戦後60年のライフスタイル・価値観の変化と今後の旅行の行方

格差の中、開放的な平等さを好み、グローバル化を進める層と、移動をせず地域から出ない層との二極化が顕著だ。時間はあるが金がない層と、金はあるが時間がない層の二極化も進む。主に後者は睡眠時間を削り移動をしている。この時間と移動の現実を最適化し取り込むことが交流を需要喚起し、市場を拡大することにつながるのではないか。

若原 圭子

若原 圭子 主席研究員

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目次

高度経済成長からバブル崩壊、失われた20年という長期時間軸のなか、何が変わって何が変わらなかったのか。さまざまな政治、経済、科学技術の進歩の中、大きく変わったのは距離と時間の概念だ。

右肩上がりの経済成長が望めない今、経済成長を知らずに育ち将来に不安を大きく抱える若い世代と、高度経済成長とともに消費を謳歌し年金も満額受け取っている世代との世代間のギャップは大きい。しかも、同じ世代でも様々な格差は拡大し、多くの人々は自分のこだわりを優先しそれ以外は節約をする生活を送っている。インターネットの進展で情報化が進み、消費への選択眼はより高度になっている。格差の中、開放的な平等さ(オープン、フラット)を好み、グローバル化を進める層と、移動をせず地域から出ない層との二極化が顕著だ。時間はあるが金がない層と、金はあるが時間がない層の二極化も進む。主に後者は睡眠時間を削り移動をしている。この時間と移動の現実を最適化し取り込むことが交流を需要喚起し、市場を拡大することにつながるのではないか。

1 社会変化の中での価値観の変化

(1)社会変化

2011年3月11日の東日本大震災は、近代の日本の3つの変革の一つとなるという話を複数の識者から聞いた。第一は明治維新、第二は第二次世界大戦、第三がこの震災だ。人々の行動や意識に大きな影響を与える転換期になるという。この年がまさに㈱ツーリズム・マーケティング研究所の10周年にあたることから、これまでと今後の社会の変化、価値観の変化をやや長いレンジで見てみたい。
戦後の高度経済成長期から、今日、そして2025年までの人々の生活にインパクトを与えた事象を年表にしてみた。PESTフレームワークを使って政治的(政策、規制)(P=political)、経済的(E=economic)、社会的(S=social※)、技術的(T=tchnological)側面からみてみよう。

政治(政策、規制)、経済

政治、経済的な部分からみえるのは、戦後の焼け野原からの復興、高度経済成長、そしてバブルとバブルの崩壊後の長い低成長期である。経済成長期に、高速道路の整備を機にモータリゼーションが進展する。新幹線の整備は引き続き未来まで続くが、この間に長距離の移動時間を短くするということが可能になった。地方空港の是非はあるが、空港の整備も進んだ。
1980年代は、貿易摩擦のなかで国際化と規制緩和、公社の民営化が進み、バブル経済へ突入する。
そして1990年代のバブル経済の崩壊。低成長期に入った1990年以降の日本は大きく変動する。さまざまな法律が改正され、規制緩和が進む。企業は、競争力強化の必要性に迫られ、コスト削減のため、また将来の需要の不確実性への対応のため、 正規雇用の採用を抑制し、非正規雇用の従業員を増やすことで労働力をまかなっていくようになっていく。同時に、年功序列、終身雇用制度も崩壊していく。こうして、人々は働き方が変わり、安定した人生から自助努力の人生へ徐々に移っていく。

戦後から未来への年表 ※年表をPDFで見る
出所:野村総合研究所「過去年表」「未来年表」より抜粋

◆経済成長率の推移
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出所:社会実情データ図録

◆非正規雇用者比率の推移(男女年齢別)
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出所:社会実情データ図録

