旅行者の視点に立って考える(観光経済新聞 2013年5月31日掲載)

各地域の観光関係者から見せてもらうインバウンド向け販促ツールやPRビデオの大半が、外国人の視点に立つと、地域の独自性が分かりにくく、そこに行けば新しい発見や新鮮な驚きがあると予感させてくれる内容は意外と少ないのだそうだ。外国人の視点だけではなく、今一度、旅行者の視点に立って考えることの重要性を紐解く。

波潟 郁代

波潟 郁代 客員研究員
西武文理大学サービス経営学部 教授

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世界的に有名なガイドブックを発行している出版社の人から聞いた話だ。各地域の観光関係者から見せてもらうインバウンド向け販促ツールやPRビデオの大半が、外国人の視点に立つと、地域の独自性が分かりにくい、あるいは、日本人が考える外国人が抱くだろう日本のイメージ像ばかりで、そこに行けば新しい発見や新鮮な驚きがあると予感させてくれる内容は意外と少ないのだそうだ。中には、冗談でも笑えない国際感覚に欠けた内容もあるらしい。これでは「あえてその地域でなくても他で間に合う」ということになってしまう。これはインバウンドに限った話ではない。

地域の宝を見つけ、磨くことは大切である。一方、これが売りだから、売りたいからだけでは、旅行者がその地域を選択し、訪問する動機付けにはならない。

そもそも生活者の嗜好とは、常に自身を取り巻く社会や生活環境に応じて存在し、変化する、いわば生ものである。価値観が多様化し、消費行動も多様化する中、生活者に「旅行」を選択してもらい、外国人旅行者には、「日本」を選択してもらい、そして「地域」を選択してもらうために、生活行動全体の中で旅行消費の動きを継続して見ることが大切だ。さらに重要なのは、「今」ほしいと言っていることに捕らわれすぎないことである。消費者ニーズは社会環境の変化によって刺激を受け変わる。消費者ニーズだけを見ていては、次のトレンドは読めない。

JTB総合研究所として事業がスタートし、ちょうど1年。これまでの活動を通じ、「生活者の視点」「グローバル(インバウンド含む)」「LCC(交通インフラの変革)」が観光振興のキーワードとして見えてきた。

この1年は円高による過去最大の海外旅行者数、日系LCCの国内就航や路線拡大、中韓問題、インバウンドの復調、政権交代・金融緩和による円安や株価上昇などなど、日常生活もさることながら、旅行レジャー消費に動きがあり、当面目を離すことができない。

当社の調査では、この春の旅行支出意欲はここ数年にはない高まりをみせた。次の夏の賞与も期待され、夏も旅行レジャー支出は堅調と考えられる。ただし、物価上昇への懸念に加え、話題の多い東京の強い求心力や、アジアマーケット拡大をにらみ、価格を抑えた外資系クルーズの日本発着拡大などに期待が高まるが、必ずしもすべての地域に平等に滞在や消費を後押しする動きばかりではない。今必要なのは、「選ばれる」を念頭に、旅行者の目線にたち、広い意味での競争を意識し、俯瞰して自身の立ち位置を見直すことではないか。

今回から始まる24回の連載では、「選ばれる」をサブテーマに、各研究員が以下の三つについて、マーケットをひも解いていく。(1)旅行者の行動から「地域」「宿泊」「インバウンド」「地域でのMICE」で、地域を選ぶポイントを読む。(2)地域全体が取り組む地域活性化。(3)次のトレンドと観光の未来。連載を通じて読者の方々と共に「選ばれる」道筋を立てられたら幸甚である。