観光経済新聞再掲 ~マーケットを読む・インバウンド 「訪日外国人を呼び寄せる」他

観光経済新聞2013年7月20日に掲載された「訪日外国人を呼び寄せる」では、データをもとにインバウンドとしての旅館の現状・可能性について、2013年7月27日に掲載された「東南アジアからの訪日客の増加」では、増加する東南アジア諸国訪日客を受け入れる上での課題・対策を紐解く。

田中 靖

田中 靖

印刷する

目次

訪日外国人を呼び寄せる(観光経済新聞2013年7月20日掲載)

少子高齢化や消費の多様化で、国内旅行市場が縮小傾向にある中、訪日外国人に対する期待は年々大きくなっている。2012年の訪日外客数は約837万人、外国人延べ宿泊者数は約2,630万泊を数え、日本人を含む全宿泊者数の6.6%を占めた。

表は観光庁による「都道府県別、従業員数10人以上の宿泊施設における外国人延べ宿泊数比率」の上位県である。シテイホテル、リゾートホテルの上位県ではすでに外国人宿泊客が施設営業の重要なポジションを占めている。

一方で、旅館に泊まる外国人は全体の延べ宿泊者数のうちの7.1%にとどまっている。都道府県別に見ても東京都(24.5%)北海道(9.7%)を除くと、どの府県も5%に満たない。

しかしながら、旅館が外国人に人気がないかというとそうではない。観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、旅館に宿泊した外国人のうち、「旅館に泊まること」が「期待以上に満足」あるいは「期待通りに満足」と答えた人が96%にも上った。“RYOKAN"は、日本特有の宿泊スタイル、料理、温泉、おもてなしと、外国人にとっても魅力的な観光資源であると言えよう。

初めて日本を訪れる人は首都圏や京阪神などの大都市圏や北海道や富士山のような観光地に集中する。ならば、主要国際空港や大都市圏から離れた、国際的に知名度の低い温泉地や観光地にとっては訪日リピーターへのアプローチ強化が大切ではないか。実際当社が韓国、台湾人に対して行った調査では、日本への旅行経験が増えるほど、旅行目的として、「温泉」「日本の文化歴史の体験」「ホテル・旅館でゆっくり過ごす」が高くなる。

また大都市圏に長期滞在する外国人旅行者の中には、部屋をおさえて大きな荷物を置いたまま、身軽に遠方の観光地を旅行するケースもよくある。このような旅行者には、来日後に利用する旅行情報サイトを活用し、地域の風情や魅力、交通手段など詳細情報を伝えることが必要だ。

地域によっては、依然内需頼みで訪日客の受け入れに積極的でないところも多い。実際、世界経済フォーラム(ダボス会議)の観光競争力レポートによれば、総合14位の日本は、個別指標で「(施設や店の)顧客対応」が世界1位とおもてなし文化が評価されているが、地域全体で外国人旅行者をどれだけ歓迎しているかについては74位だった。しかしながら、日本と同じく英語が共通語ではないタイが13位であることを考慮すれば訪日旅行客拡大に向けた努力の余地はあるだろう。

資料:観光庁 宿泊統計調査(2012年計)

東南アジアからの訪日客の増加(観光経済新聞2013年7月27日掲載)

訪日外客数が拡大を続けている。中でも、東アジア、東南アジアからの需要が中国の減少分をカバーし、ASEAN諸国のうちではシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムからの訪日外客数は13年中に年間100万人に達する見込みだ。

経産省の通商白書(2010年)によると、ASEANの個人消費規模の見通しは、08年の0.85兆ドルから20年には2.22兆ドルと推計され、伸長率は2.6倍と、中国、インドに次ぐ見通し。経済発展による中間層や富裕層の増大で、旅行消費にも期待が持てる。各観光地でも、マレーシアやインドネシアに多いイスラム教徒向けのハラル対応などへの関心も高まっている。

訪日観光を考える際、旅行者の国の習慣や文化事情に合わせた対応手法だけに目が行きがちだが、そもそも旅行者が旅行先として日本に何を求めているのか十分理解する必要がある。

2013年はじめにJTBで、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアの4カ国で、3年以内の外国旅行経験者を対象に調査を実施した。行きたい旅行先はタイでは日本が48.8%で1位だったが、他の3カ国では、東アジア(中国、韓国、台湾、香港)や欧州やオセアニアを選ぶ人が多かった。日本の魅力としてあがるのは、雪景色や温泉、料理やショッピングだが、こうした魅力は日本の近隣国には代替はない。特徴的なのは、外国旅行ではどの国の人も「個人手配旅行」が多いが、日本へ旅行する場合は「周遊型商品」を利用したいと答える人が多かったことだ。

また、シンガポールの人は日本の高品質のサービス、独自の文化や四季折々の魅力に期待する一方、訪日経験者数がまだ少ないインドネシアやマレーシアの人は富士山、桜、温泉、テーマパークなど有名な観光地を好む傾向が強い。

東南アジアの人々にとって、日本は見どころも多いものの、情報面などでは決して旅行しやすい国ではない。初回の旅行は駆け足でも、満足度を高め、再訪を促し、次回の旅行でより高品質なサービスを購入してもらうかが鍵になる。今後東南アジアからの訪日経験者がさらに増加し、日本国内の対応も進むにつれて、個人手配旅行で日本を訪れる人が大きく増加すると見込まれる。そのために、各国ごとの旅行者の習慣や行動を十分理解した上で、旅行者拡大の明確な対象を持つことが訪問者を増やすための第一歩である。

さらに大切なのは、観光客のニーズの背景となる異なる文化や慣習に対して敬意を払うと共に、観光地側も地域の食や文化などを丁寧に伝えることだろう。

資料:株式会社JTB「東南アジア4ヶ国の旅行動向に関する調査」