技術

1990年代にインターネットが普及し始め、パソコンや携帯端末の時代へと移る。80年代までに、車や新幹線が、物理的な距離をより短く、よりやさしく移動することを実現したが、インターネットは物理的な距離や時間を超えて多くのことを実現可能にした。とりわけ、オンラインショッピングや決済では、買物や銀行へ行くという行為自体を必須行動から選択肢の一つにした。また、情報量の拡大と入手のしやすさで情報価値の価格が下がり、誰もがいつでも大量の情報を安い価格で簡単に入手できるようになった。この結果、印刷機の発明以来、情報の伝達に重要な位置を占めていた、紙媒体の印刷物は大幅にその価値や必要性を低下させている。また、TVのようなマス媒体ですら、インターネットの進歩にすでに立ち位置を奪われ始めている。

◆インターネット普及状況
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出所:社会実情データ図録

社会

1990年代のこの間に急速に少子高齢化が進み、2005年には日本の総人口が減少し始めるのである。縮小する社会に、もはや右肩上がりの経済成長は見込まれない。グローバル化の中で、よほどうまく経営しなければ企業は成功できない。高学歴化し、男女ともに大学進学率50%を超えた現在、誰もが希望する企業への就職、希望する地位へ進むことは難しい。人口も経済も右肩上がりの時代には、経営も仕事も人生も、上手くやれば大成功し、普通にやって上手くいき、上手くできなくてもどうにかなった。今や、相当上手くやらない限りは順調にはいかず、普通にやっていてどうにかなるかどうか。上手くできない人は、それなりの道しか残されていない。こうして学歴も経済も職業も生活も、勝ち組と負け組の格差が拡大し、二極化の時代となっている。
弊社で将来ビジョンを描くために未来シナリオを描いたが、最終的に晴天のシナリオになるか、豪雨になるかは、景気等に裏打ちされたこの二極化の上位と下位の比率いかんによるという結論に達した。

◆大学・短期大学への進学率の推移
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出所:文部科学省「平成21年度学校基本調査」、社会実情データ図録

(2)ライフスタイルと価値観

次に、こうした社会環境の中で、人々のライフスタイルや価値観はどうなったのかを考察したい。

欲求と余暇活動

社会が成熟化し、消費も成熟化すると、人々の欲求や関心は、生存・生活維持から社会的なものや自己実現へと変わっていく。価値観の多様性が認められる社会では、晩婚化、少子化などが進む。物質的な欲求は満たされ、心の充足のための欲求が強くなる。1980年(昭和55年)には物の豊かさよりも心の豊かさへの欲求が高くなった。しかし、現在でも、生活の程度で「中の下以下」と意識する層や若年層では、「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」の比率が高い(中の下44.3%、下51.1%)。

◆これからは心の豊かさか、まだ物の豊かさか(時系列)
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出所:内閣府「平成23年度国民生活に関する世論調査」

一方、生活時間の32年間の変化をみると、有職男女ともに睡眠時間が減少し、趣味と移動(通勤通学以外)時間が増えている。その傾向は女性の方が強く、趣味や用事のための外出のために睡眠を削っているともいえる。
人々は、余暇時間にはなにをしているのだろうか。2009年の行為率はビデオ・DVD鑑賞、パソコン、読書、外食・グルメ・食べ歩き、映画・演劇・美術鑑賞、ドライブ、音楽鑑賞、国内旅行の順であるが、1997年から2009年までの12年間でみると、増加したのは、パソコン(22%増)、外食・グルメ(5.5%増)、テレビゲーム(3.3%増)、読書(3.1%増)、国内旅行(2.3%増)となっている。インターネットの浸透はこの10年あまりに急拡大したものだが、そのほか増加したもののうち、移動を伴うものは外食と国内旅行。一方で移動を伴わない余暇活動も増加している。家でお金をかけずに時間を消費できるものが増加しているのも確かだ。

◆生活時間配分の変化(1976年~2008年)
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出所:社会実情データ図録

