国が進めるニューツーリズム支援事業から ~生活感そのものがキラーコンテンツ~

以前、当コラムで国土交通省(現観光庁)が取り組む「ニューツーリズム創出・流通促進事業」について書きましたが、(『創出・流通に本腰入れる政府』 2008.7.28号)平成20年度の支援モニターツアーが終了しましたので、そこから得られたポイントをいくつか紹介します。(この文章は、トラベルジャーナル誌 2009年3月16日号に掲載されたものです)

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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目次

当事業は平成19に年度から実施され、新たなテーマや資源について、地域と旅行会社が連携して旅行商品という形で取り組むモニターツアーに国が一定額を支援した事業です。平成20年度では全国で69件のモニターツアーが実施され、平成19年度と合わせると110件を上回るツアーが催行されました。

(1)「ニューツーリズム」に対する意識、関心の高まり

「ニューツーリズム」というキーワードや考え方に対する地域、行政、旅行会社の関心が急速に高まっています。採択された件数の多さも勿論ですが、先月、全国5箇所の主要都市で、当事業の結果に対する報告セミナーを実施しましたが、2008年に比べ多くの方々が参加され、活発な質疑が交わされました。この僅か1~2年に立場を越えてニューツーリズムへの関心が急速に高まっています。

(2)専門性の高さと価格、集客とのジレンマ

実施されたモニターツアーのテーマとして多かったのが、グリーンツーリズム、エコツーリズム、ヘルスツーリズム等です。ただし、そのテーマに対しどの程度専門性を追求して実施したかについては、手軽に参加できるものから各分野の専門家とタイアップし、まさに「ディープなニューツーリズム」として取り組んだものまでまちまちでした。ただしポイントは集客や利用者の評価はディープなツアーが高いのですが、異分野の専門家とタイアップしたため旅行価格が高くなってしまうことです。こうした専門性の高いツアーの募集経路としては、一般的な告知よりもマーケットを絞った募集の方が結果が得やすいと言えます。

(3)共通する評価要因「地域住民との交流」

テーマがグリーンツーリズムであれエコツーリズムであれ、利用客が共通して好評価していたのが、地域の観光事業者以外の一般市民との交流が図られたツアーでした。それはツアー中の一時であっても、一般農家で主婦にお茶をご馳走になったり、地域のボランティアガイドの生活ぶりを拝見できたり、地域の生活感そのものに触れられることが、ニューツーリズムのキラーコンテンツといっても良いかも知れません。

(4)遠くの大都市よりも足下のマーケットから

このモニターツアーへの取り組みに共通して、集客、プロモーションに苦労されていました。しかしその中で大都市圏マーケットを対象としたツアーよりも、近接する地方都市や県という足下の住民をターゲットとして募集し、集客に成功した例がいくつか見られました。ニューツーリズムは今まで見過ごされていた地域の資源や魅力にスポットをあてたツアーです。それは意外に近接する地域の方々にとっても新鮮なツアーと映るのだと思います。また、それでは旅行会社の旅行商品として成り立たないという議論が生まれるかも知れません。宿泊化に繋がらないという指摘もあるでしょう。しかし地域発着のツアーであっても、全国マーケットにも載せられるものもでてくるでしょうし、他の資源や観光と結び付けることも考えられます。

東京で200以上のツアーを催行している「はとバスツアー」の利用者の中で、かなりの比率が東京都民であるという話は有名です。身近なマーケットは人口規模は大都市にかなわないものの、ニューツーリズム潜在的な需要と言えそうです。

最後にこうしたモニターツアーに共通して言える傾向ですが、限られた日程の中で「メニューを詰め込みすぎる」という点です。地域の皆さんが主体となって旅行商品を造りあげると、隠れた地域の資源や体験をあれもこれも知ってもらいたい、観てもらいたいという気持ちは理解できます。しかしモニターの反応として「もっと時間が欲しかった」とか「忙しかった」という多くの意見が聞かれました。ニューツーリズムは、そもそも地域の資源をじっくり観るからこそ、その良さが堪能できるはずです。高齢者の旅行が活発であればなおさら、のんびり、そしてじっくりと地域を魅力を堪能できる時間を提供することが、共通の課題と言えそうです。