「節約」というトレンド、「お得」という消費の免罪符 (その1) ~皆が生活が苦しくて節約をするのか~

世界的経済後退のなか、輸出産業を中心に大きく業績を落とし、国民の過半数が「苦しい生活」を余儀なくされている。そのために消費が低迷しているのも事実である。しかし、本稿ではあえて、「生活が苦しくなっていない」残り半数弱の人たちの消費について考えたい。

若原 圭子

若原 圭子 主席研究員

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消費は節約ムード一色だが、皆の生活が苦しくなったわけではない

世界的な経済危機の中で、消費は節約ムード一色である。読売新聞社の全国世論調査によれば、昨年の今頃に比べて暮らし向きが「苦しくなった」と言う人は54%で、2006年12月調査の同じ質問の25%から急速に増加。第2次石油危機の影響を受けた1980年2月調査の59%に次ぐ数値という(図1)。また、自分や家族の仕事の現状や将来に不安を感じる人は78%、1年前に比べて買い物などの支出を「抑えている」人は68%だった。その理由は「収入や収益が将来増えると思えない」(58%)、「年金や医療・介護など老後の生活に不安がある」48%、「生活にゆとりがない」47%などが続いた。

過半数が「苦しくなった」といっているが、実際、自動車や機械などの輸出産業を中心に、賃金の引き下げ、ボーナスの支給額減少から、派遣切り・止め、解雇までが起きており、彼らの「苦しくなった」具合は、収入の減少もしくは失業といった、かなり深刻な状況にある。

この調査からは、昨年の今頃に比べて暮らし向きが「変わらない(43%)」「非常に楽になった(0.6%)」「少しは楽になった(2.2%)」という「苦しくなっていない」人が46%いることも見てとれるが、一方で、将来に不安を感じる人が全体の78%と、実際苦しくなった人の割合を上回っていることもわかる。

本稿では、この暮らし向きが「苦しくなっていない」人が、どうしているのかを考えてみたいと思う。

昨年の今頃に比べて暮らし向きは

図1 昨年の今頃に比べて暮らし向きは

そもそも、国民皆が同じ家計状況の下にいるわけではなく、「何不自由なく欲しい時にお金が使えるもっとも裕福な層」から、「ある程度の制限があるが少し我慢したり時期を待てば欲しいものが買える層」、「住宅ローンなどを抱え、欲しいものを買う余裕のない層」、「安定収入に欠け、日々の暮らしで精いっぱいの層」に大きく分けられる(図2)。「欲しいもの」の金額はピンキリであり、「富裕層」ほど青天井になる。家計のゆとり度と年収の多寡とは必ずしも一致するわけではなく、年金生活で年収は低いが多額の金融資産があったり、高年収でも多額のローンを抱えているなど自由になる金が少ない世帯もある。家のローンを完済した持家に住む層は、それまで毎月支払っていた住宅ローン返済額が自由に使えると考えれば明らかだろう。その金額が仮に10万円であれば、毎月洋服が買える、夫婦で1泊旅行に行ける、観劇やコンサートに行ける計算だ。

今消費者は、デパ地下で食品を買わず、近くのスーパーで購入、ナショナルブランドではなくプライベートブランド商品、低価格、オトクな商品を買いに行くようになってきている。百貨店では、売上の成長を維持していた、不況知らずのはずの化粧品が08年12月からマイナスに、2007年以降継続して唯一前年比プラスを続けていた「菓子」ですら、09年2月以降マイナスに転じた。百貨店で唯一売上が減少しない品目だったデパ地下のスイーツまでが減少した。売れているのは、ユニクロやニトリといった一定の品質はあって低価格のもののみだ。

ここで不況下に消費者がとる行動を整理してみよう。
不況で、解雇、賃金カットなどに遭うと、その雇用不安・将来不安によって消費は縮小する。その際に消費者がとる行動は、(1)自分の中でお金をかけてもいいものとかけたくないものを選別する、(2)代替手段のないものよりはあるものの消費を削減する、(3)より安価なものを選ぶ、(4)我慢しないで移行できるものへ(移行が難しくないものへ)、変わる。その具体的方法は、aクーポン券・割引、ポイントなどの利用、bアウトレット、ディスカウントショップなど店を選ぶ、cセール時やタイムセールなどタイミングを選ぶ、などが挙げられる。

こうした、生活に余裕がなくなった時に行なわれる消費行動を、生活に余裕のある層までがこぞって取り入れだしたというのが、今の状況だろう。

これまでと収入は変わらないのに消費を縮小させている層が、この不景気を拡大させているのではないかと思えてくるのである。
消費イメージ