「費用」対「効果」が問われる『ヘルスツーリズム』

健康に対する意識や関心の高さは今更述べるまでもありませんが、旅行と健康も注目のテーマとなっています。近年注目を集めているヘルスツーリズムとは、どんなものでしょうか。

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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週刊トラベルジャーナル誌 ・執筆 2008年9月15日号

健康に対する意識や関心の高さは今更述べるまでもありませんが、旅行と健康も注目のテーマとなっています。近年注目を集めているヘルスツーリズムとは、どんなものでしょうか。

以前このコラムで紹介した、国土交通省がすすめる「ニューツーリズム創出・流通促進事業」で2007年度に採択された実証実験モニターツアーは47件(実施は46件)でしたが、その案件のテーマをみると「ヘルスツーリズム」に関するものが20件と「文化観光」(28件)に次ぐ多さでした。希にみる高齢化社会に突入し、国民の「健康」に対する意識・関心の高さは今更述べるまでもないですが、旅行と健康も注目のテーマとなっています。そもそも観光や旅行のスタイルとして、”保養・休養”さらには”転地療養”という医学的な立場からの効用は古くから認識されており、さらに日本には”湯治”という温泉療養の独自の文化が根付いていました。では近年注目されているヘルスツーリズムとは、これらに対し何が違うもしくは新しいものなのでしょうか?

2007年策定された「観光立国推進基本計画」(2007年6月)の中で

『ヘルスツーリズムとは、自然豊かな地域を訪れ、そこにある自然、温泉や身体に優しい料理を味わい、心身ともに癒され健康を回復・増進・保持する新しい観光形態であり、医療に近いものからレジャーに近いものまで様々なものが含まれる。』

と定義づけられています。ここで特に注目すべきなのは、『医療に近いものからレジャーに近いものまで様々なものが含まれる』という点でしょう。2007年9月に発刊された「ヘルスツーリズムの現状と展望」(ヘルスツーリズム研究所/2007年9月)によれば、一口にヘルスツーリズムといっても、医療と旅行スタイルにより様々なタイプに類型化できるとされています。古くからの温泉療養旅行も含め、医学的、専門的見地から”健康と旅行”の効用を追求するものから、健康の保持・リフレッシュという精神的効用を期待するものまで多様です。旅行マーケットとすれば医療目的が強いマーケットよりも、健康維持を目的とした需要の方が誰しもが当てはまるだけに”パイ”は大きいのですが、一方で目に見えた効果が見えにくいために、旅行価値が訴えにくく、訴求するターゲットが絞りにくいという課題が指摘できます。

一方で、ヘルスツーリズムをテーマに観光振興に取り組む地域も増えています。同じようにタイプとして温泉資源に改めて注目して温泉療養をテーマに取り組む地域、医師・病院などの医療分野とタイアップし、医学的効果を前面に打ち出す地域、さらにもっと緩やかなイメージで地域の自然環境や食などに注目し、旅のスタイルとして健康を訴える地域など様々です。地域が差別化を図り他の地域にないヘルスツーリズムを継続するためには、地域固有の資源を健康と結びつけられるかが大きなポイントでしょう。

平成16年から18年にかけて北海道上士幌町では、杉花粉がない北海道の特性を活かし、杉花粉に悩む人向けのリトリートツアーを実験しました。これなどは地域特性を活かしターゲットを明確にした旅行の一形態と言えるでしょう。

しかしこうしたマーケットを絞り、医療分野と連携したヘルスツーリズムを事業化する上で最大の課題は「価格」に跳ね返ることです。前出のヘルスツーリズム研究所のアンケートによれば、健康をテーマとした旅行で何を重視するかについて、「費用が合理的であること(78.2%)」が最も上位にランクされ、特に女性が敏感であるようです。次いで「ツアーの主催者や施設が信用できること(70.0%)」と「専門家の指導・アドバイスがあり、効果が実感できること(61.5%)」という回答が見られます。”専門性””効果・信頼”そして”費用”を両立させねばならないところにヘルスツーリズムのビジネスとしての課題があるようです。

健康をテーマとした旅行の重視点

図:健康をテーマとした旅行の重視点
資料:ヘルスツーリズム研究所