CMロケ地による観光活性化の可能性について
2006年から2013年の8年間で、国内外の大手自動車メーカー6社のCMのロケ地になった場所がある。長崎県平戸市生月島である。平戸市商工会ではCMを活用した観光客誘致調査に取組み、CM関係者が認めた道路は、景観の美しさもさることながら、自動車の走りやすい道路、受け入れ態勢の整った地域にあった。
小野 周太郎
目次
2006年から2013年の8年間で、国内外の大手自動車メーカー6社のCMのロケ地になった場所がある。長崎県平戸市生月島である。
2013年度、平戸市商工会では、「日本一のドライブルートCMスポット!サンセットウェイ調査事業」として、CMを活用した観光客誘致調査に取組んだ。当社は(株)東京企画 CM DATABANKと連携して調査を担当した。CM関係者が認めた道路は、景観の美しさもさることながら、自動車の走りやすい道路、受け入れ態勢の整った地域にあった。
1. 平戸市生月島サンセットウェイについて
長崎県平戸市生月(いきつき)島は、人口約6,000人、南北約10km、東西約2kmの島で、平戸市中心部から車で約30分の場所にある。1991年に生月大橋が開通し、平戸本島と陸続きになった。
生月島の西海岸沿いにある農免農道は、海岸線が長い長崎県の中でも屈指の眺めがよい道路といわれ、東シナ海の美しい夕陽を眺めることができることから「サンセットウェイ」と呼ばれている。西海国立公園の指定地域を通っていることもあり、バイクツーリングやドライブに絶好のロケーションである。東シナ海の水平線や、断崖、和牛の放牧地などの景観を楽しむことができる魅力的なドライブルートである。
このサンセットウェイは、国内、海外自動車メーカー6社のテレビCM、カタログ等に登場している。2014年1月には、富士重工業のシカゴモーターショーでの新型レガシィ発表に合わせたプロモーション映像が撮影されている。また、ホンダは2年前に生月大橋をバックにサンセットウェイを走行しているシーンをテレビCMで使用している。
2. 調査事業について
これまで、映画やドラマの撮影場所に観光客が押し寄せ、ブームになることは多かった。富良野市を舞台に1981年から2002年にかけて放送された「北の国から」や、NHK大河ドラマが代表例である。地域側もロケ地巡りのガイドマップ作成などのプロモーションやフィルムコミッション等によるドラマや映画のロケ誘致に取組んできた。しかしながら、CMについては、撮影地の紹介やロケ誘致など観光施策に活用される事例はあまりなかった。
このほど、平戸市商工会では、全国商工会連合会の小規模事業者地域力活用新事業全国展開支援事業を活用し、「日本一のドライブルートCMスポット!サンセットウェイ調査事業」として、生月島サンセットウェイが国内、海外自動車メーカー数社のテレビCM撮影場所に選ばれた理由(資源価値の客観的優位性)の解明とドライブルートとしてのブランディングモデルの構築を行った。当社は(株)東京企画 CM DATABANKと連携して調査を担当した。以下で、2013年度に実施した調査のうち、主たるものを紹介する。
(1)CMスポット優位性調査
[調査方法]
- 調査期間 2013年11月12日~12月3日
- 調査対象 広告主2社、広告代理店2社、広告制作会社4社、第三者機関1社
- 調査方法 ヒアリング
- 調査項目 CMロケ地の選定方法・選定理由・選定基準
CMロケ地を観光客誘致に活用する方策
生月島サンセットウェイの魅力 等
生月島サンセットウェイの魅力について、各回答者共通の意見として挙がったのは、「景観の美しさ」である。周囲の風景だけではなく、道路そのものについても、標識やガードレール、電線など映像の支障になるものがなく、きれいな「絵」を撮ることができるスポットがあることがサンセットウェイの魅力である。また、農免道路であるので、交通量も少なく、道路使用許可もとりやすい。これまで撮影にあたって地域住民からの苦情等のトラブルがないことも生月島の特徴である。ロケ地の選定には、道路使用許可や食事、宿泊場所の手配等の条件が加味されるが、生月島サンセットウェイは総合的にも評価が高い。今後、生月島でロケが行われたことを情報発信することで観光客の誘致につながるだろうという意見も出された。
