「G7サミット」日本開催からみる国際会議開催地域への啓発と普及について

2008年から数えて8年ぶりのG7サミットは、2016年4月11日、12日の外務大臣会合(広島)を始まりに、5月26日、27日の首脳会議(伊勢志摩)以降も、9月11日、12日に保健大臣会合(神戸)、24日、25日に交通大臣会合(軽井沢)まで各地で開催される。G7サミットは「主要国首脳会議」と呼ばれ、日、米、英、仏、独、伊、加、7か国の首脳並びに欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して開催される首脳会議である。大臣会合と開催地との関係、開催地が受入側として決定以来取り組んでいること、住民・市民に対する理解や普及活動等を通じて、サミットや国際会議等の誘致・開催地域への普及と啓発について考察してみたい。

太田 正隆

太田 正隆 客員研究員

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目次

国際会議開催都市の選択理由の一つは「Why」

2008年はG8サミットとその関連会合が日本国内10都市(11会合)で開催されている。この内、神戸市、新潟市の2都市は2016年も開催都市となり(神戸市:2008年環境大臣会合、2016年保健大臣会合、新潟市:2008年労働大臣会合、2016年農業大臣会合)と連続の大臣会合開催地となった。また、前回(2008年)は司法・内務、労働、開発、気候変動、TICAD IV(アフリカ会議)の大臣会合等があったが今回(2016年)は開催がなく、代りに教育、交通、農業、情報通信、保健の大臣会合が開催されることとなった。

開催地の自治体が目指す都市の有り方とサミットの大臣会合には、密接な関係があると思われる例がある。例えば、新潟は国家戦略特区として農業特区に指定されている。富山市は低炭素社会の実現を目指して環境モデル都市となっている。北九州市は、次世代エネルギーパークに象徴される地球温暖化対策の観点から省エネルギー・新エネルギーを推進している。つくば市は科学技術都市として、「つくば85・国際科学技術博覧会」が1985年開催された都市である。神戸市は前回環境大臣会合であったが、今回の保健大臣会合についていえば、現在神戸市は国家戦略特区を利用して再生医療・神戸医療産業都市を目指している。

国際会議開催においては、開催地として当該都市を選択する理由「Why」が問われることが多い。都市が目指す方向性や地域の特徴が会議の趣旨と合致し、参加者にとって参加意欲が湧く都市であることは重要である。
2008年のG8会合開催一覧
2016年のG7会合開催一覧

首脳会議のサイドイベントとして開催される中高生参加のジュニアサミット

外務省では、「2016年ジュニア・サミットin三重」を、サミット首脳会議直前に三重県桑名市を主会場として、4月22日(金)~28日(木)に開催した。G’7参加国から選抜された15歳~18歳の男女各2名が参加し、「次世代につなぐ地球~環境と持続可能な社会」をメインテーマに、関連するトピックについて議論を交わした。

中高生達のサミットは、2005年のG8グレンイーグルス・サミット(英国)から始まった。各国の代表チームが、首脳会合と関連する議題について討議し、成果文書を作成する。2009年以降中断していたが、2015年G7エルマウ・サミット(ドイツ)の機会に再開され日本からの代表チームも参加した。2016年伊勢志摩サミットに際しても、首脳会合に先立ち外務省主催にて実施することを決定。桑名市をはじめ三重県内の数カ所で開催された。

4月10日~11日に開催された外務大臣会合(広島)では、「G7広島外相会合プレイベント ユース非核特使OB・OG広島フォーラム ~核兵器のない世界の実現のために、今、若者にできること~」を広島市で開催。2013年4月9日にハーグで開催された非核特使」制度の立ち上げを表明し、現在までに計13件、述べ107名に委嘱している。

仙台市におけるG7サミット普及のための取り組み事例

各地の大臣会合ではどのようなサイドイベントを開催しているのだろうか。例えば、5月に財務大臣・中央銀行総裁会議が行われた仙台市では次のようなイベントを開催している。

