日本版DMOはどのように稼ぐのか?~自律的・継続的な運営に向けて~
日本版DMO候補法人(以下、日本版DMO)の登録が2015年11月にスタートしました。日本版DMOが担う役割は、マーケティング調査とそれを踏まえた戦略の作成、関係者との合意形成、各種事業のかじ取り役など非営利的な活動がほとんどで、多くの候補法人が「安定的な運営資金の確保」に頭を悩ませています。本コラムでは、日本版DMOが自律的・継続的な活動を行うために安定的な運営資金の確保をどのように実現すればよいのか?を考えます。
中野 文彦 主任研究員
目次
日本版DMO候補法人(以下、日本版DMO)の登録が2015年11月にスタートし、現在第7弾の登録が発表されています。その数は2017年1月までに123法人となりました。わずか1年2か月という短い間に日本版DMOを中心とした観光振興の体制づくりが全国で進められていることになります。しかし、「候補法人」という名称が示す通り、各法人の取り組みにはまだまだ課題も多く存在します。特に、日本版DMOが自律的・継続的な活動を行うための、「安定的な運営資金の確保」の要件(観光庁「日本版DMO」形成・確立に係る手引き(第1版)p.6 参照)は、多くの候補法人が頭を悩ます課題の一つです。
日本版DMOが担う役割は、マーケティング調査とその分析、それを踏まえた戦略の作成、関係者と喧々諤々の議論をしながらの合意形成、先導役・舵取り役として各種事業の実施など、非営利的な活動がほとんどです。本コラムでは、こうした役割を担いながら、安定的な運営資金の確保をどのように実現すればよいのか?を考察します。
1. 99件の日本版DMOにおける収入計画を整理・分析してみました
日本版DMOは、自律的・継続的な活動のための安定的な運営資金の確保に向けて、どのように収入を得ようとしているのでしょうか?
日本版DMO候補法人に登録されるためには、「日本版DMO形成・確立計画」 を作成し、観光庁に申請する必要があります。そこには、申請時から3~5年の「活動に係る運営費の額及び調達方法の見通し」が記載されており、計画の最終年度までの収入確保に関する計画が示されています。
本項では、2016年12月までに登録された112件のうち、対象エリアの広い「広域連携DMO」を除き、さらに計画が示されていた99の法人(「地域連携DMO」「地域DMO」)について、その収入計画について整理・分析を行いました。
2. 日本版DMOの収入規模は、500万円から30億円まで幅広い
まず、収入の規模を見てみましょう。
最も規模の大きな日本版DMOは30億円規模となる「一般財団法人神戸国際観光コンベンション協会」です。しかし、これは特別な例で、図1 に見られるように3億円以上の大規模なDMOが全体の16%(16件)、1億円以上3億円未満の法人が30%(30件)、1億円未満の法人が54%(53件)という分布になります。最も規模の小さいDMOは地域連携DMOの「(一社)ノオト(兵庫県豊岡市、養父市、朝来市、篠山市)」で、収入規模は500万円となります。
収入規模と「地域DMO」、「地域連携DMO」の区別にはあまり関係は見られません。また、対象エリアの都市規模等ともあまり関係性は見られません。例えば、5億円以上の規模のDMOの内訳は、地域連携DMOは県レベルのDMO3件(大阪府、山形県、香川県)、地域DMOは政令指定都市の2件(京都市、神戸市)と墨田区、長崎市、薩摩川内市の3件となっています。
3. 日本版DMOの7割は補助金に頼り切らない
次に、収入構造について見てみましょう。
日本版DMOの収入は、国・県・市町村からの補助金・負担金、国・県・市町村や民間企業からの業務委託、国・県・市町村からの指定管理・施設運営、民間企業からの会費・負担金、日本版DMO自らの事業収入等があげられます。
これらの収入源のうち、どの収入が柱となっているかで分類すると、図2のようになります。行政の補助金等が柱となる「行政連携型」が最も多い24%になりますが、行政の補助だけに頼らない「バランス型」や自らの事業を運営の柱とする「事業運営型」が70%と、日本版DMOが一定程度の収入を自ら獲得する運営スタイルを指向していることが分かります。
また、それぞれのタイプは、収入規模の小さなDMOから大きいDMOまで、広く分布していることもわかります(図3)。
4. 日本版DMOの「稼ぐ」仕組み
日本版DMOの「稼ぐ」仕組みをもう少し探るために、特色のある日本版DMOを見てみましょう。
■行政連携型 「(公社)萩市観光協会」