◆余暇活動の推移
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ジェンダー

男女差の問題はどうだろう。晩婚化し、未婚者は男女ともに増加。年齢別未婚率も上昇の一途である。本人の希望かどうかは別として、子供のいない夫婦も増加しており、また出産年齢も多様化している。男女間意識調査で、「結婚する、しないの自由」への賛否は近年横ばいになっているが、「夫は外で働き、妻は家庭」という意識は、依然として減少が続いている。実際、共働き世帯は1990年代後半以降、専業主婦世帯と逆転して、今や共働き世帯の方が一般的となっている(ただし、働き方では妻のフルタイムは少ない)

◆年齢別未婚率の推移
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出所:社会実情データ図録

◆母親の年齢別にみた出生数の割合
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出所:社会実情データ図録

◆結婚観、家庭観に関する意識の推移
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出所:内閣府「平成21年度男女共同参画社会に関する世論調査」

健康

働き方が多様になり、男女を問わず、結婚も子供を持つことも必ずしも必須のものでなくなり、自分の人生は自分の価値観で作っていけるようになった。しかし、経済は停滞し、雇用の安定性は以前ほどなく、なにごとも自己責任性の高い、生活も経済も二極化の人生を送らざるを得なくなった。
医療技術の進展もあり、平均余命は上昇している。しかし、うつなどメンタル面での不調をきたす人が増加している。

◆結うつ病・躁鬱病の総患者数
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出所:社会実情データ図録

世代間格差

世代間の格差、不公平感も強く、少ない生産年齢人口で多くの高齢者を支えなければいけない時代を迎え、若年層ほど、将来に夢を描けず消費にも消極的と言われている。
日経新聞の調査によれば、一番幸せなのはどの世代か、という質問に、20代の46%、30代の54%が「親、祖父母世代」を挙げ、50代以上は「自分の世代」が圧倒的、とりわけ60代以上で顕著だった。一方で「子供、孫世代」はどの世代でも最下位だった。働き世代が上の世代の幸せに及ばず、自分の子供や孫の代にはより厳しい未来が待っている。20年後の労働力を賄うには、「高齢者」や「女性」の活躍、もしくは「働き手が少なくても成り立つような新しい産業を伸ばす」といった新たな方策を導かないと、活力はどんどん失われていく。
3.11の震災後、「絆」、「社会貢献」への意識が高くなった。もともと、若者に意識の高かった「エシカル(ethical)」*1が多様な世代へ広がったともいえる。
トーマス・フリードマンが著作『フラット化する世界』で、インターネットなどの通信の発達や中国・インドの経済成長により世界の経済は一体化し同等な条件での競争を行う時代にいたると述べたのは2005年だ。また、最近では日本経済新聞が「C世代」と称するネットなどでつながる世代*2が、新たな働き方、価値観で時代を拓くという期待を持って連載、紹介した。オープンでフラットな関係を好み、コンテンツを発信し、情報を共有し、政治や企業に透明性を求める若年世代。その具体的行動は、途上国では「独裁の打倒」、新興国では「旧秩序に挑む起業」であり、先進国のカギは「貢献」だという。彼らは日経新聞社の調査で、20年後の日本について、自動車などの性能やIT環境、医療設備が良くなっているとする一方で、雇用や治安、地域コミュニティが悪くなっていると回答している。会社や地域などの帰属先が不透明な時代ゆえ、シェアハウスやネットを通じたつながりを手探りしているといえるかもしれないと結んでいる。
*1エシカル(ethical)とは、「倫理的」「道徳上」という意味の形容詞であるが、近年は、エシカル「倫理的=環境保全や社会貢献」という意味合いが強くなっている
*2ジェネレーションC(C世代)は、ここ数年米国で使われ始めた言葉。コンピューターを傍らに育ち、ネットで知人とつながり、コミュニティを重視する。変化をいとわず、自分流を編み出す。一般に10代、20代を想定されているが、2012年新年から日本経済新聞で連載された対象は30代も含める。右肩上がりの時代を知らない彼らは、自分たちで何とかするしかないという覚悟はバブル世代より強いという。

