出国率が低い地域における海外旅行に対する意識と羽田空港の国際化について
2009年における都道府県別の出国率を見ると、首都圏では18.7%であるのに対し、出国率が7%に満たない道県が23もある。 JTBが2010年10月に実施したオンライン調査の結果をもとに、出国率が7%に満たない地域に住む人が海外旅行に対してどのような意識を持つのか、また、羽田空港が国際化することにどの程度期待しているかについて考察した。
田中 靖
目次
JTBでは、2010年9月に出国率が7%未満の23道県(以下、「地方」と表記)と首都圏(4都県)の居住者を対象としたオンライン調査を実施し、消費や旅行に対する意識や羽田空港発の国際便の利用意向を調査した。本稿では、同調査にもとづき、「地方」に住む人が海外旅行に対してどのような意識を持つのか、また、羽田空港が国際化することにどの程度期待しているかについて考察する。
【調査概要】
- 調査名 :JTB「出国率7%未満の地域における消費と旅行に関する意識調査」
- 調査方法:オンライン調査
- 調査実施期間: 2010年9月24日(金)~9月28日(火)
- 調査対象:2009年1月~12月の人口に対する出国者の比率が7%未満の23道県ならびに首都圏4都県に在住の20歳~75歳の独身男女
- 地域区分:「地方」北海道(北海道)
東北(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)
甲信越・北陸(新潟、富山、石川)
中国・四国(鳥取、島根、山口、徳島、愛媛、高知)
九州・沖縄(佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)
首都圏 (東京、神奈川、埼玉、千葉)
・サンプル数:「地方」1,510人(男性742、女性768)、首都圏257人(男性131、女性126)
同じ旅行費用であれば、海外旅行よりも国内旅行を選択
東南アジア、ハワイを含む海外と、北海道、沖縄、東京などの国内について、「同じ旅行費用で旅行できるとしたらどこを選ぶか」を調べたところ、出国率が低い「地方」も出国率が高い首都圏も、1位が北海道、2位が沖縄、3位がハワイとなった。4位以下は、「地方」では国内の旅行先の方が海外よりも人気が高いという結果となった。(図1)
また、旅行したい方面は、海外旅行経験別によって大きな差があることが明らかになった。「地方」でも「最近1年間に海外旅行をした」人は、1位にハワイ(40.7%)、3位に東南アジア(29.4%)、6位に韓国(14.9%)を選んでいる。逆に「海外旅行の経験のない」人の選ぶ目的地の中で、ハワイは5位(17.1%)で、4位の東京(27.1%)に大きく水を空けられている。(表1)
「地方」では海外旅行経験がない人が多いため、全体では海外よりも国内方面の旅行を選択する人が多くなるが、「地方」居住者でも海外旅行頻度の高い人はハワイや東南アジアを旅行先に選ぶ人が多いことがわかる。
海外旅行経験の少ない人にとって、海外旅行はまだまだ特別なもの
「国内旅行に比べて海外旅行に行きづらい理由」を見ると、「地方」居住者合計では、「費用が高いから」を選ぶ人がほぼ50%を占めている。(表2)
海外旅行頻度別に見ると、「最近1年間に海外旅行した」人では、「目的地に着くまでに時間がかかるから」が36.1%、「出発前の前泊や帰国後の後泊を必要するから」が20.6%と、アクセスの悪さを理由に選ぶ人が多く、「特に行きづらい、行きたくないと思うことはない」を選ぶ人も28.4%と多い。
一方、「生まれてから海外旅行の経験はない」人は、「言葉が通じないのが不安だから(48.5%)」、「国内旅行の方がゆっくり出来るから(30.3%)」、「食事が合わないから(22.2%)」、「海外に行きたいとは思わないから(29.9%)」などを選ぶ人が多い。
このように、海外旅行経験のない人にとって、海外旅行はまだまだ高価で特別なものであり、国内旅行のように気軽に出かけるものではないことがわかる。
海外旅行で最寄りの空港から直行便を利用は、海外旅行した人の24.2%
「地方」居住者のうち海外旅行経験のある人について、「最近の旅行における目的地までの移動手段」を問うた所、地元空港から直行便やチャーター便で移動した人は「地方」居住者合計の24.2%に過ぎず、大半の人が他空港での乗り継ぎや他空港まで陸路で移動している。(表3)
居住地域別に見ると、最寄りの空港から国内の空港で乗り継いで目的地へ向かう人は、北海道が最も多く(46.5%)、九州・沖縄(40.2%)がこれに次いでいる。一方、陸路で移動して国内の別の空港から出発した人は、甲信越・北陸の36.9%(直行28.3%+海外乗り継ぎ8.6%)が最も多く、東北の33.1%(直行29.4%+海外乗り継ぎ3.7%)がこれに次いでいる。
このように、「地方」居住者にとって、地元の空港から直行便で行ける海外旅行先は限られており、空港での乗り継ぎや陸路での移動が多く、目的地に着くまでの時間や労力が多くかかる。
羽田空港の国際化への期待は?
