「旅行業務取扱管理者試験」の現状について ~広がる受験者層と資格取得者に観光業界が寄せる期待~

昨年9月に「地域限定旅行業務取扱管理者試験」が初めて実施されました。これは旅行業務取扱管理者の中の新しい資格で、初年度には全国で400人が受験しました。これまで旅行業務取扱管理者試験には、国内旅行業務のみが取扱できる「国内旅行業務取扱管理者(以下 国内)」と国内旅行、海外旅行の両方を取り扱うことができる「総合旅行業務取扱管理者(以下 総合)、がありましたが、近年DMOなどの活動で着地型観光プランを提供するために資格を取得する動きが高まり、取得希望者への門戸を広げることを目的に新設されたものです。本文では地域の観光の動きに伴う旅行業務取扱管理者試験の現状と課題について考察します。

山﨑 誠

山﨑 誠 営業担当部長

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目次

1.新設された「地域限定旅行業務取扱管理者試験」とは

「地域限定旅行業務取扱管理者」は2013年に設定された地域限定旅行業を、より普及させる目的で導入されました。地域限定旅行業とは、地域の観光資源・魅力を生かした体験・交流型旅行商品の企画・販売等を行う事業を指します。これまで、地域限定旅行業を登録するためには、総合もしくは国内旅行業務取扱管理者の資格が必要とされていましたが、受験科目が軽減された「地域限定旅行業務取扱管理者」の資格も適用されることになり、地域限定旅行業取得のためのハードルが下がったと言えます。

旅行業者等の登録種別には、取り扱う旅行範囲により下表のような違いがあります。
旅行業務取扱管理者試験種別

「地域限定旅行業務取扱管理者」の試験科目は法令、約款、国内旅行実務の3科目で「国内」と同様ですが、航空運送にかかわる運送約款、利用料金、国内地理が出題範囲から除外され、鉄道事業者、航空関連事業者、バス事業者、船舶事業者等の輸送機関、観光協会、観光振興公社、NPO団体等など、これまであまり旅行業務取扱管理者の資格を取得していなかった事業者にも広がる動きが見られました。

2.旅行業務取扱管理者試験結果

(1)各試験の受験者、合格者

2018年度試験の「国内」の受験者数は14,327人で合格者5,674人、合格率39.6%、「総合」の受験者数は9,306人、合格者2,547人合格率27.1%でした。(2017年度試験の合格率は「国内」38.6%、「総合」23.4%)新設の「地域限定」は主催団体から受験者数が公表されていませんが、合格者番号を見る限り、約400名が受験をし、58名の合格者でした。受験者数が少なかった要因としては受験会場が東京、大阪の2会場だけであったこと、告知から募集の期間が短かったことが考えられます。

(2)受験者の職業分類

「国内」、「総合」それぞれの職業別の合格者構成比をみると、「総合」では、旅行業従事者の割合が42.9%と最も多くなっていますが、「国内」では旅行業従事者が受験申込者全体の11.4%に留まる中、運送業、宿泊業、観光業、その他会社員の計では28.9%となっています。また、「国内」の受験者数の推移をみても、旅行業以外の従事者は年々増加傾向にあります。受験者や合格者に旅行業以外の従事者が多くなっている背景には、着地型旅行の普及を目的とした第3種旅行業者の登録の規制緩和があります。

「国内旅行業務取扱管理者」業種別合格者割合
「総合旅行業務取扱管理者」業種別合格者割合
「国内」職業別受験者数

観光協会・観光振興公社は着地型旅行商品の企画や販売を可能にするために旅行業登録を取得したい、鉄道事業者はで地元発のツアーを企画するために多くの駅に取扱管理者を配置したい意向があり、バス事業者も同様に各営業所への配置を目指しています。また、宿泊事業者でもホテル発の日帰りツアーといった着地型商品を造成することが増えています。観光客を呼び込み、囲い込んで事業拡大するためには幅広い知識を持った「国内」取得者が必要であるという考えも広まっているのではないでしょうか。また構成比で48.9%である学生は就職活動において、旅行業者のみならず、各方面で合格者が優位であることも影響していると考えられます。観光を取り巻く環境変化が旅行業務取扱管理者の合格者構成にも表れていると言えます。

「総合」の合格者のうち、旅行業以外の職業や学生の割合が「国内」と比較すると少ない理由としては、OTA(Online Travel Agent)の躍進による旅行会社の店舗数の減少といった業態変化や低い合格率による受験者数の減少(具体的には2018年度全科目受験者の合格率は11.0%と前年2017年度の8.8%より回復はしたが、その難しさから受験自体を敬遠する学生の増加)があると思われます。

3.今後の課題と展望

最近では、「着地型観光で街を元気にするために職員に国家試験を受験させたいので講師を派遣してほしい」、若者の農業従事者が、「自らが居住すると地域の魅力発信のために資格を取って起業したい」、地元の学校で国家資格を取得した学生が「地域の観光振興公社に新卒で就職できた」といった声が多く寄せられるようになり、「旅行会社に勤務するわけではないから資格は必要ない」といった従前の考え方は少なくなってきていることを感じます。

これまでは旅行会社の社員が取得する資格の位置づけだった「旅行業務取扱管理者」ですが、観光業に係る幅広い事業者に資格取得が浸透することで、旅行商品の造成・販売に止まることなく、様々なシーンでの効果が期待できます。地域が観光振興による地域活性化を図るうえで適正な商品(着地型観光プラン)を提供するためにも、旅行業法、旅行業約款、国内実務等の基礎知識をもった資格取得者が管理・監督を担う役割が益々高まってきているのです。

 運営について考えてみると、初年度は受験会場が全国で2か所だけだったために、受験しづらかったとの意見がありました。「地域限定」合格者を真に増やすのであれば、少なくとも「国内」同様全国9会場、可能であれば都道府県単位で受験会場を設けることでの受験機会の増大を図る必要があるのではないでしょうか。インバウンドの急増、2019年のスポーツ世界大会や東京2020を見据えた中で、観光を支える人材が必要される機会や場も増えることで、「旅行業務取扱管理者」も活躍の場が既存の旅行会社だけではない広がりをみせることを期待します。