観光経済新聞再掲 ~マーケットを読む・旅行者行動 「変わる国内旅行への旅行者の期待」他
「変わる国内旅行への旅行者の期待」では、国内旅行における旅行者の心理や行動の変化について、「インターネットの浸透と旅行情報」では、旅行者の情報の取得方法や予約方法からみるITと旅行の親和性を、「旅行者の消費額の推移と価値観」では、旅行に対する考え方や商品選びに働く心理的要素について紐解く。
田中 靖
目次
変わる国内旅行への旅行者の期待(観光経済新聞2013年6月29日掲載)
旅行のスタイルや目的は、長い時間軸で俯瞰すれば変化は歴然としている。しかしより短い期間であっても、旅行者の「期待」や「目的」というものはその都度変化が見られる。これは社会経済環境の変化に加え、ITやスマートフォン、SNSなどの情報化の急速な進展、それに伴う消費トレンドの変化によるところが大きい。
当コラムでは、JTBが実施した「旅行者購買行動調査」をもとに、国内旅行における旅行者の心理や行動の変化、旅行先や宿情報の取得方法の変化などについて述べる。
「旅行者購買行動調査」とは、首都圏、中京圏、関西圏の消費者を対象に、国内・海外旅行の内容、旅行目的、購買方法などについて調査したものである。表は、旅行者が国内観光旅行に何を期待しているか(複数回答)の推移を表したものである。景気は失速気味ながらまだ若干拡大基調にあった2007年、リーマンショック後大きく景気が後退した08年、震災復興を経て、個人消費、特に高額品や旅行レジャー消費に動きがある13年とで、旅行者の期待に違いが見られた。
13年は、「温泉」「料理・味覚・食材」「自然・風景」が上位3位を占めた。中でも「料理・味覚・食材」は節約傾向が強まり期待度が前年より下がった08年からの伸長が一番大きく、16ポイント上昇した。年齢別でみると50代以下では期待が最も高くなり、名所や自然といった観光資源よりも、訪問地で料理や食材を楽しむことが旅行の大きな魅力となっている。
「のんびり過ごす」は08年と比較して全体的に減少した。当時、厳しい経済環境を反映し、旅行に日常からの解放やリフレッシュを求める傾向が強かったが、現在ではより旅行を積極的に楽しもうという意欲が強くなってきていると言えよう。
「街歩き」は全体で18%と07年と大きな変化は見られないが、詳細な年代別にみると、40代を除きどの年代も2ポイント増加している。歴史・文化的施設は大きな変化は見られないが、最近は歴史ある人気観光地でも、名所旧跡などは訪問せず、街なかの古民家カフェや雑貨店などを散策する若者も多いという。
訪問を受ける側としては、こうした旅行者の楽しみ方の変化を理解した上で、地域の持つ本来の独自性を損なうことなく、新たな素材や楽しみ方を提案することは可能である。一方、社会環境の変化で、旅行者の心理が変われば、旅の目的や期待も変わる。当然、訪問先も変わり得る。知名度の高い観光地においても、消費する側の価値観や嗜好、行動の些細な変化を敏感にとらえ、タイミングを外すことなく訴求ポイントや見せ方を工夫することがますます重要になっているといえよう。
インターネットの浸透と旅行情報(観光経済新聞2013年7月6日掲載)
ITと旅行は親和性が高い。ITの進化に伴い、旅行者の情報の取得方法や予約方法も大きく変化している。
表はJTBの2005年、08年、13年の旅行者購買行動調査(郵送調査)における旅行情報の主要取得手段の推移である。情報の取得については、旅行会社など宿泊予約サイトを含む旅行情報サイトの利用が大きく増加している。
注目すべきは、自治体やや観光局のサイトが5年間で3.1%から10.9%と大きく伸びていることだ。ここ近年、観光サイトの充実を図る自治体が多い。地域が提案するモデルコースや期間限定の産業観光など独自の企画により、地域活性を図っている。今や観光地の魅力を伝えるための大きな役割を果たしていると言えよう。
一方、フェイスブックなどSNSの利用は2.2%ではあるが、昨今は利用者が考えた旅行企画を投稿し、賛同者が集まればツアーとして成立するなど新しい事業モデルが広がっており、今後SNSの役割が高まると思われる。
