<特別レポート>5年間で400万人の日本人が旅券を手放した!

海外旅行意欲が低下し、海外旅行が特別な存在ではなくなった。特に若者たちでその傾向が顕著だ。減少が続いている日本人の有効旅券数と、海外旅行マーケットの低迷についてレポートする。

磯貝 政弘

磯貝 政弘

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2010年の日本人海外旅行マーケット予測

海外旅行マーケットの低迷が続いている。
海外旅行が特別な存在ではなくなった。海外旅行意欲が低下した。特に若者たちでその傾向が顕著だ。だから、若者に対して海外旅行の意義や楽しさを”教育”する必要がある、等々。海外旅行マーケット低迷の原因は、いつしか教育論の見地から語られるようになった。

その一方で、経済的な格差拡大(そこには休みの取り易さに関する格差も含まれる)や本格的な少子高齢化に代表される日本の社会構造変化とそれにともなう将来不安の広がりをその原因に挙げる考えもきかれる。

こうしたことのいずれにも一理あるようにみえる。おそらく、それらが複合的に絡み合って引き起こされたというのが実態なのだろう。

さて、そうしたなかで2010年の海外旅行マーケットの規模が2009年末に相次いで予測された。財団法人日本交通公社の1660万人、株式会社ジェイティービーの1680万人など、いずれも2009年を大きく上回る数値である。新型インフルエンザへの過剰ともいえる反応によって大きく減少した5月6月の海外旅行者数は必ずリカバリーされるだろう。これに円高傾向の継続、企業業績の回復、首都圏2空港の発着枠拡大、上海万博など大型イベントの開催といったプラス要素と高止まりする失業率、勤労者所得の低下といったマイナス要素、さらに日本航空再建問題の行方をそれぞれどのように評価するかによって予測数値は変わる。

新規発給旅券数の増加が示すもの

こうしたプラス要素とマイナス要素(そして、未確定要素)に対する評価の違いが財団法人日本交通公社と株式会社ジェイティービーの予測数値の差にほかならない。ただし、前者の予測には興味深い観点が加えられている。それは、2009年のパスポート発給数が前年を上回ったということに注目し、日本人海外旅行マーケットが再び活性化への道筋に戻りつつあると判断している点である。

確かに、部分的には正しい指摘と思われる。
韓国との往来が盛んな九州においてパスポート発給数が前年を際立って大きく上回っているのだが、そこから2008年末以降の円高ウォン安で火のついた韓国ブームが潜在(休眠)需要を掘り起こしたという結果を導き出していることは、極めて正しい判断といえるだろう。

しかし、パスポートに関する外務省の統計資料を詳しく調べると、日本人海外旅行マーケットに数量的な回復への兆しがみえるという判断はできないことがわかる。このことを平成17年(2005年)から外務省のホームページでも公表されるようになった「有効旅券数」から明らかにしたい。

2005年からの5年間で約400万も減少した有効旅券数

外務省「旅券統計」によれば、平成17年末に34,934,463だった有効旅券数は、平成20年(2008年)末には31,935,917へと約300万も減少している。また、2009年1月~10月に有効期限が来る(失効する)旅券の数は、有効期限5年、10年のものを合わせて4,438,661である。それに対して2009年1月~10月に新規発給された旅券の数は3,503,633に過ぎない。差し引きすれば935,028もの減少が1月~10月までの10ヶ月間でみられたことになる。年末段階では、その数値はおそらく100万前後にまで膨らむだろう。

それでも2009年のパスポート新規発給数が前年を上回るというのはなぜか。
この謎を解くために、まずは2008年の旅券の失効と新規発給の状況を調べてみると、4,466,873の旅券が2008年中に失効し、3,800,523の新規発給があった。(2008年1月~10月の新規発給数は3,298,351)

一方、2009年中に失効する旅券の数は5,118,360と推計される。これは2008年と比較して14.6%増となる。それに対して2009年1月から10月までの新規発給数は3,503,633であり、前年比6.2%増である。

旅券の有効期限が切れる直前、直後に新たに旅券申請する人の割合が毎年一律であるとは限らないが、有効期限切れで失効する旅券数の増加が、2009年の新規旅券発給数の伸びをもたらした可能性は高い。ただそれだけのことといってもよいのかも知れない。
さらに、その増加率を失効率が大きく上回っている。このプロセスが繰り返されることで、統計が公表されるようになった5年間だけで400万もの有効旅券が消滅することになったのである。

ちなみにこの5年間の日本人出国者数をみると、2005年17,403,565人、2006年17,534,565人、2007年17,294,935人、2008年15,987,250人と続き、2009年は1540万人台と推測されている。2005年から2007年の3年間は1,700万人台でほぼ安定した数値を記録しているが、実はこの間も有効旅券数は2005年34,934,463、2006年33,547,168、2007年32,576,539と減り続けていた。

日本人海外旅行マーケットは、裾野が激しい浸蝕に遭いながらも、レジャー・観光目的、ビジネス目的、それぞれのリピーター層がそれを補ってバランスを保持してきた。それがリーマンショックを契機にあっけなく崩れた。このバランスがどの時点で回復するのか。年内には回復しない、あるいは一部しか回復しないという事態になれば、2010年の日本人海外旅行者数は1,600万人程度で終わる可能性もある。

いずれにしても、数量的には海外旅行関連業界にとって厳しい時代はまだまだ続きそうだ。