~JTB総合研究所版~ 2015年の気になるトピックス
2015年も半月が過ぎましたが、ツーリズムの分野において、2015年はどんなことが注目され、また影響を受けるのでしょうか。北陸新幹線開業や国連世界防災会議など、気になるトピックスをまとめてみました。
丸山 千春
目次
2015年も半月が過ぎましたが、ツーリズムの分野において、今年はどんなことが注目され、また影響を受けるのでしょうか。気になるトピックスをまとめてみました。
1 訪日客1500万人時代・・・個人旅行化もすすみ、地方への分散へ期待
訪日旅行者は順調に増加し、2013年に訪日外国人旅行者数が初めて1,000万人を超え、2014年は最終的には1,328万人(前年比28%増)前後になると考えられます(JTB 2015年の旅行動向見通し)。そして2015年はいよいよ1,500万人に達するだろうと予測されます。円安基調で日本へ来やすい環境が続いていること、また、14年後半から実施されたインドネシア、フィリピン、ベトナムの 3か国のビザ発給要件緩和の効果も期待できます。
先ごろ、2014年度の観光庁第一次補正予算が決定となりましたが、新規インバウンド需要創出事業として、訪日外国人の季節分散化なども組み込まれ、春のシーズンの定着化を図るとともに、紅葉、雪などシーズンの分散化を図るとしています。桜、紅葉、雪は地域に外国人旅行者を誘客する観光資源です。都市部で見逃してもSNSなどの情報で、桜や紅葉前線を追う外国人も増えているようです。桜、紅葉、雪は象徴的な日本の四季の風景であると同時に、それを愛でる心や歴史、生活文化も含めて日本の観光資源といえるでしょう。
外国人旅行者に高い人気を誇る日本情報サイト(「japan-guide.com(英語版/繁体中国語版)」)と当社が共同で行った調査では、家族や友人に語りたい体験についてフリーワードで回答してもらったところ、お祭りに関わることば(祭り、ねぶた、ひな祭りなど)、花見に関わる言葉(桜、花見、花など)に加え、「お正月」という言葉が多く使われていることがわかりました。日本ならではの季節感を感じられる行事が外国人旅行者にとっては、語りたい体験として大きな位置を占めていると言えます。
昨年訪日外国人の日本での消費額が2兆円を超えました。旅行収支は10月、11月と2カ月連続で黒字となりました。これは円安に加えて10月から導入された免税枠拡大の効果といえます。従来免税販売の対象となっていなかった消耗品(食品類、飲料類、薬品類、化粧品類その他の消耗品)を含めたすべての品目が新たに免税対象となり、地域のお菓子やお酒などの特産物も対象になります。
地域は訪日外国人旅行者の受け入れにはまだ課題があるものの、地域自体の魅力にショッピングの楽しみも広がり、外国人旅行者の地方への分散が期待されます。消費増税後、低迷する国内消費を訪日外国人旅行者が支える形となります
(参考)
・JTB総合研究所/japan-guide.com 共同調査「訪日外国人旅行者の行動~自慢したい日本の街や文化~」
・「2015年の旅行動向見通し」株式会社ジェイティービー
2 3月14日 北陸新幹線開業
3月14日にいよいよ北陸新幹線が開業します。最速達の「かがやき」は東京~金沢間を2時間28分で、東京~富山間を2時間8分で結びます。東京~金沢間は1時間23分、今までより所要時間が短縮し、乗換もなくなるため、心理的距離はかなり縮まるといえるでしょう。14年12月に発表されたダイヤでは、「かかやき」は朝・夕時間帯を中心に10往復、「はくたか」(各駅停車タイプ)は1時間に1本程度、計14往復運転の予定です。
新幹線開業の期待は沿線だけではありません。九州新幹線が開業した2011年、鹿児島県指宿市は宿泊客が前年比13.2%増となり、日帰りを含む全体では前年比1.8%増と開業効果がありました。
心理的距離が短くなれば、新幹線の先の地域にも注目が集まります。北陸新幹線の開業で、これまで遠いとされていた金沢のさらに先の能登半島や金沢周辺の温泉、白川郷、高山など、限られた時間での周遊のバリエーションが増えることが期待できます。特に訪日外国人客の動きは東京から近くなったことで大きく変わるでしょう。リピータになれば地方を旅行する機会も増えていきます。小松や富山空港にはアジア主要都市から直接国際便が就航しており、北陸新幹線効果と合わせて、より多くの訪日外国人が地方へ足を運ぶ可能性が高まります。
ところで、指宿市への観光客数は、2012年以降は、全体で増えてはいるものの、宿泊者数はやや減少傾向です。自然に注目を浴びる新幹線開業効果が単年度で終わらないよう、地域の持続的な取り組みが必要です。
(参考)
・「指宿市の観光統計 平成25年」 指宿市観光課
3 国連世界防災会議・・・観光分野(観光危機管理)がテーマの1つに
3月14日から18日まで、仙台で国連主催の世界防災会議が開かれます。これは、世界の各国の首脳、閣僚、国際機関代表、国際認定NGOなど5千人が集まり、国際的な防災戦略を策定するため10年に1回開催される会議です。今回の会議では、2005年に神戸で開かれた前回の会議で制定された「兵庫行動枠組(Hyogo Framework for Action」の実施状況を検証し、今後の新たな「枠組」を検討・採択します。
今回の会議のひとつの特徴は、これまで「官」主導で進められてきた会議や防災戦略を、「官と民の連携」によって進めていくという考え方が強調されていること、とりわけ「観光」分野での防災について特別セッションが初めて設けられ、議論が行われることです。世界の経済に大きく貢献し、世界の11人に1人の雇用を提供する観光において、災害や危機に対して強靭なものにしていくことの必要性が、世界的に認識された結果です。
(参考)
