日本人の憧れの旅先、ヨーロッパ~ドイツの魅力にみる、地域ごとの多様性の大切さ~
性別や年齢を越えて、幅広い層が旅先としてのヨーロッパへの憧れを語ろうとする。日本人の海外旅行動向をテーマに当社が毎年取りまとめている「JTBレポート」、その基となるアンケート調査「海外旅行実態調査」の本年分で、お金や時間が自由に使えるという条件を仮定したうえで、回答者にとっての「理想の海外旅行」を自由に書き綴ってもらった。
磯貝 政弘
その言葉をテキストマイニングでまとめてみると(図1)、60歳以上の年齢層では、「世界一周クルーズ」といった、まさしく“大旅行”への夢を語る人が多かったが、20代、30代の若い年齢層の夢はそれに比べるといかにも“ささやかな夢”が多かった。しかし、ささやかな夢とはいえ、多くの若者が挙げた理想の旅の行先はヨーロッパの国々だった。
また、JTBレポートの基となるもう一つの調査「海外旅行志向調査」では、「もっとも行きたいデスティネーション」は毎年のようにハワイが1位になっているが、イタリア、フランスなどヨーロッパの国々に集まった票を合算すればハワイを大きく上回る。現代の日本人にとって、ヨーロッパとはいわば“旅の聖地”なのだ。
では、なぜ、これほどまでに日本人はヨーロッパに憧れるのだろうか。5月末に開催されたドイツ観光局のプレス発表会で、その答えの一つを知り得たような気がする。
プレゼンターの在日ドイツ観光局ペーター・ブルーメンシュテンゲル氏によれば、ドイツを訪れる観光客数の毎年の増加率は、ここ数年、ヨーロッパ諸国のなかでも一際高い数値となっているそうだ。そして、その理由は3つあるという。
第一に、値ごろ感。パリやロンドンなどに比べて、ドイツの主要都市の宿泊代金がリーズナブルであることなど。
第二に、ドイツという国のイメージが良いこと。ベンツ、BMW、ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲンなどの良質な自動車は日本でも人気が高いが、自動車に代表される物づくりの水準の高さ、経済の力強さ、先進的なエコロジーへの取り組み、ベートーベンの音楽などに代表される文化やビール、ソーセージなどの味覚、美しい自然、治安の良さ、歴史的な建造物や都市景観など、様々なイメージが浮かび上がってくる。
第三に、ドイツ国内の諸都市や諸地域が持つ個性的で多彩な魅力。日本人のドイツ旅行において、ベルリン、フランクフルト、ミュンヘンなどドイツの主要11都市に宿泊する旅行数は57%に過ぎないという。また、旅行会社主要10社のドイツを訪問するパッケージツアーでは、53都市が宿泊地に設定されているという。州、都市、村などが、それぞれの歴史や文化、伝統を自らのアイデンティティの源泉として守り、愛し、誇りとしている様子がうかがえる。同じく第二次大戦後に目覚ましい経済復興を遂げた日本が、究極の形として全国土を画一化し、地域ごとの個性が薄れていったこととは、正反対の動きである。観光による地域振興を考えるとき、特に第二、第三のポイントは重要だと思うが、どうだろうか。
ところで、ドイツでは第二次世界大戦後の復興の柱の一つとして、観光への取り組みが行われた。ロマンチック街道、メルヘン街道などのルートづくりは、その取り組みの大きな柱であったという。こうしたルートづくりは、日本でも様々な取り組みがあるが、今回のプレス発表会では、今年25周年を迎える「日本ロマンチック街道」が紹介された。長野県上田市から軽井沢町を過ぎ、群馬県草津町、沼田市を経て栃木県日光市まで全長320㎞の街道のことだ。
多くの日本人にとって憧れのヨーロッパ。ヨーロッパの中の経済大国であり、観光大国でもあるドイツ。温泉保養地としてもバーデンバーデン、ウィスバーデンが世界から人を集め、ベルリン、ドレスデン、ミュンヘンなどの都市もそれぞれの個性を頑なに守り通しつつ、新しい風を常に送り続けている。これからの日本の観光を考えるうえで、ドイツを旅する経験は非常に重要になるだろう。現在、ドイツ観光局では「若者をドイツへ」をテーマにしたキャンペーンを実施している。この機会に是非とも将来の地域観光を担うであろう若者をドイツ旅へ送り出してほしいと思うところである。
なお、ドイツ観光局は毎年、特定のテーマを打ち立てたキャンペーンを行っているが、若者向けキャンペーン以外の取り組みを最後に紹介しておきたい。
- 2013年
- リヒャルト・ワーグナー生誕200周年
- グリム童話200年(メルヘン街道)
- 2014年 ドイツ観光テーマ「世界遺産」(ドイツには37カ所の世界遺産がある。)
- 2015年 ドイツ統一25周年
- 2016年 ドイツの自然公園
- 2017年 ドイツ 宗教の旅