◆C世代調査結果
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C世代調査結果

◆世帯主の年齢階級別の年間収入の格差(ジニ係数)の推移 ~30,40代でも格差が拡大~
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出所:社会実情データ図録

※ジニ係数とは、係数の範囲は0から1で、係数の値が0に近いほど格差が少ない状態で、1に近いほど格差が大きい状態であることを意味する。ちなみに、0のときには完全な「平等」つまり皆同じ所得を得ている状態を示す。

2 人々の欲求と消費の動向

これらの価値観が消費へどう影響しているのかをみてみよう。
図は、インターネットショッピングの経験率の推移である。全国あらゆる年代への紙面調査の結果で最も信頼のおけるデータで、2006年以降ほぼ横ばいで4割の人がインターネットで買物をしている。2010年の結果では、20~40代では5割以上、デジタルコンテンツも含めた商品・サービスでは全体で5割、20~30代は7割に達する。2011年の3.11(震災)直後の商品の供給不足、計画停電による外出控えなどから、よりネット化は進んだとも言われている。

一方、場所も時間も問わずに購入できるインターネットショッピングとは全く逆の動きとして、買物の郊外化という流れもある。モータリゼーションが進み公共交通よりもマイカー移動の多い地方、町村エリアほど、家から離れた大型店や郊外型大型店で買物をする人が多い。これは、そこに映画館や多様な業種業態の店や飲食店が集積しているうえに、イベントが開催されるなど、人々は買物目的だけでなく、時間を消費しに行っているのである。逆に、効率的利便性を求める消費者の支持を得て、近年ではターミナル駅内(エキナカ)での業種開発が進んでいる。これらは、すべて、一言で言えば時間と距離概念の変化とそれへの企業の対応の結果である。
また、百貨店売上高が15年連続でマイナスとなる中、ユニクロやしまむらといった専門業態が売上を伸ばすなど、何でもあるが買いたいものがないという総合業からターゲットやアイテムの幅やテイストを絞り込んだ専門業へのシフトの動きがある。

図は消費価値観の2000年から2009年までの変化をみたものであるが、単なる価格訴求だけでは受け入れられず、品質と価格との納得性、環境や安全性への配慮、それを入手するまでの情報感度が高まっている。
ITがもたらした情報化によって、一般の生活者がプロシューマー*となり、モノやサービスの価値と価格を見極めることができるようになった。また、前述の通り、時間と距離の概念が変わり、いつどこで何をどのように入手し、消費するかという選択肢が、幅、深度ともに拡大した。生活者のニーズはさらに多様化、高度化し、マスマーケット、大ヒット商品は出現しなくなった。少子高齢化、人口減少からマーケット規模が縮小する中で、消費者の選択眼にかなう商品・サービスを提供するには、消費者のニーズの先取りをし、ターゲットを定め、緻密な戦略を練らなければ成功しなくなっている。

*生産者(プロデューサー)と消費者(コンシューマー)を合成した造語。自分が欲しいと思う物を自ら発案して商品化したり、メーカーに働きかけていく進んだ賢い消費者のことを指す。

◆インターネットを利用した目的・用途のうち商品・サービスの購入*の比率の推移
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出所:各年総務省「通信利用動向調査」

過去1年間にパソコンまたは携帯電話からインターネットを利用した目的・用途

*2004年までは「商品・サービス購入」、2006年より「商品・サービスの購入・取引(デジタルコンテンツの購入および金融取引を除く)」

◆日常の買い物場所の地域差(2005年)
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◆消費価値観の変化
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3 消費の中の旅行の位置づけの変化と今後

かつて「旅行」は、誰もが得たいと思う夢の一つであり、他の消費を我慢しても手に入れたいものだった。消費の成熟化とともに、横並び意識もなくなり、各自の価値観で消費は選択されるようになっている現在、旅行は行きたい人が行く時代になっている。現に海外旅行へは行く人と行かない人とに二分され、行く人はリピーター化して、行かない人は全く行かない、というのが現状である。このように、さまざまな消費のなかで選択肢のひとつとなった旅行は、今後どうなっていくのだろう。

