観光移動における交通機関のエネルギー消費について

本コラムでは、観光消費エネルギー需要の主たる要素である交通移動について秩父市をケーススタディの対象地域として位置づけ、観光移動分野で求められるエネルギー分野へのアプローチに関する一考察を紹介します。

田部 純一

田部 純一

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目次

国内観光のエネルギー消費の現状と整理

国内における移動利用交通手段の割合をみると、500km以上は鉄道、1000km以上は航空と、長距離交通のそれぞれの役割分担は明確となっているが、300km未満となると自動車への偏りが大きい(図1)。

日本の中距離幹線輸送を担う航空・鉄道(図)

一方、観光における旅客のエネルギー消費動向について、輸送量とエネルギー消費量の分担率を比較してみると、双方ともに乗用車の割合が大きくなっているが、輸送量率約52%に対しエネルギー消費量率約77%とエネルギー視点からは非効率となっている(図2)。旅客エネルギー原単位の比較においても、鉄道の6.6倍、航空の1.6倍と乗用車のエネルギー付加が大きいことがわかる。

旅客輸送エネルギー消費量・輸送量分担率(平成21年度)(図)

今後はもっと中短距離交通の中心となる乗用車等のモビリティについてのエネルギー視点での議論が必要だ。日本が観光立国を目指すうえで、重要である集中から拡散(地方分散)の実現に向けて、大都市圏以外での中短距離交通の整備に向けた研究が重要である。

国内地域における可能性の検証

秩父市はセメントを中心とした産業を中心に発展してきたが、町の中心にあった工場が撤退するなどの影響により人口減が顕著となっている。セメントに頼れない現状に対し新たな活性化策と人口減に対する対策が急がれている。そのような状況のなかで、総務省および埼玉県より「森林資源活用エネルギー地参照モデル」地区に指定され木質バイオマスによる「ガス化+バイオオイル化」をコアに事業化がすすめられている。
しかしながら、事業化の先の視点として秩父市全体の活性化が最終目標とされる中で、少子高齢化や人口減少といった大きな社会的課題解決に寄与していくためには、ビジネスエコシステム的発想が重要であり、その拡大と推進のためには人流の拡大が重要なカギとなってくる。

特に秩父市については、東京近郊という立地と観光資源のポテンシャル高さから、ほぼ年間950万人の観光客数を安定的に獲得し、観光客の移動手段は約70%を乗用車が占めているといった状況がある。以下に示す生態系(ビジネスエコシステム)の有効化にあたり、観光移動のエネルギー消費に注視していく。
地域への再生可能エネルギーの導入について、地域経済への波及を考えると、それだけでは厳しいことが明らかになりつつある。これはバイオマスによる発電に大規模なものが少なく産業や生活を支えるまでの供給に至っていないといった現状がある。そこで、地域経済の一部を一つの生態系ととらえ、バイオマスを中心とした生態系として木質系産業を集積するモデルとしてビジネスエコシステムといった構想が多く発想されている。その生態系に観光というモデルを付加することが、新たなアプローチとして重要になってくる(図3)。

観光とエネルギー双方の分野からの考え方の融合により地域全体の経済の向上につながる可能性の検証と、エネルギー・観光・モビリティを一体的に考え繋いでいくことで、有効な提案を導く手法の構築を検討していくことが必要である。

秩父市の新たな活性化モデル案(図)