・第3回国連防災世界会議 仙台開催実行委員会
4 戦後70年・・・新たな時代の幕開け
今年は戦後70周年となる年です。戦後復興、高度経済成長、バブル崩壊、経済の長期低迷を経験した日本は、少子高齢化の中、様々な分野で新たな日本のあり方を見出そうとしています。一方、アジアに目を向けると2015年末にはASEAN経済共同体の発足が予定され、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ブルネイの6ヵ国の域内が段階的に自由貿易地域になるなど、モノ、ヒト、サービスの交流が一層活発化することが予想されます。日本と近隣のアジア諸国との関係も、より重要性を増すでしょう。
安部首相は戦後70年の談話として、アジア諸国に対する植民地支配と侵略への反省と謝罪を表明した1995年の村山富市首相談話(村山談話)の立場を継承するとしました。
アジア諸国と良好な関係を保っていくことは、訪日旅行者も含めた大きな人流や物流を生み、今後日本が経済再生を図っていく中でも大変重要な要素です。中でもツーリズム産業はグローバルな交流の担い手として、経済面だけではなく、文化や国際親善においても期待が高まると考えられます。
終戦記念日を迎える8月前後には様々な関連行事、式典が予定され、注目が高まります。
5 地方で開催される芸術祭
近年、地方での芸術祭が話題になっています。草分けともいえる2000年から開催されている越後妻有トリエンナーレは、常に前回比増の入込客数を更新しています。2013年に開催された瀬戸内国際芸術祭の訪問者数は100万人を突破しました。地域と現代アートの融合が新しい価値を見出しており、作品を展示する芸術家と作品を楽しむ来場者、芸術祭を支えるボランティア参加という関係性の面白さを生み出し、新しい交流を生んでいます。近年は各地で芸術祭が開催されるようになり、2015年も初回開催含め、数多くの芸術祭が開催される予定です。JTBの調査では、20代男性がアートを目的とした旅行に高い関心を示しているという結果がでています。地域の芸術祭は新しい旅行需要を創り、地域活性の一翼を担い始めています。
【2015年開催予定の芸術祭】
- 越後妻有トリエンナーレ「大地の芸術祭」(6回目)
- 京都国際現代芸術祭「PARASOPHIA」(初回)
- 和歌山国際芸術祭「fallin’ land」(初回)
- 中之条ビエンナーレ(5回目)
- 別府現代美術フェスティバル2015「混浴温泉世界」(3回目)
- 「チャレンジとくしま」(6回目)
- 「アーツ・チャレンジ2015」(8回目)
- 「総社芸術祭2015」(2回目)
(参考)
・「アート旅(美術館や芸術祭などを楽しむ 旅(美術館や芸術祭などを楽しむ 旅(美術館や芸術祭などを楽しむ旅)に関する調査」株式会社ジェイティービー
6 スポーツ消費
2020年の東京五輪の開催決定を受け、スポーツに関する情報に触れる機会が増えています。手軽な健康増進の手段としてスポーツジムの利用が見直される一方、マラソンや自転車など成果や目標を持つ機会として各地のスポーツ大会への出場者も増えています。地域で開催されるスポーツ大会は、住民が応援やボランティアで関わることで、精神的充足感を含め、地域活性に貢献しているといえるでしょう。
フィギュアスケートやテニスなどの日本選手の活躍で、テレビ中継も増え、影響を受けて習い始める子どもたちも出ています。子どもたちへの英才教育については、学業だけでなくスポーツの才能を伸ばすことへの関心も高まりつつあるようです。
ラグビー日本代表も世界ランキングを上げる中、今年15年はW杯がイングランドで開催されます。19年には日本で開催されることが決定しており、競技誘致に手を上げる自治体も出ています。
このように、観戦や競技への参加、そして健康増進と幅広くスポーツへの関心が高まり、付随する消費が増大することが予測されます。
7 投稿が消えるSNS
Snapchatや、きいてよ!ミルチョなど、投稿が蓄積されず、短時間で消えてしまうSNSは、FacebookやTwitterといった実名の使用を基本としたSNSに対して、実名を使うこともなく、発言の内容を気にする必要もない気軽さが支持されており、今後も利用の拡大が見込まれます。FacebookやTwitterを通じて得られる情報は、それを見ていいと思ったところに出かけたり、いいと思ったものを購入したりするなど、旅行やショッピングのきっかけとして活用されています。しかし一方では、自分の発言内容や他人の投稿への反応に気を使ったり、常につながっていなければならないSNS疲れも見られることから、より気軽に利用できるSNSが求められているのだと考えられます。
(参考)
・「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2014)」JTB総合研究所
8 画像・動画投稿アプリ(Instagram, vine)
若年層の間でInstagramやvineが広がりつつあります。写真や動画を簡単に、また自分好みに編集できることが特徴です。SNSが浸透したことで、特別な体験ではないけれど、何気ない日常の風景に感じた感動などを相手と共有し、自己表現の場とする行動が広がっています。旅行先でも同様に、誰でもが知っている有名な観光地だけではなく、旅先のふとした風景や、ちょっとした自分だけの発見が観光資源となっており、旅の在り方や旅先での情報発信にも変化が生じつつあるようです。
10代のころからスマートフォンやSNSを利用しているスマホネイティブとも言えるミレニアル世代(20代前半)は世界ともリアルタイムでつながり、これまでの概念にとらわれない新しい価値観や行動を創り出していくことが期待されています。