海外旅行でも広がる地域間格差、そして首都圏一極集中
2012年の日本人出国者数は史上最高となったが、惜しまれるのは秋口からの失速である。8月までの動向をみる限りでは、1,900万人の大台も夢ではないと思われたところへ、中国、韓国との間の国境問題。いずれにしても史上最高の数値を記録した2012年の日本人海外旅行マーケットだが、その内容を2000年と比較してみると、ちょっと意外な結果がみえてくる。
磯貝 政弘
まず、出国者数を人口で割った出国率で2012年と2000年を比べてみよう。(表1)
全体では2000年が14.0%であったのに対して、2012年は14.5%と0.5ポイント上昇している。出国者数が60万人以上増えているのだから、当然の結果といえるだろう。
しかし、すべての都道府県で出国率が上昇しているのかというと、まったく違ってくる。
2012年の出国率が2000年の実績を上回ったのは、実に47都道府県のうち8カ所しかないのだ。具体的には東京都、神奈川県、茨城県、静岡県、愛知県、滋賀県、京都府、兵庫県の1都7県である。
このうち茨城県と静岡県は、2009年に富士山静岡空港、2010年に茨城空港が開業し、国際線が就航した県である。残る1都1府4県は首都圏、東海、近畿の三大都市圏にすべて納まる。出国率に限定すれば、21世に入ってから、三大都市圏とそれ以外の地方との間で格差が拡大したことがみてとれる。
ところが、日本人出国者数に目を転じると、先の1都1府4県のうち、京都府以外はすべて2012年の日本人出国者数が2000年の実績を上回っている。京都府の出国率が2000年を上回った原因は、人口の減少にあったというのである。そうなると、出国率、出国者数がともに増加したのは残る1都3県ということになる。この1都4県のうち、近畿地域は滋賀県、兵庫県ということになるが、東京都(2000年比約54万人増)、神奈川県(同約17万人増)、愛知県(同約13万人増)に比べて滋賀県(同約2万人増)、兵庫県(同約1万人増)の増加数は非常に少ない。また、大阪府、奈良県、和歌山県はいずれも出国者数、出国率ともに2000年実績を下回っており、近畿2府4県計では出国者数が約4.5万人、出国率が0.21ポイント、それぞれ2000年の実績を下回っている。この結果から三大都市圏の中でも格差の広がっていることをみることができるだろう。
さらに、出国率は2000年に比べて低下しているが、千葉県、埼玉県では2012年の出国者数は2000年をそれぞれ4万人以上上回っている。この両県の出国率低下は、出国者数の増加を上回る人口増加が原因となっただけであり、首都圏1都3県計では出国率が0.88ポイント、出国者数は80万人近くも2000年の実績を上回っている。それに対して、東海4県計では出国率が0.58ポイント、出国者数が12万人強上回っているものの、ひとえに愛知県の増加に負うものであり、首都圏に比べれば増加幅は小さい。三大都市圏とそれ以外の地方との格差が拡大し、さらに三大都市圏のなかでも首都圏とその他との格差が拡大する、首都圏一極集中化が21世紀初頭の日本人海外旅行マーケットの現状であるといってよい構造が浮かび上がる。
これと同じ構造は、図1に示した日本の総人口の地域別シェアにも認められる。こうした状況が、今後のトレンドとして継続するのかどうか。そして、その先にある近い将来の日本人海外旅行マーケットがどのような構造をみせるようになるのか。今年7月下旬に発刊を予定している「JTBレポート2013 日本人の海外旅行のすべて」では、より詳細に考察したいと考えている。