一つのキーワードは「移動」の概念である。戦後いろいろなインフラの変化、科学技術の進歩の中で大きく変わってきたことの一つが距離と時間の概念である。高速道路、新幹線、航空機、そしてインターネットによって、この概念が大きく変わった。その一方、人々は睡眠時間を減らして移動をしている。しかし、そこでは移動は手段に過ぎず、旅行とは認識されていない場合が多い。その目的は、そこで人と会う、そこでしか食べられないものを食べに行く、などあくまでも別のところにあり、たまたまそのためには移動を伴うにすぎないという発想になっている。その時に、その移動自体が「面倒」、「お金がかかる」と思って厭うのか、わくわくして楽しみたいと思うのか、それが「旅行」消費にかかわる産業の腕の見せ所ではないか。

その際に重要なのが、もう一つのキーワード「時間」である。2000年代初頭に、インターネットショッピングが実店舗にとって代わるのではないかという議論があった際に、リアル店舗が残る理由に「空間消費」と「時間消費」というキーワードがあった。そこでは、五感による買物が、ネットとの大きな差別化になるとされた。いま、旅行がもたらす価値というのは、この議論と類似するものがあるように思う。旅行をしない層、たとえば移動をせずにネットで情報を収集し、ゲームや地元のショッピングセンターで時間を費やし、生活範囲が地元を出ない層、あるいは「知っているからわざわざ遠方まで行かなくてもよい」と移動・旅行をしない層に対して、五感の価値を訴求することが、当たり前だが重要だと思う。

旅行は、「モノ」の消費ではなく「コト」消費であり、1章で述べたとおり、コト消費へのシフトが続いている。旅行動機をみても明らかなように、それは旅先で感じる五感による空間を楽しむ消費と時間を楽しむ消費をどれだけ享受できるかにかかっているだろう。カネはないが時間のある人が旅行をせず、カネがあるが時間のない人がより旅行に行く理由もそこにあるのは明らかである。時間のない人ほど充実した豊かな時間消費と環境(空間消費)を求めているのである。

図は小中学生の自然体験の経年比較である。10年前に比べ、虫取りや海水浴、魚釣りなどの体験が大幅になくなっている。既に旅行商品に取り入れているものも多いが、少子化、都市化が進んでいる時代だからこそ、こうした「五感を働かして体験をする・させる」ことが「移動を伴っても行うべき価値」になってきているともいえよう。あるいは、今後、田舎と都市部の時間的、物理的、心理的距離が、SNSなどで縮小し、旅行業や宿泊業といったビジネスを介在せずに、個人宅やマイカーを利用した個人レベルの移動が発生していくかもしれない。ただ、それでも人が動く限りは、物理的「移動」は発生するところに注目をする必要があるのだろう。
情報技術の進歩により、紙媒体、TVなどのマス媒体もすでにコスト、即時性の面でインターネットに凌駕されつつあるが、人間の目や耳が機械と比べて非常に高度な力をもっているように、「人が伝える」、「人の手を介す」などの「人の力」は大きな可能性を秘めていると思う。「人の力」を最大限に取込みなから、人の移動や移動先の地域での人やモノ、コトとの出会い(交流)、その空間や環境とそこで流れる時間を大事にし、どのように過ごすか、それはどんなに素敵なことかをイメージできるように丁寧に提案していくことで、個人レベルの移動からパッケージの旅行までのトータルの移動(旅行)需要は喚起できるのではないだろうか。しかも先行きの不安定な高ストレスの時代、癒しや日常からの解放は人々の大きな欲求になっていくのは必至だ。

◆旅行の動機
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出所:(財)日本交通公社「旅行者動向」

◆小中学生の自然体験経年比較
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出所:独立行政法人国立青少年教育振興機構「「青少年の体験活動等と自立に関する実態調査」報告書 平成21年度調査」