  1. 2015年12月1日(火)から2016年5月20日(金)まで G7関連パネル展
    会議開催を記念して、会議の概要や仙台開催の意義、会議参加国の概要、各国から震災以降に仙台・東北へ寄せられた復興支援内容等を紹介する巡回パネル展を市役所各支所にて開催
    対象:市役所各支所等へ来訪する市民
  2. 1月22日(金)カフェサミット「サミット参加国について理解を深めよう」
    日本を除くサミット参加6カ国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカ)出身の在仙外国人を講師に迎えトークと交流を楽しむイベント。
    対象:仙台市民
  3. 2月9日(火)G7開催100日前記念イベント
    G7開催の100日前にあたる2月9日に、G7の意義や会議開催が仙台にもたらすインパクト等を考察する記念イベントを開催。財務省担当者による基調講演、地元及び専門家を呼んでパネルディスカッション等。
    対象:仙台市民
  4. 4月2日(土)~3日(日) G7動物公園 スタンプラリー&パネル展
    地元にある八木山動物園にいるG7参加国ゆかりの動物をめぐるスタンプラリーや、会議の概要などを紹介するパネル展を実施。指定された動物等のスタンプを集めると記念品がもらえる。
    対象:仙台市民(特に児童生徒を意識したものと思われる)
  5. 4月15日(金)~5月21日(土)G7図書館フェア
    仙台市内の図書館で、G7に関する図書やパネルの展示を行う。
    対象:仙台市民
  6. 4月20日(水)G7トーク
    「サミット参加国出身者と一緒に考える“おもてなし”」
    会議開催1か月を前に、サミット参加国出身者による、外国人からみた仙台・東北の魅力や、日本で感じたおもてなし等について語っていただき、各国の理解を深める企画。
    対象:仙台市民
  7. 4月23日(火)G7開催一ヶ月前記念イベント
    「国際金融経済が直面する課題と今後の展望」として東大・伊藤和重教授と、地元金融機関七十七銀行常務による「地元企業の海外展開の状況と今後の可能性」基調講演。
    対象:仙台市民
  8. 楽天野球団社長 立花陽三氏 講演会「世界へはばたけ!高校生」
    地元の楽天球団社長を呼び、世界の人々との交流のエピソードや仕事の体験談などを伺い、世界と関わる大切さ、地域と世界のつながりについて、一緒に考えてみませんかという企画。
    対象:高校生

以上、仙台市では、大きく8つのイベントを通じて、G7サミット開催の意義、G7サミット自体の理解を市民の間に普及するため、構成国に関する情報提供をパネルや本などを通じて行うと共に、アクティブな企画としてパネルディスカッションや講演会等を行っている。また、対象が仙台市民ではあるが若年層に訴求しやすいように地元球団代表による高校生に絞り込んだ講演会実施等の手法や、児童生徒を強く意識しゲーム感覚で参加できるような動物園でのイベントなど、市民に対する普及啓発には多くの努力を行っている。

その他の都市の事例

農業大臣会合が行われた新潟市では、記念シンポジウム・食の交流会を1月24日(日)に開催。講演会、G7サミット参加国にちなんだ料理を出すなど、食・農・未来を考えるような内容のイベントを開催した。また、参加国の国花を週替わりで紹介したり和食文化や新潟市の物産等の紹介もおこなわれた。

情報通信大臣会合実施の高松市では、最先端ICT技術の展示会やイベント、香川県内で利用できる無料Wi-Fiスポット紹介、プレスツアーの実施、G7学生ICTサミットを開催し、サミットと同じG7にEU加盟国であるスウェーデンを加えた 8ヶ国 10 名の学生が参加した。また、市内の商店街では、ICT市民体感デー in 高松中央商店街を開催。情報通信会合を意識して、スマホを持って商店街内チェックポイントを巡りキャラクターを集めるなどの仕掛けが行われた。

国際会議開催への理解促進のために

近年、国際会議やMICEに対する理解促進と誘致等に積極的な都市が多い。その為のハード整備、多言語表示やその他ソフトインフラに関する受入環境整備が進んでおり喜ばしいことと思う。従来は、自治体やコンベンションビューロー等の誘致側はMICEの主催者である主催団体へのアプローチ、そして参加者への利便性や各種のサービスを意識した活動を行っている。しかしながら肝心の市民や関係する団体等への理解促進にはあまり注力してこなかった。もちろん経済効果や観光としての効果などについては、一定の説明等は行っているようであるが、どちらかと言えばプッシュ型の一方通行的な啓発普及であることが多いと考えられる。市民は特別自身に関係がなければ、国際会議の開催には興味も湧かないであろう。また市民を構成するのは大人ばかりではなく、明日を担う児童生徒や学生がいるはずである。こうした階層に対しても興味を引くような方法を駆使して理解してもらうことは重要である。

多くの都市ではG7サミットを期に、食、伝統・文化等を通じて参加する6カ国+EU及び多くのメディアに対して開催地のアピールを行うことは当然ながら、地元関係者、市民等に対する理解と協力を得る必要がある。会合によっては平日の開催や、会場が中心市街地であるため多くの交通規制等があるため、市民の理解と協力は大変重要である。G7サミットに限らず、MICEを誘致し開催するための一方的な協力依頼だけではなく、開催される一定期間前から各種のイベントを通じて普及、継発を図ると共に、様々な機会をとらえた環境整備の推進に期待したい。

<参考>
外務省・サミットに関する基礎的なQ&A
外務省・G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
外務省・2016年ジュニア・サミットin三重
外務省・ユース非核特使
2016 G7仙台財務大臣・中央銀行総裁会議推進協力委員会
G7新潟農業大臣会合公式ホームページ
G7 香川・高松情報通信大臣会合特設ホームページ