増え続ける中国の市民ランナーの海外大会への関心

近年、中国ではマラソンやランニングがブームとなっています。2018年に中国で開催されたマラソン大会は1,581大会*1 (前年比43.5%増)で、2011年の22回から飛躍的に増えています。日本では2007年に始まった「東京マラソン」がマラソンブームを起こし、地方でもマラソン大会やランニングイベントが多く開催されるようになりましたが、現在は、参加ランナーや運営費の確保において、特に地方での大会は厳しい競争下にあるようです。本コラムでは、当社で実施したアンケート調査を基に、増え続ける中国の市民ランナーが日本を含む海外のマラソン大会にも興味を持っているかについて考察しました。

長島 純子

長島 純子 主任研究員

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目次

1.増え続ける中国の市民ランナーの海外大会への関心

2018年に中国で開催されたマラソン関連大会の参加人数は、前年比17%増の延べ583万人で、このうちフルマラソンが265.6万人、ハーフマラソンが188.4万人となっています。国としてスポーツ産業の取組みを後押ししており、2018年のマラソン関連消費額は178億元、マラソン大会開催による経済効果は288億元、関連産業の市場規模は前年比7%増の746億元に達しています*2。

中国の市民ランナーは、海外のマラソン大会にも関心があるのでしょうか。当社は、北京と上海のランニング愛好者を対象にアンケート調査を行いました*3。

回答者884人の属性は下図のとおりです。男性が女性の約2倍。年代は20~40歳代が86%で、訪日旅行の意向が高い世代と重なります*4。ランニング歴は1年未満、1~2年、3~4年、5年以上が概ね等分になりました。

中国の市民ランナー

(1)増え続ける中国の市民ランナーの海外大会への関心

アンケート回答者のうち、海外のマラソン大会の参加経験が「ある」は16.1%でした。ランニング歴別にみると「3~4年」の人が比較的多いです。ランニング経験3~6年が海外の大会に行きたいと思う時期なのかもしれません。

一度参加した海外のマラソン大会に再度参加したいかを聞いたところ、「コースの風景や街並みが素晴らしい大会だから、今後も参加したい」が61.3%となり、外国の美しいコース景観に魅力を感じて再訪したいと思っていることがわかります。

海外のマラソン大会参加経験

(2)海外のマラソン大会の選び方と、現地プログラムに望むこと

海外のマラソン大会の選び方については、「行きたい国を先に決めてマラソン大会を探す」が約半数です。また、大会参加の前後に開催地を観光したいかを聞いたところ「積極的に開催地の観光をしたい」が66.5%となり、性別、年代別、ランニング歴別のいずれにも偏りがありませんでした。属性にかかわらず、海外のマラソン大会参加においては、開催地の観光にも関心が高いことがわかります。

大会参加の前日・後日に参加したい現地プログラムについては「大会前日に母国語で説明してくれるマラソンコース下見」が46.5%で最も多く、走るコースや、エイド・救護所などの確認が望まれています。「大会後に、温泉やマッサージに行くプログラム」は、女性が男性よりも9ポイント高い結果になりました。

海外のマラソン大会の選び方

現地プラグラムに望むこと

(3)日本のマラソン大会への参加意向は4割

次に日本のマラソン大会について聞いてみました。「日本では大都市だけでなく、各地で大きなマラソン大会が盛んに開催されている」ことを「知っている」は66.0%で、「知らない」を上回りました。

調査を実施した2018年10~11月時点で、2019年に開催される日本のマラソン大会に参加したいと回答した人は44.1%で、「参加したい大会を既に決めている」が16.6%、「参加したい大会はこれから考える」が27.5%でした。

日本のマラソン大会への参加意向

2.日本が外国人ランナーにとって「マラソンに行きたい国」となるには

(1)外国人ランナー向け滞在コンテンツづくりのヒント

アンケート調査結果から、中国人ランナーの参加と開催地での滞在を促進するには、彼らが求める情報・体験を提供する現地プログラムが有効と考えられます。特に「母国語によるコース下見ツアー」は半数が「参加したい」と答えています。

そこで、当社が複数の大会の協力を得て、外国人ランナー向けに「母国語によるコース下見ツアー」を試行したところ、成功のポイントのひとつは、大会運営、観光、プロモーションの担当部署の連携にありました。バスに乗った外国人ランナー達に、コース詳細を説明し、途中で大会運営の質問に応え、コース上の旬の観光情報もアピールしてワクワク感を引き出すには、部署を横断した事前の情報集約と、それに基づいたメリハリある説明シナリオの作成が必要になるからです。

さらに、アンケートと同時期に、地方部のマラソン大会に参加した香港・台湾・中国からのランナー40人に海外大会の参加経験を聞いたところ、実に多くの有名なマラソン大会が挙げられました。日本国内では、東京マラソン、富士山マラソンなど18大会。日本以外では13カ国・27大会。中国人ランナーには、シカゴマラソンや、ベルリンマラソンの参加経験もみられました。

東アジアからの外国人ランナーが地方部のマラソン大会を選ぶ際には、すでに国内外の都市型の大規模大会や、有名リゾート地での大会を経験している可能性が高いとすれば、大会運営や滞在環境、現地観光などについて、彼らは世界の大会と比較し、再訪や知人への推薦を判断していることになります。地方大会であるなら、なおさら、海外での大会参加に慣れた外国人ランナーを満足させる滞在コンテンツを、大会運営側と観光関連部署との連携のもとに開発することが必要と考えられます。

(2)大会存続と観光振興の両面から期待を集める外国人ランナー

日本では、2007年に始まった「東京マラソン」がマラソンブームを起こし、全国にマラソン大会やランニングイベントが増えました。どの種目を基準にするかによりますが、現在の開催数は2,000あるいは3,000とも言われます。有名な大会に参加希望者が殺到する一方で、例えば、30回続いた「たねがしまロケットマラソン」(鹿児島県)が2017年に終了するなど、特に地方大会は、参加ランナーや運営費の確保において厳しい競争下にあるようです。

そのため、外国人ランナーを積極的に迎えようと、海外でのプロモーションや外国人優先枠の設定などを行う大会が珍しくありません。マラソン大会を有する地方部の自治体において、スポーツ担当部署は、大会存続をかけた参加者増と運営資金の確保を、観光担当部署は、大会を通じた観光収入増と訪日外国人旅行者増をめざしています。

アンケート調査結果から、中国の市民ランナーも、海外のマラソン大会に関心があり、開催地の観光にも積極的な意向が見られました。日本については、各地でマラソン大会が盛んに開催されていることが認知され、4割が訪日して参加することに関心を持っています。台湾や香港から訪日するランナー達に続いて、今後、参加の拡大が望めるマーケットの一つといえそうです。

 

*1:800人以上参加のロードレース、300人以上参加のクロスカントリーレース
 *2:「2018中国马拉松大数据分析报告」中国陸上競技協会
 *3:北京と上海におけるアンケート。(1)2018年10月13日 北京ハードロックマラソン参加ランナー525人 (2)2018年11月16~17日 上海スポーツショー「China Run」ブース来場者359人
 *4:「居住地別に見る中国人旅行者の調査」(JTB総合研究所 2016年9月)において、中国の都市に在住し、3年以内に日本への旅行を計画している世帯年収12万元以上のアンケート対象者を抽出したところ、20~40代が97%を占めた。