「節約」というトレンド、「お得」という消費の免罪符 (その2) ~皆が生活が苦しくて節約をするのか~
その1では、消費は節約ムード一色だが、皆の生活が苦しくなったわけではないこと、その一方で、実はこれまでと収入は変わらないのに消費を縮小させている層がこの不景気を拡大させているのではないかという問題提起をした。その2では、生活が苦しくなっていない、今回の不況に左右されていない人たちについて考えてみたい。
若原 圭子 主席研究員
「その1」では、現在、消費は節約ムード一色だが、皆の生活が苦しくなったわけではないこと、その一方で、実はこれまでと収入は変わらないのに消費を縮小させている層がこの不景気を拡大させているのではないかという問題提起をした。その2では、生活が苦しくなっていない、今回の不況に左右されていない人たちについて考えてみたい。
生活が苦しくなっている人たちが国民の過半数いる一方で、生活が苦しくなっていない人たち、今回の経済危機の影響をあまり受けていない層がいる。
電通総研が行った「消費気分調査」(図2)によれば、消費者は「ときどき節約、たまに贅沢」をしている。GDPや株価などのマクロ数字の落ち込みに対し、個人消費の感覚は、生活が苦しくなっている人も半数いるが、節約を意識するのは「ときどき(44.7%)」で、ちょっとした贅沢を「たまにする(39.6%)」のが多数派である。
メディアでは毎日「節約」や「消費の縮小」が叫ばれているが、一部の生活もままならない人以外は、こうした意識なのではないか。
その「ちょっとした贅沢」の上位3位は「旅行(33.9%)」、「外食(26.2%)」、「食事・食材(21.6%)」である。どれもマクロ数字では売上が落ち込んでいる項目であり、ここで言う「たまに」という頻度が曲者だ。「たまに」というものの実際には以前より頻度が低下しており、これが客数減少に、ひいては売上低下につながる。そこで企業は集客アップを狙って単価を下げるが、客数は伸びず、じり貧に陥っている、という負のスパイラルがさまざまな業界で起きている。
また、その節約の度合いを年収別にみると、年収が高い人ほど「変わらない」人が多いという傾向がみられる。生活が苦しくなっていない人とは、年収が高い人、金融資産を持っている人などが考えられる。
<図2今の消費の気分>
博報堂が年収1500万円以上の男女500人を対象に08年12月に行った調査では、富裕層の7割弱が保有資産は「減少した」が、世帯年収、小遣いともに「前年と変わらず」(8割)、今後半年の見通しも「変わらない」(7割強)と回答している。彼らが従前と消費行動が変わらなければ、マクロの数字の落ち込みを若干は抑えることができそうなものだが、消費に対しての意識は、「消極的になった」が4割と、経済的に余裕がある人までが、「ときどき節約」をしてしまっている。
一方、金融資産を持っている層はどうだろう。富裕層といわれる純金融資産1億円以上の人たちは2007年時点で90.3万世帯で、年々増加している(08年10月野村総合研究所調べ)。これは、ニートと呼ばれる若年無業者62万人(06年)の倍以上の数だという。彼らはサブプライムローン以降の株価下落等で資産が目減りしたと言われているが、実際は逆に資産を増やしている層もいるようで、彼らの消費意欲は落ちていないという(富裕層限定のプライベートクラブ「ゆかし」を運営するアブラハム・グループ・ホールディングスアンケート調査結果)。
内閣府の国民経済計算によると、2007年度の個人金融資産は、前年比4.0%減の1,503兆6,000億円となった。この資産の過半数は60歳以上が保有していると考えられ、その偏在傾向は強まるという(04年度末では54.4%:第一生命経済研究所算出)。現在、年金生活者も富裕層も、株などの投資で大損をした人以外は、低価格商品やお得な商品があふれて、逆に生活が楽になっていないだろうか。
高齢者ほどお金を持っており、これを消費に回してもらう必要性がいつも問われているのだが、小野善康・大阪大教授は、「守銭奴的な貯蓄過剰」が不況の一因であると述べている。人は消費に飽きると、買いたいものがなくなるが、お金はあればある程嬉しいので、「貯めすぎる」という行動を起こす。これが不況につながるというものだ。
景気後退局面では、生活に苦しい人たちに配慮したマスメディアの報道で、節約ムード一色になって、贅沢消費に関しては消極的になりがちである。あるいは、このご時世に贅沢消費は不謹慎といった風潮もある。リストラに遭った近隣や親せきへの気遣いから、海外旅行や新車購入を控える動きもあるだろう。そこで、「エコ」とか「お得」という言葉が消費をする免罪符になっている傾向があるのではないかと思うのだ。
今生じている消費現象、たとえば、「遠くへ行かずに家で快適に過ごすために決して安くはないものも買う『巣ごもり消費』」や、「H&Mやフォーエバー21といった『ファストファッション』の店に並んで5点合計1万円の買物をする購買行動」、「高速道路を利用して『アウトレット』で高級ブランド商品を買う」といった行為は、マインド的に消費を控えているように見えるが、消費をしたい人に財布のひもを緩ませる言い訳にすぎないのではないか。逆にいえば、それが消費をさせるきっかけという見方もでき、どのようにし向ければ、”ないわけではない”お金を使ってもらえるかということになるのだろう。
3月、4月の消費動向調査、家計消費指数では消費が回復基調にあることを示し始めた。
また、一般企業の状況をみても、2009年3月期に増収増益の企業が7社に1社ある。製造業では夏のボーナス予測が大幅減少と大きく報道されたが、非製造業平均は微減であるし、通信や電力などの内需型業種では増額の動きもあり、すべての企業がどん底にいるわけではない。
景気回復までは時間がかかるとされるが、富裕層とまでいかなくても、マインドだけで消費を縮小している人たちに「不景気時に消費をするのは、消費の縮小を食い止め、回り回って自分の家計をもよくする経済にとって重要なこと」であることを、政府もメディアもアピールする必要を感じる。