ニューツーリズムの流通を目指す新しい動き
広域圏でニューツーリズムの流通を模索する動きが出てきています。ここでは、ニューツーリズムの観光資源を流通させる地域の新たな動きをいくつかご紹介します。
中根 裕 主席研究員
平成19年6月に三重交通㈱の100%出資により設立された㈱観光販売システムズは、三重県のニューツーリズム資源を流通に載せようとする組織ですが、三重県内の地域と密着した観光資源や観光素材を大手旅行会社とを結びつける、いわばBtoBの流通を促進させるための会社です。一民間の会社ではありますが、三重県観光販売システムズ協議会の事務局としても位置づけられ、三重県の観光プロモーションや情報発信などの公的事業も受け持つと共に、旅行商品に至る前の地域や資源に対する旅行商品化、プロモーション、キャンペーンなどのコンサルティングも機能として果たしています。
一方、協議会メンバーとしてジェイティービーを始め大手旅行会社が参加しており、大手旅行会社にとっては、三重県の地域ならではの新しい観光資源や情報を、各社各々で収集する手間やコストを㈱観光販売システムズが代行してくれる、というメリットがあります。その実績としては、世界遺産に登録された「熊野古道」を複数の旅行会社によってシャトルバスを運行させ、旅行商品化に結びつけた例などがあげられます。
最近、観光庁が研究を始めた「観光まちづくり事業体」をはじめ、地域の中で横断的な観光連携推進組織の設立が注目されていますが、あくまで地元主導で、一地区あるいは一観光地単位の事業体です。それに対し㈱観光販売システムズは旅行会社の立場から、三重県内全体の地域と、大手旅行会社との新しいマッチングをはかる組織として位置づけられます。地元の旅行会社だけに地域に詳しく、なおかつ旅行会社としての業界事情や専門性を活かして大手旅行会社に訴求できる、という両面性を活かした例と言えます。まだ設立されて年数が浅いので、ビジネスモデルとしては今後を注目したいですが、きめ細かい地域の資源や情報を大手旅行会社(マーケット)とを橋渡しする新しい触媒機能として期待されるところです。
この三重県の例だけでなく、広域圏でニューツーリズムの流通を模索する動きが出てきています。例えば北海道では、北海道経産局の支援と北海道大学との連携の下、「北海道旅行業組合」を官学民により設立しました。目指すのは旅行会社と旅行者が、道内の埋もれている地域資源をネット上で検索し、旅行を組み立てる旅行商品支援システムです。これは現時点ではシステム開発の途中のようですが、地域のポータルサイトという情報発信だけに留まらず、予約、購買、商品化などの新しい流通モデルとして流れを生み出すかが問われるところでしょう。
三重県の例とこの北海道の組合の違いは、主に地域と旅行会社との中間に介在するのが、組織かシステムかの違いとも言えます。現実には旅行業法の問題、旅行契約の問題等々、克服すべき課題は残されますが、何よりも問われるのは、マーケットの立場である旅行者に魅力ある新しい旅行として伝わり、旅行行動を喚起することがポイントでしょう。