ニューツーリズムの流通
今回は、ニューツーリズムを商品として流通させる新しい動きについて、述べてみたい。国や民間で、様々な取り組みが始まっている。
中根 裕 主席研究員
週刊トラベルジャーナル誌 ・執筆 2008年10月13日号
今回は、ニューツーリズムを商品として流通させる新しい動きについて、述べてみたい。国や民間で、様々な取り組みが始まっている。
このコラムで「国が進めるニューツーリズム」(2008年7月28日号)をご紹介しましたが、その中で着地型の旅行商品の新たな流通促進を検討しています。具体的には、地域と第三種旅行業も含めて旅行会社が連携して造り上げた旅行商品を、大手旅行会社や他社にも卸せるデータベースを立ち上げ、実験的に運用している段階です。現状では旅行会社間のBe to Beの仕組みであり、一般消費者には公開されていません。しかし登録している商品は、地域発着であれ旅行会社が募集する旅行商品ですので、消費者が直接申し込むことも可能なので、このデータベースの一般公開も検討中のようです。
それに対し、地域の側では観光協会や合同会社が第三種旅行業を取得し、地域内発着の旅行商品を開発し、売り出していこうとする動きが始まっていますが、多くの地域は旅行商品のコンテンツとなる様々な体験や交流のプログラム開発に取り組んでいる段階です。ただしその情報発信やプロモーション活動は、それぞれの観光協会や自治体のホームページに掲載している程度が現状で、なかなか全国の消費者に届きにくいというのが実態でないでしょうか。
そうした動きの中で、旅行会社の立場でもニューツーリズムの流通に対して新しい動きが出てきました。具体例であげればジェイティービーの「着旅」や、近畿日本ツーリストが別会社で設立した「旅の発見」などです。どちらも現状では旅行商品の販売サイトではなく、ニューツーリズムの体験プログラムを紹介する情報サイトで、消費者は直接個々の事業者に申し込み、宿泊施設や交通手段は別途手配せねばなりません。自分の望むプログラムや行程、宿泊施設、交通機関を選び個々に予約することを厭わない消費者は良いでしょうが、『興味ある体験プログラムを組み込んだパッケージ商品があれば、その方が・・』というニーズは無くならないと思われます。今後これらのニューツーリズムといえる体験やプログラムを組み込んだ様々な企画募集型旅行商品が開発されることが、旅行会社の大きな課題と言えますが、旅行商品化だけでなく、ニューツーリズムを素材とした情報ビジネスや地域産品開発、流通など、新しい関連事業を見いだすことも期待されます。そしてそれは旅行会社にとって新しい事業領域を開拓する意義であると同時に、地域にとってはニューツーリズムによって観光客を誘致するだけでなく、地域の様々な資源を広く流通させ、地域全体を活性化することでもあるのです。その意味で旅行会社と地域とは、今までの送り手と受け入れという関係だけでなく、より広く深い関係が必要となるのです。
10月1日に懸案であった観光庁が発足しました。そして訪日外国人観光客の誘致を平成32年に2,000万人とする目標を国は掲げています。訪日外国人客も個人化、ニーズの高度化が指摘される中で、インバウンド・マーケットとニューツーリズムとのマッチングも期待されています。ニューツーリズムを流通させる取り組みはまだ始まったばかりと言っても過言でありません。