地域を元気にする存在としての高校生の可能性
2018年12月、「クールジャパン高校生ストーリーコンテスト」が開催されました。このコンテストは、クールジャパン官民連携プラットフォーム(事務局:内閣府知的財産戦略推進事務局)の事業として高校生が自分の住む地域や日本ならではのクールジャパン*資源を発掘し、その魅力を外国人に伝えるための「ストーリー」を考えて競い合うコンテストです。同コンテストからみえてきた、地域を元気にする“人財”としての高校生の可能性について考察します。
斎藤 薫 主任研究員
目次
昨年12月、「クールジャパン高校生ストーリーコンテスト」が開催されました。このコンテストは、クールジャパン官民連携プラットフォーム(事務局:内閣府知的財産戦略推進事務局)の事業として高校生が自分の住む地域や日本ならではのクールジャパン*資源を発掘し、その魅力を外国人に伝えるための「ストーリー」を考えて競い合うコンテストです。同コンテストからみえてきた、地域を元気にする“人財”としての高校生の可能性について考察します。
*クールジャパン:世界から「クール(かっこいい)」と捉えられる(その可能性のあるものを含む)日本の「魅力」。「食」、「アニメ」、「ポップカルチャー」などに限らず、世界の関心の変化を反映して無限に拡大していく可能性を秘め、様々な分野が対象となり得る。「クールジャパン戦略(令和元年9月)」より
1. 高校生の視点で地域の新たな魅力を探して結びつけ物語(ストーリー)を作る「クールジャパン高校生ストーリーコンテスト」
本コンテストは内閣府のクールジャパン戦略の一環として企画されました。クールジャパン戦略が見直しの時期にあり、高校生を対象に「高校生の自由な発想と広い視野で、地域にある魅力を発見し、世界の人々に共感してもらうためのストーリーを作る」コンテストを開催することで、これから日本の主役になっていく高校生が地域の魅力と向き合い、気づき、それを世界へ発信していくきっかけとなることを目指したものです。コンテストの概要は以下です。
<参加条件>
- 日本国内に居住する高校生等
- 個人、またはチームでの応募(指導教員(またはそれに相当する大人)の協力が得られることが必要)
<募集課題>
地域の様々なものが既に持っている魅力に気付き、世界の人々に対して、彼らが共感するような魅力あるストーリーを作成・発信すること。
※発信する地域の魅力は一つには限らなくてよい ※すべての人が共感するものではなくてよい
※フィールドワーク(関係者への取材、現地調査など)を必須とする。
※日本人だけが良いと思う魅力ではなく、世界の人々が良いと思う魅力を発見するために、外国人への取材等を行うことを基本とするが、取材が困難な場合は、関連文献やWEB等で得られた情報のみを参考とすることも可とする。
<評価基準・観点>
①着眼点 | 発信するクールジャパン資源(一つには限らない)について、どのようにしてその魅力に気付いたか |
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②世界の人々の視点 | 発信するクールジャパン資源の魅力の本質について分析されており、世界の人々はその魅力に共感できるか |
③ストーリーの魅力 | 発信の対象とする国や地域を意識した魅力的なストーリーとなっており、世界の人々に伝わりやすいものとなっているか |
④ストーリー化のプロセス | 発信するクールジャパン資源に気づいたところから、どのような手順を踏んでストーリー化したか |
<審査手順>
・予備審査:事務局による書類審査
・審査会 :審査委員6名による審査会で上位3作品選定
・最終審査:最優秀作品1点、優秀作品2点を決定
<表彰等>
上位3作品は、平成30年度クールジャパン官民連携プラットフォーム総会において作品の発表後、表彰
最終的に、コンテストには全国の22都道府県から48高校 61チーム、174名の生徒が参加しました。本コンテストは、今年度も実施されることが決定しており、間もなく募集が開始されます。
<2018年度募集案内>
2. 優秀3作品に見る高校生の視点とストーリー
昨年度の優秀作品は、「世界の人々が共感するようなストーリーにするという目線でクールだと思う日本の魅力を探す」というコンテストのねらいが体現できていました(表1)。受賞作品は、いずれも高校生ならではの新鮮でユニークな視点とアプローチが評価され、「全国の関係者は彼らのやり方から学ぶべき」と評した外国人審査員もいました。
① 最優秀賞:大阪市立鶴見商業高等学校
注目した資源は「ゲームセンター」です。SNSで多くの外国人フォロワーを持つ生徒が、彼らとのやりとりを通じて日本の高校生の当たり前の日常こそがクールなのではという仮説のもとに自分たちの普段の生活を見直します。緻密な分析で大阪のナイトタイムエコノミーにおける課題を抽出し、スーパーゲームセンター構想による解決という大胆な発想力が評価されました。
