「海+α」求められる沖縄 ~成長への道しるべ 観光立国への課題~
日本人に人気が高いリゾート地、沖縄。地理的にも歴史的にも、日本とアジアの結節点にある沖縄が今後、アジアマーケットを見据えた国際リゾート地としての確立を目指していく中で、訴求のカギとなるコンテンツは何だろうか。
河野 まゆ子 執行役員 地域交流共創部長
「沖縄に、ビーチ以外にもこんなに見所があるなんて初めて知った」と那覇空港で出逢った台湾人の女性が言った。以前に沖縄に来たときは、安い費用でビーチに行けるからとパッケージツアーを選んだ。それから数年、今回インターネットで調べてみたところ、高級リゾートホテルの数々や充実した文化体験メニュー、洞窟やマングローブ林など、沖縄の観光素材の豊富さを初めて知った。その多くは、かつてパッケージツアーに参加しただけでは垣間見ることもできなかったものだった。「今回は家族だけの個人旅行。訪日機会の少ない母には買物も欠かせないようなので、東京に寄って帰ります」と照れ笑いをしていた。
沖縄には現在、台北、ソウル、上海、香港からの直行便が運航しており、近隣アジアからの注目度も高まりつつある。沖縄における外国人延べ宿泊者数をみると、台湾人が最も多く約11万8千人泊、次いで香港5万6千人泊。台湾、香港、韓国、中国の合計で、訪沖外国人延べ宿泊者数の70%以上を占めている(2008年、観光庁「宿泊旅行統計調査報告」)。
沖縄と聞いて我々日本人が真っ先に想像するのが、透き通る青い海と珊瑚礁、ハイビスカスの咲く亜熱帯ビーチの風景だろう。だが、アジアの人々がこれまで慣れ親しんできた『暖かい異国のビーチリゾート』はプーケットやバリ、セブのビーチだ。東南アジアに行くほうが沖縄よりもかなり安く済むこともあり、「ビーチだけなら東南アジアで充分」と言う旅行者がまだ多い。また、中国人にとっては、ビザ申請の手間がない国内旅行の範疇に海南島というリゾートもある。
先に述べた台湾人旅行者の言うように、「ビーチだけではない沖縄」が今後アジアからの旅行者を誘引する鍵になることは間違いない。
とはいえ、世界でも稀にみる上質なダイビングスポットでもある沖縄の美しい海が主要な観光資源であることは自明である。アジア市場に対して伝えるべき内容は、「美しい海を軸に、そこでなにができるか」だ。この数年で日本人の間で一大ブームとなった沖縄リゾートウェディングだが、チャペル周辺の景観の良さと、日本ならではの洗練された挙式スタイルでアジア市場に対しても今後有望なプログラムだ。親族や友人を大勢招待する、いわゆる「派手婚」の伝統を持つアジア諸国だが、近年は日本と同様に、ごく親しい人だけで気兼ねなく記念に残る挙式をしたいというニーズが増えており、沖縄のリゾート挙式への注目度は非常に高い。
他にも、マスゲーム的な勇壮さで知られる沖縄の伝統芸能エイサーや、亜熱帯ならではの色とりどりの魚が並ぶ、地域色豊かな牧志公設市場の界隈、鬱蒼とした原生林を活かしたアクティビティなどが沖縄の新たなPRポイントとしてアジア発側の旅行会社から注目を集めている。
ビーチ以外の沖縄らしさをアピールする際にポイントとなることは、沖縄が「日本」であり、「琉球」でもある点だ。例えば、日本への造詣が深い台湾人や韓国人旅行者の日本でのお目当ては、温泉と日本食。和風温泉旅館がないうえ琉球料理が中心の沖縄は、純粋なる『日本風』を求める層にはアンマッチとなる。一方で、中国の文化を色濃く残す建築様式や、日本食よりも台湾料理に近いと言われる琉球料理など、東アジアの人々にとって親しみやすい文化も多い。
沖縄は、まさにアジアと日本の結節点にある。東南アジアでは味わえない日本ならではの洗練されたサービスが充実している利点はそのままに、かたや日本本土では決して味わうことのできない豊かな海山の自然や特異な歴史文化を併せ持つ”アジアンリゾート沖縄”としての差別化が、いま沖縄に求められている。
出典:日経MJ 2010年5月17日掲載のコラムを加筆したものです