イベントで効果を発揮!「トレーラー型観光案内所」
~必要な時、必要な場所に、案内所サービスを~ 観光案内所は「まちの顔」という重要な役割を担っています。本調査ではトレーラー型観光案内所「インフォ・ボックス」の活用方法と、その土地の案内員の今後の理想的な育成方法や地域の人材の活用などについて考察しています。
長島 純子 主任研究員
目次
訪日外国人旅行者の増加にともない、街中には外国語対応する観光案内所が増えています(*1)。一方、地域によっては、常時設置は必要なく「年に数回のお祭りや桜・紅葉のシーズン、イベント開催時だけ外国語対応できる案内所がほしい」といった声も聞かれます。
そこで、必要な時、必要な場所で、臨機応変に外国人旅行者への案内ができることを目的に、(1)トレーラー型のブース、(2)案内員(英語・中国語対応)、(3)関連サービスの3つをワンパッケージにしたサービス(仮称「インフォ・ボックス」。以下、この表記)を考案し、実際に各地の催事に派遣して、サービス内容、設備、運営方法について検証(*2)しました。調査パートナーの(株)丹青社が開発したトレーラー型ブースは、旅行者が気楽に話しかけやすいように車体側面を全開したキッチンカーふうのデザインで、パンフレット展示棚やスポット照明を備えています。
「トレーラー型観光案内所」設置と検証の概要
2016年9月~11月に、石岡市、日光市、岐阜市、静岡市の4か所の催事(*3)にご協力を得て、うち3か所に「インフォ・ボックス」を派遣し、以下のサービスを行い、来場した外国人にアンケート調査を実施しました。
(1)ユーザー (外国人旅行者)向けサービス
- 英語と中国語による情報提供:催事内容、周辺の利便施設、周辺の観光・交通 等。
- 無料Wi-Fiサービス
- 無料充電サービス
(2)クライアント (催事主催者)向けサービス
- 催事案内資料の編集・翻訳:英語(希望があれば簡体字・繁体字)に翻訳し、案内員マニュアルとして使用後、主催者/自治体に進呈。
- アンケート調査:催事に来訪した外国人を対象にアンケート調査を実施。催事主催者が希望する設問を組み込み、調査結果を進呈。
催事を訪れた訪日外国人旅行者の8割が案内所を利用、日本在住の外国人も利用
調査協力地の各催事を訪れた外国人(46か国・地域の出身者362人)を対象とするアンケート調査では、「インフォ・ボックス」の利用者は62.7%でした。居住地別にみると「海外居住(訪日外国人)」は81.8%が利用しており、「日本居住(在日外国人)」45.3%に比べて訪日外国人旅行者の利用ニーズが大きいことがわかります(図1)。
一方で、日本に居住する外国人も、日常の生活圏を離れた場所での催事を訪れるにあたっては、利用ニーズがあるようです。利用した外国人留学生に話を聞くと、日本語を一定程度は理解し、日本人の友人が同行していても「耳慣れない祭りの用語が理解できない」「初めて来訪したので勝手がわからない」「詳細なイベントスケジュールを英語で知りたい」「同行の日本人も祭りの歴史や見どころがわからない」等の理由で「インフォ・ボックス」に立ち寄っていました。
質問内容で多かったのは「催事のスケジュール(42.7%)」「周辺の観光資源(41.4%)」「ブース、ステージ、パレード等の場所(32.6%)」(図2)で、「インフォ・ボックス」の案内員が記録した日報の内容と傾向は同じでした。
(図1)利用状況
(図2)利用者の質問内容(複数回答)
「必要な場所にあること」がもたらすメリットや役割
調査の結果、これまで案内所を設置できなかった「必要な場所」に「インフォ・ボックス」を置くと、情報提供による催事来場者・旅行者の利便性向上のほかにもメリットが生じることがわかりました。
1つは、設置者が物販の機会を得ることです。調査現場では外国人旅行者から「お土産や飲料は販売していないの?」という質問があり、アンケートの「その他」欄にも同様の意見がありました。「インフォ・ボックス」は、催事開催時にその地域で最も集客している場所に簡単に「拠点」をつくれるので、情報提供に留まらず、地域産品のショーケースやテストマーケティングに活用できそうです。
もう1つは、イベントや観光地における夜間の安心安全の場の創出です。夜間営業を試したところ、その「オフィシャルな存在感」に旅行者が心強さを感じている様子が見られました。店舗の閉店時間が早く17時から周囲が真っ暗になった場所では“灯台”として機能し、ナイトツアーに参加する外国人旅行者が、明るい「インフォ・ボックス」の周りに自然に集まり、案内員やガイドと談笑しながらツアー開始を待っていました。まちの中心部を離れた観光地やイベント会場で、夜間も明るい「公式」ブースに案内員が待機していることは、外国人だけでなく、すべての旅行者に安心感をもたらすと思われます。
既存の観光案内所との共存共栄をめざして
観光案内所は「まちの顔」という重要な役割を担っています。「インフォ・ボックス」のように有期的な存在であっても案内員育成は大切です。本調査の案内員研修は「旅の思い出は、その土地の人(=案内員)と1対1でふれあったときの気持ちで決まる」ことを重視して行いました。今後の理想的な育成方法は、地域の人材を活用することです。例えば、地域の大学と連携し、学生・留学生に向けて、インバウンドの効果を学ぶ講義と「インフォ・ボックス」での案内体験をプログラム化するなどです。プログラム化の際には、地域の観光協会やDMO、通訳案内士、観光ボランティア団体など、地域について体験的な知識を豊富に持つ人々の指導を仰ぎ、情報を質・量ともに高める必要があります。
「インフォ・ボックス」は、今後、(1)既存の観光案内所のピーク時を補完する方法として、(2)最も集客のある機会に地域をアピールする拠点として、(3)地域の人材育成のツールとして、活用できるものに育てたいと考えています。