『変革する観光旅行産業-「ニューツーリズム」の時代』 その4:薄れる旅行会社の中間価値。地域資源と消費者を結ぶ役割を

旅行会社の手数料ビジネスは変貌が問われている。旅行会社の中間価値は薄れつつあるが、いま地域と消費者を結ぶ役割が期待されている。(この文章は、平成21年5月27日の日刊工業新聞に掲載されたものです。)

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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わが国の旅行業界は東京オリンピック(1964年)や大阪万博(1970年)をエポックとし、同時期の新幹線や高速道路整備そしてジャンボジェット機の就航など、大量輸送機関の発達による旅行の大衆化を背景として発展してきた。そして旅行の大衆化はいかに多くの人を効率的かつ手軽に旅行させるかの方向に向かい、そのモデルとして各社パッケージツアー(募集型企画旅行)を生み出した。旅行に関わるサービスを一つ一つ個人で予約する手間を代行し、まとめてパッケージ化することで価値を生み、供給事業者から「コミッション(販売手数料)」を受け取るのが、旅行業のビジネスモデルである。ただし業界の取扱額は96年をピークとして、その後低迷しており(図-1)、旅行する際の旅行会社利用率も国内旅行で30%程度でしかないのが実態である((財)日本交通公社調べ)。

この原因の第一に挙げられるのが、インターネットの普及である。ネットにより顧客が情報をダイレクトに入手でき、さらに予約決済も可能となると、従来の旅行会社の中間価値が薄れ、いわゆる”中抜き”現象が表れている。もちろん、旅行会社も手をこまねいている訳ではなく、ネット販売へのシフトや、顧客にとって付加価値のある中間機能へ向け各社模索しているのが現状である。

「着地型」モデル模索

一方、多様化や個人志向化する顧客ニーズに対応するため、旅行会社と地域との関係も変化を余儀なくされている。これまで旅行会社のパッケージ旅行を構成する宿や観光施設は、概ね各社似たり寄ったりの品揃えであった。しかし前回まで述べたように、旅行者のニーズが多岐に渡り高度化することで、求められる素材はこれまでの旅行会社の契約先や情報の範囲に収まらなくなっている。さらに一つ一つの需要が一部のマーケットであり、限られた規模のため、”多品種・小ロット(需要)”の旅行商品が求められているのである。

近年、国内観光の分野で「着地型観光」と言われているが、これは大手旅行会社が仕入れから販売まですべて行うのでなく、地域を知っている地域の側で資源を発掘し、顧客の求める旅行商品を創りあげようとする動きである。地域性や専門性の高い資源発掘に関わる手間やコストを地域側と分担し、旅行会社はその販売力に役割をシフトする流通システムである。この動きはまだ模索中であり、旅行会社としては、この地域主導の商品開発に対して、いかに中間機能として価値と新たなビジネスモデルを見い出すかが課題となっている。

「マーケットイン」開拓

さらに旅行会社の将来という視点で言えば、「旅行業ビジネス」からの脱皮があげられよう。まずマーケットに対しては、旅行という商品サービスに留まらず、その根底にある余暇、趣味、生き甲斐等々、成熟化するライフスタイルに応えた「マーケットイン」のビジネス開拓である。一方「プロダクトアウト」の視点では、地域にとって第三者の立場だけでなく、地域と同じ土俵に立ち、観光資源の発掘、商品化に取り組むことである。さらには旅行商品にとどまらず、地域の物産や食、環境、文化等々のさまざまな資源と消費者を結ぶ役割とビジネス開拓も期待できる(図-3)。

こうしてみると人の旅行を仲介してきた旅行業の将来は、人、モノ、文化等にわたり、都市と地方の相互交流をサポートしプロデュースする「交流文化商社」へ脱皮することであろう。何より重要なのは、これは業界のビジネス開拓であると同時に、それによって国民一人一人が自分の求める価値を見いだし、その対象として国内地域に目が向けられ、日本全体が元気になることなのである。