「10月の羽田空港国際化に伴い、羽田発の国際線を利用する意向」について調査した。
「羽田空港発であれば利用したい」という回答は、首都圏居住者合計では63.4%あるのに対し、「地方」居住者合計で24.8%に留まっている。(表4)
「地方」居住者について海外旅行経験別に見ると、「最近1年間に海外旅行をした」人は、「羽田空港発であれば便利なので利用したい」が41.1%で、海外旅行経験の多い人は羽田空港の国際化への期待は大きいが、一方で「羽田空港までの移動が安くなるなら利用したい」が34.2%、「出発前や帰国後に宿泊しなくても良いなら利用したい」が25.3%と高く、「地方」居住者が羽田空港発の国際線を利用するための条件がよく現れている。
「地方」居住者が期待する便は?
「地方」と首都圏の羽田空港からの国際線の利用意向を海外旅行経験別に表5、表6に示した。
表5の「地方」居住者の「最近1年間に海外旅行をした」人では、「ぜひ利用したい」はロサンゼルス行き(18.9%)が最も高く、パリ行き(18.4%)、バンコク行き(18.4%)がこれに次いでいる。最も低いのはニューヨーク行き(11.6%)である。
表6の首都圏居住者の「最近1年間に海外旅行をした」人では、「ぜひ利用したい」はパリ、ロサンゼルス、バンコクが共に27.9%で、ニューヨーク行きは16.4%で最も低くなっている。
ニューヨーク行きは羽田出発が朝7:00、羽田帰着が22:30であるため、「地方」居住者のみならず首都圏居住者でも利用しづらい時間で利用意向も低くなっている。ホノルル行きは現地到着が12:40で、ホノルル到着後に空港から直接ホテルへ向かいチェックインが出来る時間帯であるが、羽田帰着が22:30と遅いため利用しづらい人が多いものと推察される。
まとめ
本調査をもとに、「地方」居住者の出国率が低い要因として以下の通り推測する。
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現地までのアクセスに時間や労力がかかる
地元空港から海外への直行便は少なく、国内外の空港での乗り継ぎや、他の空港まで陸路の移動が必要で、目的地に着くまでに時間や労力がかかる。場合によっては乗り継ぎ空港で長時間の待ち時間が生じたり、海外旅行の出発前の前泊や帰着後の後泊が必要となったりする。特に2泊~3泊程度の短期間の旅行では、移動に時間や労力を必要とする海外旅行よりも国内旅行を選ぶ比率が高い。
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費用が割高となる
他空港までの乗り継ぎや陸路移動に費用がかかり、国内旅行と比べて割高になる。地元空港発の廉価な海外旅行であれば、行き先を国内にするか海外にするか比較の対象となるが、他空港を利用する場合は国内旅行よりも割高になる傾向が強い。
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海外旅行経験の少ない人は、海外旅行を特別なものと考える傾向が強い
海外旅行をある程度経験した人にとって、現地における言語や食べ物の問題は旅行を楽しむ上でさほど大きな障害とはならない。ところが、経験が少ない人の場合は、海外旅行を特別なものと捉え、準備も大変で面倒だと感じる傾向が強い。その結果、海外旅行よりも気軽に楽しめる国内旅行を選択する人が多くなっている。
「地方」では海外旅行者数が少ないため、地元空港発着の国際線定期便数の増加はあまり期待できない。「地方」居住者の出国率を高めるためには、単に廉価な商品を提供するだけでなく、地元空港発のチャーター便を増やしたり、他の国際空港へのアクセスを良くするなど、旅行者の利便性を高める必要がある。
国際線が首都圏に一極集中する傾向が強まっている昨今、地方空港と首都圏の国際ハブ空港間のアクセスの良さが確保されなければ、「地方」居住の海外旅行者数の増加も期待できない。
もともと「地方」では海外旅行の際に乗り継ぎや他空港の利用が多い。羽田空港の国際化に伴い、地方から羽田空港発国際便へのアクセスが容易で、地元空港から羽田空港までの乗り継ぎ料金が無料や廉価の国際便もあることが広く認知されるにつれて、「地方」居住者の羽田空港発国際便の利用者も増えていくものと期待できる。