萩市は世界遺産「明治日本の産業革命遺産」や「萩まちじゅう博物館」等の取組を中心に、明治維新150年(2018年度)を大きなチャンスとしてとらえ、様々な取り組みを行っています。そうした萩市の地域DMO「(公社)萩市観光協会」は、7割が市からの補助金です。しかし行政補助頼りというわけではなく、「自律的・継続的な活動に向け取組・方針」として、(1)一般社団法人化による収益事業の拡大(2017年4月予定)、(2)市等からの受託事業拡大及び効率化による基盤の確立、(3)魅力あるウェブ発信による広告収入の拡大、(4)物販事業の拡大、(5)市等からの補助金増額等をあげています。
特に(5)に関しては「2018年を目途に、萩市入湯税を財源にDMO事業資金の新設を要望する」ことを具体的にあげているのが特徴的です。こうした、観光等による行政の新財源の一部を、DMOの運営費とする仕組みづくりは観光庁も「安定的な運営資金」として推奨しており、他の13件の日本版DMOでも入湯税湯税の他、宿泊税、ふるさと納税等のDMO財源としての導入・活用の仕組みづくりが試みられています。
■バランス型 「(一社)あまみ大島観光物産連盟」
「(一社)あまみ大島観光物産連盟(現:奄美大島観光物産協会)」は奄美大島5 市町村による地域連携DMO、奄美大島の海、唄、酒、食、情景等の文化を観光客にワンストップでの提供を目指しています。
収入は、設立当初は国からの補助が9割ですが、奄美大島DMO5ヵ年計画(平成28年度~平成32年度)を示し、2017年度から収益事業、会費収入を増やしながら自律的・継続的な活動を行うための「安定的な運営資金の確保」を計画しています。
「(一社)あまみ大島観光物産連盟」は2017年1月にホームページを全面リニューアルしました(「あまみっけ」)。このホームページは体験型コンテンツ等を観光客がWEB上で直接予約・購入できる仕組みを導入しています。こうしたサービスは日本版DMO収入源の一つともなります。このシステム開発にはJTBグループも深く参画しており、他のDMOにおいても導入可能な仕組みとなっています。日本版DMOの課題解決の参考になる事例です。
■事業運営型「特定非営利法人ORGAN(長良川DMO)」
「特定非営利法人ORGAN」は長良川の上・中流域(岐阜県岐阜市、関市、美濃市、郡上市)の地域連携DMOで、長良川が育んだ生活文化、水運がつなぎ川湊に成立した産業、水に対する信仰」といった「長良川流域文化」を魅力の源泉としています。特に「長良川温泉博覧会※」で蓄積した長良川ファンとの交流や、「清流長良川の鮎(世界農業遺産認定)」というブランドを地域活性化に活かす取り組みを計画しています。
収入については2018年度には90%以上を収益事業収入とする計画です。その内容は、長良川流域における観光マーケティング調査とそのレポート販売、観光関連事業者による長良川DMOサポーター体制の仕組みづくり(会費収入)、自社着地型体験商品の造成・販売、長良川流域地域特産品販売事業『長良川デパート』の売上(webショップ、実店舗)など多岐にわたります。特に長良川流域の産品のブランド化と直接販売ルートの構築を目指す等、農業、漁業、伝統的な製造業といった地元産業の活性化につながるDMOの収益事業に取り組んでいることに特徴があります。
※通称「長良川おんぱく」。岐阜市をメインとした長良川流域の市町村各地で約1ヶ月間開催される体験プログラムを中心としたイベント。
5. 日本版DMOは設立段階から運営段階へ
ここまで、簡単ではありますが、日本版DMOの「稼ぐ仕組み」について、俯瞰的に、個別の仕組みについて見てきました。これは、あくまで計画の段階であり、計画の通りに進まない場合も多くあることも承知しておく必要があります。しかし少なくとも、それぞれの日本版DMOが、行政が担う役割、産業界が担う役割、日本版DMOが担う役割を明らかにし、それぞれの地域に適した「稼げる地域づくり」の形を構築しようとしている、ということは言えると思います(本稿では行政連携型、バランス型、事業運営型といったタイプに分けました)。
日本版DMOの役割は「稼げる地域づくり」であり、自律的・継続的な運営の形をつくることは重要ではあっても、それだけで本来の目的が達成できるわけではありません。特に、今後日本版DMOは設立段階から運営段階へと進む中で、失敗例も、成功例も出てくるでしょう。今後、そうした事例について、成功例はもちろんですが、失敗例からも、次のステップに向けて有意な知見を蓄積することが重要になります。こうした日本版DMO全体にとってのPDCAにつなげていくことも意識しながら、今後もDMOについて、観光地経営について、知見を深めていきたいと思います。