(2)CM好感度データベース調査
- 調査期間 2013年11月~12月
- 調査対象 東京キー5局で2011年12月~2013年11月に放映されたテレビCM
- 調査方法 テレビCMデータベースの分析
(株)東京企画CM DATABANKでは、毎月2回、東京キー局の全オンエアCM(月平均4,300作品)を対象に首都圏在住の6歳以上のモニター3,000人に調査を行っている。好きなCM、印象に残ったCMを5つまであげ、それらのCMの好きな点、印象的な理由を選択する仕組みである。本調査では、(株)東京企画CM DATABANKが、好感度の上位100作品の中から、「映像・画像が良い」項目の高い作品を抽出し、特に地域特性のあるような景色、風景が印象的な10作品から特徴を検証した。
選ばれたCM作品は、人気の女性アーティストが歴史的建造物である増上寺で最新の映像技術であるプロジェクションマッピングを使いライブを行う演出が話題になったKDDIのCMや、春の桜、秋の紅葉など季節感あふれる美しい映像と華麗な音楽、そして「そうだ京都行こう」のコピーなどで完成度が高いJR東海のCM、広大な景色の中にそびえ立つ本の木に人気グループのメンバー5人が寄り添う日本航空の先得割引のCMなどである。
好感度の高い作品には、共通してどこか懐かしさがあるようだ。そこに行かないと見られない景色、他では代えられない景色は、映像の印象を強くする。さらに、景色・風景にプラス「何か」があると好感度は跳ね上がる傾向にある。その「何か」とは、季節感、かわいい動物、情緒的なストーリー、景色に合う優雅な音楽、古いモノと最新のモノとを組み合わせたギャップの面白みなどだ。
(3)ドライブルート消費者ニーズ調査
- 調査期間 2013年12月
- 調査対象 福岡県、佐賀県、熊本県の在住者300名
- 調査方法 インターネット調査
- 調査項目 ドライブ旅行の頻度、移動時間、食事、お土産、情報発信
映画やドラマ、CMロケ地への訪問の有無、訪問地での行動
生月島の認知度、来訪目的CMロケ地へのドライブ旅行の意向 等
インターネット調査により、生月島の近隣に在住する一般生活者がドライブルートに求めている要素など、ニーズを把握した。
回答者全体をみると、ドライブ(同行も含む)に出かける頻度は、約半数が月1回と2~3ヵ月に1回で占められた。過去にCMロケ地に行ったことがあるかという質問には、28%が「有る」と回答した。
生月島への訪問経験がある人は、調査対象者全体の52.9%、生月島でのドライブへの関心は高く、生月島へドライブに行ってみたいと思う人は全体の64%だった。訪問経験者のうち84%は観光目的で、中でもドライブ(88%)、食事(43%)、土産物購入(35%)が主な目的だったが、要望としては、食事やお土産を購入できる場所が少ないことがあげられていた。また、生月島が自動車のテレビCMのロケ地であることを知っていたのは訪問経験者の11%だった。(図1)
以上の結果より、生月島へのドライブ観光を活性化していくためには、CMロケ地という点に焦点を定め、地域のブランド化を図るとともに、生月島の観光スポットや見所、食事ができる場所や土産物を購入できる場所などを周知していくことが必要と考えられる。上述のインターネット調査とは別に、生月島への訪問未経験者を対象にグループインタビューを実施し、生月島サンセットウェイの魅力や他のドライブルートとの差別化を明確にするための方策について、意見を聴取した(5人×2組)。
ドライブ旅行の楽しみとして景色や食を挙げる意見が多く、サンセットウェイのCMを見た印象でも景色に対する評価が高かった。複数社のテレビCMロケ地に選ばれていることを知り、行ってみたいという意見は多く聞かれた。ドライブ旅行に特化するべきという意見と名物となる食べ物がほしいという意見もあがった。
(4)滞留状況調査
- 調査期間 2014年1月31日~2月2日の3日間
- 調査対象 生月島来訪者 54名
- 調査方法 対面式アンケート調査
- 調査項目 生月島での滞留時間、立ち寄った箇所、食事・宿泊の有無、支出額 等