ネット以外では「るるぶ」「まっぷる」などの旅行情報誌が、最新トレンドを意識した編集でありながら、対象地域全体を多面的に網羅しており、利用が伸びている。
宿泊施設の予約については、ネット予約がパソコン、スマートフォン(スマホ)、携帯含め全体の4割以上を占め最高となった。ネット予約のうちの4分の1が宿泊施設のオフィシャルサイトで予約する人である。携帯電話やスマホによる予約は急速に増加しているが、全体で4%弱となり、今後の推移が注目される。
なお、交通手段付きパッケージ旅行の予約については、ネット予約(13年22.8%)が増加傾向であるものの、旅行会社の店頭(35.6%)や電話など(30.2%)での予約が上位を占めている。周遊観光、三世代や記念旅行など、細かな相談が可能な旅行会社への期待も高い。なお、当研究所で実施した団塊シニアの調査では、旅行会社の店頭・電話を利用するシニアも旅行以外のショッピングサイトの利用率は高く、必ずしもネットに不得手な人が店舗や電話を利用しているわけではない。
旅行先や宿泊先の決定に旅行前にどんな手段を介して魅力をアピールするかは重要だが、これからは旅行中により詳細な旅行者の行動をどうサポートするかも重要になってくる。各サイトの役割が大きいが、個々のサイトだけでは限度がある。相互リンクだけでなく、スマホ活用による着地型旅行の予約の充実など、多様なニーズに応えるための相互連携が必要である。
旅行者の消費額の推移と価値観(観光経済新聞2013年7月13日掲載)
ITの進化による流通の変化や国内LCCの登場により、旅行者は、より便利で快適で安価な旅行素材や商品を自由に選択することが可能になった。今後、旅行者が一回の旅行に使う消費額はどう推移する傾向にあるのだろうか。
JTBは、個々人の旅行に対する考え方や商品選びに働く心理的要素の解明のため「消費者の旅行価値に対する調査2013」を実施した。そこでは旅行者の価値観について、「ちょっといい旅志向」「価格重視志向」の分類を行っている。
ちょっといい旅志向とは、高級志向ではないが、品質を重視し、自分がいいと思ったものであれば長くつきあい、評価や評判の定着したものを好む傾向の人。全体の38%を占めた。価格重視志向の人は全体の29%。費用の安い旅行を求め、宿泊や交通手段の中味よりも、安さ優先で宿や切符を探す傾向が強い。
国内1泊あたりの宿泊料金について両者の妥協価格(多少の抵抗感はあるが受け入れできる)、上限価格(これより高いと手が出にくい)、下限価格(これより安いと逆に不安で手が出にくい)の三つを比較した。ちょっといい旅志向の上限価格は1万6千円。一方、価格重視志向は1万2500円となった。
回答者の属性別にみるとちょっといい旅志向は年齢、年収が多いほど増え、高齢層とDINKSに多い。景気による影響はあるものの、性年代別の志向、年代別人口の推移などから高齢化やDINKSの増加が進み、ちょっといい旅志向は総じて今後微増すると予測できる。一方、価格重視志向は減少する。価格の比較は容易になり、欲しいものにはお金をかける選択消費の傾向は今後も強まっていくであろうが、全体としては「低価格第一主義」は薄れていくと考える。
大切なのは、消費者がお金を払っても良いと感じる魅力をどのように増やしていくかである。調査では、ちょっといい旅志向は、地域の料理・食材、まちの景観・雰囲気、まちの歩きやすさなどについての期待や旅行に対する満足度の影響が高いと言える。
宿泊施設のサービスでは部屋食、貸切露天風呂、食事内容、記念日や祝いの趣向など、有料でも提供を求める消費者は多い。
シニア消費への関心が高まっているが、人口推計によると、高齢者の比率は今後も高まるが、60歳から74歳までの人口は14年をピークに減少に向かう。価格重視志向が強い若年層の減少はさらに顕著となる。ちょっといい旅志向以上の消費者を多く引き付ける魅力を備えることが、観光地に共通の課題となろう。