「JTBレポート2013」刊行にあたって~デスティネーション人気の推移から見えてくるもの~
2012年の日本人海外旅行者数は18,490,657人を記録し、史上最高記録であった。しかし、年間を通して海外旅行マーケットが拡大し続けたわけではない。少なくとも5月までの動向をみると、ヨーロッパ各国やタイなど増加している旅行先もあるが、海外旅行者総数は減少傾向が続いている。デスティネーションから考察してみよう。
磯貝 政弘
かつて中国は、改革開放路線の一環で、日本人の中国への渡航も自由化(1993年9月1日から15日以内の商用、観光、親族訪問、トランジットで訪問する際のビザが不要となった)し、1990年代を通して「JTBレポート」の「行きたいデスティネーション」で13位前後、「最も行きたいデスティネーション」で5位か6位を常に維持する人気デスティネーションの一つであった。しかしながら、日中関係の様々な問題も影響し「行きたいデスティネーション」としての中国の順位は47位にまで下落した。2012年には10.9%(これでも1990年代に比べれば半減)の人が中国へ行きたいとしていたのが、2013年調査では4.3%にまで下がっている。(図1参照)
一方、「行きたいデスティネーション」の経年推移をみると、アメリカ本土(ここではアメリカ西海岸を対象にしたデータを追うこととする。)でも9.11米国同時多発テロ事件を境に下がった旅行先としての人気が、現在に至るまで一向に回復する気配をみせていないこともわかる。一度下がった人気は、そう簡単には回復できないという点では、アメリカ本土も中国と同様なのかもしれない。その意味で、2002年の日韓ワールドカップサッカー、その後の冬ソナに始まる韓流ブームや円高によって盛り上がったものの、2013年調査で人気が大幅に下がった韓国のゆくえは、日本人海外旅行マーケットの規模を大きく左右する存在だけに注目したい。
ところで、日本人海外旅行マーケットが大きな転機を迎えた年として重要なのが1997年である。ハワイなど数多くの中・遠距離圏のデスティネーションがこの年(あるいはその前年)をピークに日本人旅行者数を減らし続けている。その大きな原因と考えられるのは、日本が本格的なグローバル経済の波に覆われ、様々な場面で「リストラ」が行われたことではないだろうか。「リストラ」の流行によって、社会・経済環境に様々な変化が起こった。家計収支はこの年を最後に減少し続け、海外旅行では「安・近・短」傾向が顕著になっていった。
ところが、ハワイやイタリア、フランス、オーストラリアなど1997年頃をピークに日本人旅行者数が減少したデスティネーションの人気が下がったかというと、そんなことはないところが興味深い。いずれのデスティネーションも、その後も毎年「行きたいデスティネーション」の上位に座り続けている。ハワイにいたっては、最近になって一段と人気を高めてさえいる。多くの人にとって高嶺の花となったのかも知れないが、それまでに培われた“良いイメージ”に傷がつくことはなかったようだ。日本の社会・経済環境が少し好転すれば、こうしたデスティネーションへの日本人旅行者数は一挙に増えるはずだ。事実、2013年の「JTBレポート」のために、「あなたにとっての理想の海外旅行」とはどのようなものなのかを「海外旅行実態調査」で質問したところ(回答は自由記述方式)、図3の通り「世界一周」や「ヨーロッパ」への旅行を挙げる人が年齢層に関わらず非常に多かった。海外旅行への夢は、決して萎んでしまったわけではないのだ。
ここに一筋の光をみる一方で、訪問地としてのイメージに影響を及ぼすようなことが起こったときの損失の大きさにあらためて気づかされた。今月18日に発売する「JTBレポート2013」では、2012年の日本人海外旅行マーケットの特徴とともに、2013年の動向を予測し、さらに今後のあるべき姿を提案している。是非とも数多くの方々にご購読いただきたい。