テクノロジーの進化と空港の未来

空港の保安検査を長い行列で待ったり、手荷物を細かくチェックされたり、靴を脱がされたり・・・といった経験をストレスや不満に感じたことがある方は多いのではないでしょうか。昨今急激に進むテクノロジーの発展は、航空の領域にも大きな変化をもたらし、空港のいたるところでテクノロジーを活用した業務合理化が進展中です。今後は高い信頼性と旅客満足を確保しつつ、低コストで多くの旅客を取り扱うことのできる空港が出現する時代が目の前に迫っています。本コラムでは、テクノロジーの進化とともに空港で進む新しい取り組みの一部を紹介します。

野村 尚司

野村 尚司

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目次

1.テクノロジーの進化により、変わる空港

2018年、訪日外国人観光客は3000万人を突破しました。政府では2020年までにその数を4000万人へ増やすべく様々な政策を推進中です。増大を続ける航空旅客需要に対応するため航空便の増加が見込まれ、空港での旅客処理能力を高めることが喫緊の課題となってきました。我が国における大都市空港は既に満杯状態です。新滑走路の設置やターミナル増設など空港容量の拡大にはまだ時間がかかります。そこで現有施設の効率的運用が強く求められるようになりました。

交通機関は高度な安全を確保するのが大前提です。そのうえで日々の航空便の運航を妨げることなく効率化を進める必要があります。しかし航空券単価の下落が続いていることもあり航空会社のコスト削減も待ったなしの状態。さらに人手不足への対応も必要となります。

2.空港における自動化の推進 ~自動搭乗橋、自動運転車、ドローン~

世界の航空会社で組織する国際航空運送協会(IATA)は、AI(人工知能)などテクノロジーを活用した空港の諸業務の高度化・合理化に着手しました。その内容とは、航空機の誘導、地上電力の供給、搭乗橋の接続、次便出発へ向けた燃料搭載、機内清掃、貨物・手荷物や機内食・販売品やその他物品の取り卸し・搭載などです。これらを定時性と安全性を確保しながら確実に実施する必要があるのです。

では、どのような業務から着手されるのでしょうか。以下、代表的な3つの取り組みをご紹介します。

まず、搭乗橋(ボーディングブリッジ)の接続自動化です。空港ターミナルビルに横付けされた航空機の乗り降りに使用するのがこの搭乗橋です。航空機到着後、地上係員の操作によって搭乗橋が機体に接続され、扉が開くと到着旅客が降機し、給油、清掃など地上諸業務の終了後、出発客を搭乗させ航空機の扉を閉めて出発となります。この搭乗橋の接続作業を自動化させることで、作業時間短縮と人手に頼ってきた作業の削減が可能となります。

2番目として自動運転車の導入があります。ともすれば一般道や高速道路を通行するイメージが強い自動運転車ですが、空港での地上支援業務にあたってもその真価が発揮されると期待されています。例えば、ターミナルビルから離れたスポットの航空機に搭乗客を運ぶターミナルバスの運行を自動運転車に置き換える計画です。実は公道と比較して空港敷地は限られたスペースであることから自動運転車の管理が高度にかつ容易にできる利点が存在するのです。現状のターミナルバスで入国審査が必要な国際線で到着した旅客を誤って国内線到着ロビーへ誘導するといったトラブルが発生したことをご存知の方も多いと思います。自動運転車ではこうしたトラブルが回避されるだけでなく、処理できる旅客数も増やすことが可能です。また駐機場スペースの有効活用により航空機の離発着回数の増加につなげることが可能となります。さらに自動運転車は手荷物・貨物の積卸作業にも使用されることとなります。具体的には機材周りでの取下し・積込の作業、機体と空港ターミナル間の搬送、またターミナルでの手荷物引き渡しまでの一連の作業の多くを担当することになります。

3番目にはドローンの積極的な活用です。地上からは見えにくい機体箇所の目視チェックや到着航空機の搭乗橋設置サポート、またターミナル・ゲートから航空機が自走可能な地点までの機体移動を無人牽引車とドローン監視の組み合わせにより実施するといった無人化・自動化が実現するのです。また不審者の監視にも活用できることから、高度な安全の確保につながります。

同時に乗り越えるべき課題もあります。1.既存機材を同時運用しながらどのように自動運転車・ドローンを導入するのか。2.厳格な運用規定が存在する空港地上支援業務の基準を満たすだけの自動運転車・ドローンが開発されるのか3.地上支援業務に従事してきた職員の担当業務変更や人員整理など労務面での課題。4.航空会社もしくは空港により異なった多様な要求・制約が存在し、それらをどのように調整・管理しその課題を克服するのか。5.また自動化には不可欠なデータの取り扱いに関する保安上の課題ならびに責任の範囲の課題、などの克服に向けた取り組みが進行中です。

3.旅客側の満足度の改善と安全確保のための総背番号制「One ID」

前出の国際航空運送協会(IATA)ではStBというプロジェクトも推進しています。これはテクノロジーの活用による旅客の旅行経験改善や運営効率化を目的としており、具体的には、1.増加する航空・旅行商品品目への対応や運営コスト削減、2.旅行中の旅客への情報提供、3.旅客の待ち時間短縮、といった内容です。

 StBプロジェクトを構成するプログラムで、特に注目を浴びるのが「One ID」です。これは、増加の一途をたどる航空旅客の処理能力向上と、空港での手続自動化による旅客満足度の改善、さらにはテロリストなどの危険人物排除による空の安全の確保を目的としています。旅客認証に用いられるIDを一本化し本人認証の信頼度向上と処理時間短縮を目指すものです。

IATAが実施した調査によると、旅客が旅行中にストレスに感じる事で上位にランクされるのは、空港での保安検査、機内エンタテイメント設備のトラブル、到着空港での受託手荷物受け取り、となっています。特に空港での保安検査においては、「靴・ベルト・上着を脱ぐこと」が74%、「PCなどを取り出して別検査を行う」が51%、「空港により、保安検査の内容が異なること」が47%と高い割合を示しています。さらに保安検査で10分以上待つのは許容できない、との意見も多く示されました。

これまで出発空港では、搭乗手続(搭乗券発行、受託荷物タグ発行、旅客の目的地入国要件チェック)、出国管理、保安検査のみならず、到着空港でも入国管理手続などに係る本人確認を個別に行ってきました。One IDでは各旅客に割り当てられた統合IDにより本人確認手続がスピーディーになります。当然、各手続きの時間が大幅に短縮されることから旅客の不満解消につながります。

昨今、入国に係る事前認証が必要な国が増えてきました。米国のESTAや豪州のETASといった事前の手続きをご存知の方も多いと思います。そしてEU諸国でも同様の認証ETIASが2021年(予定)から必要となります。One IDの統合された認証はこうした各国の認証と紐づけられ、偽造旅券の使用やテロリストなどの航空機利用ならびに他国への渡航防止の強化のみならず、人身売買など他の犯罪防止にも貢献することとなます。またテロリストのみならず例えば経済犯罪に係るリスクの高い旅客といった不審者の割り出しにも力を発揮できることから、広い領域の犯罪防止につながることが期待されています。

もちろん、これらは航空を利用する世界中のすべての人々に対する背番号制導入を意味するため、旅客個人の監視が強化される側面があることも否定できません。

いずれにせよ、旅行者の満足度向上、航空安全の確保、不審者の越境防止、航空会社のコスト削減の必要性、空港の旅客処理能力改善など多くの側面に配慮しつつ、今後様々な取り組みが出現することとなります。