生月島の観光振興の参考にするため、生月島への来訪者の滞在時間や立ち寄った場所を調査した。生月島での滞在時間は、1時間~2時間未満が16人(29.6%)で最も多く、次いで1時間未満と2時間~3時間未満が13人(24.1%)と同数で、2時間未満が53.7%と半数を占めた。生月島での宿泊はゼロだった。宿泊先は、対岸にある平戸市中心部をあげる人が多くみられた。島でのお土産の購入額は、購入していないという回答が16人(29.6%)で最も多く、次いで500円~1,000円未満(12人)、1,000円~2,000円未満と2,000円~3,000円未満が8人で同数であった。主な購入物は干物やあごだしラーメンなど。今後の課題として、島内での滞在時間を増やし、消費する場所、地元の名産物をつくっていくことなどが浮かび上がってきた。
(5)CMプロダクションヒアリング調査
- 調査期間 2014年2月13日
- 調査対象 生月島でCM撮影したCMプロダクション1社
- 調査方法 ヒアリング
- 調査項目 CMロケ地の選定方法・選定理由・選定基準
生月島サンセトウェイの魅力、他の撮影地との違い
CM撮影受入態勢面での要望 等
生月島で実際にCMを撮影したことのあるCMプロダクションにヒアリングを実施し、撮影場所選定の経緯や、生月島サンセットウェイの魅力等を調査した。
撮影場所の選定は、明るい海岸線がいいというところから始まり、空のきれいなところ、太陽の光が車に当たったときに車のボディーラインがきれいに見えることが優先条件であった。生月島で朝と夕方に撮影をすると、太陽の光が当たったときの自動車のラインがきれいに見えて、さらに景観の素晴らしいところがいくつもあり、CM撮影者にとって満足のいく場所という評価であった。また、農免農道ということもあり、人も少なく、人目に触れず撮影できたので情報保持の面からも大変撮影しやすい好条件の場所であることがわかった。撮影にあたり道路や施設の使用許可手続き煩雑だと、それだけで重荷になる。
今、自由に撮影させてくれる道路は少ないので、そこをスムーズに受け入れてくれる地域は強みになるとのことである。
3. 今後の展開について
本年度の調査事業を通じて、生月島サンセットウェイが国内、海外自動車メーカーのCMに数多く選ばれている理由が、自然風景と車との調和の美しさや、道路の走りやすさ、道そのもののつくりと景観、撮影許可の取りやすさ、地域の受入態勢などにあることが明らかとなった。
また、調査に関わった委員会での協議、検討を通じて、CMのロケ地という特徴を活かして観光振興に取り組むことの機運が地元関係者に醸成された。
一方、人気タレントが出演したCMロケ地にファンが殺到して私有地に入り記念撮影するなど、トラブルも散見されるが、CMロケ地を観光活性化につなげる可能性は大きい。
改めて生月島サンセットウェイの優位性を挙げると次の3点である。
- 海岸線が長い長崎県の中でも屈指の眺めがよい道路といわれ、東シナ海の美しい夕陽を眺めることができる。
- 農免農道のため、標識や電線、ガードレールが少なく、映像の支障となるものが少ない。
- 許認可手続きを含めて、地元の撮影受入体制が円滑である。
このような優位性を持つ結果、国内外の大手自動車メーカー6社のCMロケ地に選ばれるなど、CM制作関係者にも認められる場所となっている。また、ドライブ旅行者からの来訪意向や景観に対する評価も高い。
生月島の優位性を活かすために、まず、今後の方向性としては、SNS等による効果的な情報発信手法の検討・実施や旅行雑誌への記事広告掲載などを通して、CMロケ地であることを世間に周知し、露出を高めていく。また、ドライブで来た人が立ち寄る場所が少なく、島内消費が少ない現状を解決するために、特産品や体験プログラムの開発も必要になる。
ドライブルートというと北海道や沖縄など全国に有名なコースは存在するが、自動車メーカーのCMロケ地として、生月島のサンセットウェイの存在は抜きん出ている。CM関係者が認めた場所としてブランディングすることで、東アジアNo.1のドライブルートとしてのポジショニングの確立も夢ではない。