるもの ~見る観光から、五感で体験する観光へ~

ニューツーリズムのテーマや資源が何であっても、共通しているポイントは、"見る観光から、五感で体験する観光"が問われていることでしょう。グリーンツーリズムの農業体験やエコツーリズムにおけるインタープリテーションにしても、地域の資源の本質を体験してみたいというニーズは高まっています。

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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週刊トラベルジャーナル誌 ・執筆 2008年9月1日号

ニューツーリズムのテーマや資源が何であっても、共通しているポイントは、”見る観光から、五感で体験する観光”が問われていることでしょう。グリーンツーリズムの農業体験やエコツーリズムにおけるインタープリテーションにしても、単にツアーコンダクターの説明とパンフレットで見聞きするだけでなく、地域の資源の本質を体験してみたいというニーズは高まっています。

経済産業省が2007年度実施した「体験交流サービスビジネス化研究会」(平成19年度
サービス産業生産性向上支援調査事業)が実施したアンケートによると、一年間の体験活動経験者は30%、未経験者は70%であり、今後の参加希望については、経験者の94%、未経験者の76%が意向を持っています。まだまた潜在的なニーズが大きいと共に、一度体験した人達はさらに体験型の観光・旅行を望んでいることが分かります。

一方、体験活動を供給する地域の側としてみると、第一次産業や伝統産業など、一般的な観光資源ではない地域資源であっても、体験させることで観光客が訪れ、満足してもらえることとなりました。これは観光資源を持たなかった地域にも体験観光によって観光客を誘致することが可能となったことと、旅行者に体験を指導する人材として、広い分野の人が活躍できる場が出来たことでもあります。地域の農業を体験するには地域の農家の人が教え、伝統文化を体験するには、地域の伝統文化を継承している人から体験を指導してもらうのがホンモノです。いま各地域ではこうした他産業を横断した人材の育成や組織作りに取り組んでいます。

しかしこうした地域に根ざした体験プログラムを旅行商品として組み込む上では、様々な課題が残されています。まず第一には地域の体験を指導する方々は農家の老夫婦であったり、ボランティアとして伝統文化を継承する教育者の方であったり、これまでの旅行会社の主な相手であった観光事業者や観光協会の外側の人々や組織であることです。企画募集型の旅行商品を造成する大手旅行会社が、一人一人、一軒一軒の農家やガイドと折衝を行うには限界があります。また地域の為にとボランティアで取り組むガイドの方々とは旅行商品の契約相手とはできないケースもあります。さらには様々な体験活動に伴う事故などもホンモノを追求すればするほどとですが、これまでの旅行傷害保険では対応できないことが多々あります。これらの意味から今まで以上に広い役割を担った地域の受け入れ事業体の存在が、体験観光を流通させる旅行会社の側としても問われているのです。

体験観光や体験活動は、これまでの観光資源や施設に当てはまらない訳ではありません。従来の資源であっても、旅行者がより五感で体験できるプログラム化を図ることで、魅力を高めることは可能であり、そこで大切なのは、そのホンモノを伝える”地域の人”の存在です。「体験活動が出来る」だけでは差別化は図られません。例えば都市の子供達に農業体験が出来るか否かだけならば、大都市(マーケット)の近郊で充分ですし、極論すれば学校の校庭でも稲作体験は可能です。地域に出かけ地域の産業や文化を体験するということは、地域の人々から学ぶこと、ふれあうことが最大の価値であり魅力なのです。

通年で運航している山形県最上川の舟下りは全国的に有名ですが、体験された旅行者にとっての魅力は最上川の景観だけではありません。舟を漕ぎ案内する地元の船頭さんの会話やキャラクターが大きな魅力となっており、下船する旅行者からは笑顔が常にこぼれています。

サービス産業生産性向上支援調査事業

図:体験型観光への参加意向