② 優秀賞:宮城県農業高等学校
「島田飴」という古くから地域に伝わるお菓子がきれいでインスタ映えすることに注目しました。縁結びの飴であることをモチーフに、歴史や文化的背景を絡めながら花嫁道中や祭りの魅力をストーリーとして説明し、外国人向けに和装結婚式の提案をしました。
③ 優秀賞:福井県立奥越明成高等学校
クールジャパン資源を特定することなく、数多くのインタビューを重ねるなかで地域の魅力を探しました。インタビューした外国人の「ジブリっぽい」という言葉に世界の人々が共感するストーリーのヒントを得て、「景色だけでなく、雑巾がけや障子はりもクール。だってジブリに出てくるし日本っぽくて体験したら面白いはず」と思いつきます。地域の資源をどんどんつないで、奥越地方のタイムスリップツアーを構想しました。
3. 高校生の関わりが地域にもたらす効果と可能性
このような高校生の関わりは、地域に何をもたらすのでしょうか。本コンテストを通じて、以下5つの可能性が見出されましたが、ここでは主に短期的で即効性が期待される③と、中長期的な効果をもたらす④について述べます。
① 新たな地域資源の発掘
② 地域活性化への興味と関心、貢献できる新たな人材の創出
③ 地域の大人世代の気づきや変化を促す
④ 若者の地域への愛着の醸成
⑤ 長期的には域外からの移住、定住の促進につながる関係人口の増加
(1)地域の大人世代の気づきや変化を促す
優秀賞を受賞した宮城県農業高等学校の高校生が注目したまちの資源は、大人達から見ると古くて魅力のないもの、跡継ぎがないから途絶えてもやむを得ないものとされていましたが、高校生が「おもしろい」と注目し、外国人への突撃インタビューを決行して好感触を得た事実や、「このまちを消滅させたくない!」とする想いがまちの人々に触媒のような作用をもたらし、官民あげての取り組みが始まりつつあります。
参加校の中のある先生が「高校生の作品は、仕上がりや完成度という面だけで見るとプロや大人には正直勝てないだろう。ただし、彼らの想いやプレゼンには何か心打つものや思わず耳を傾けてしまう不思議な力がある」と語っていたのが印象的でしたが、先の町で、固定観念やしがらみに捉われがちな大人たちが動かされたのも、彼らの持つ真摯で何ものにも捉われない真っ直ぐな力の賜物ではないでしょうか。
(2)若者の地域への愛着の醸成
今回のコンテストへの参加を通じて高校生自身が感じた変化は、「地域への関心や愛着の向上」が86.8%でした(図1)。特に優秀な作品を提出した生徒に、地域への関心や愛着が「とても向上した」とする割合が高く、フィールドワークや地域の人々・外国人の皆さんへのヒアリングなどに手間と時間をかける中で、自分が住んでいる地域に関心をもち、その魅力や課題を知ることで地域への愛着も高まり、より良い作品が生まれるという好循環につながったのではと考えられます。「地域の皆さんのあたたかさを感じることもできたし、私の故郷はこんなにすごいんだと実感!」という生徒の声も聞かれ、こうした課題解決型の取組や授業を通じて、自分が住む地域に誇りや愛着を持たせることができれば、例え進学や就職で域外に出た後でも地域との関係性を保ち続けることは可能であり、将来的な「関係人口」構築へのファーストステップになり得ます。
(図1)コンテスト出場による生徒自身が感じた変化【地域への関心や愛着】
出所:2018年度 クールジャパン高校生ストーリーコンテスト時資料より弊社作成
※調査はコンテスト作品提出時に併せて実施
4. 地方創生は総力戦 未来を生きる高校生は大切なメンバー~「地域課題」は教育の場において“資源”にもなる~
コンテスト応募のきっかけ(図2)は、「先生に薦められたから」が最多でした。次いで高校生自身の感じる「おもしろそうだから」が多く、「ふだんは地域に目を向けることも機会もなかったが、これまでにない発見と表現の機会に生徒たちがワクワクした感覚で取り組む様子が微笑ましかった」という先生の言葉に代表されるように、生徒の好奇心を刺激するテーマが彼らの自発的な学びにつながると捉える先生の声も多数聞かれました。2020年度からの新学習指導要領改訂を受けて、教育現場では「課題解決型の学び」への関心が急速に高まっています。現実の「地域課題」が生徒の成長を促す貴重な教育的資源になり得ることに注目し、教育的観点から地域との関わりを模索する教育関係者が今後増えることが予想されます。高校生の関心を地域に向けさせるためには、影響力の高い先生たちが抱える教育上の課題やニーズを理解し、地域を元気にする存在としての高校生や教育関係者との関わり方を地域側も検討する時期に来ていると考えられます。
地域を変えるのは「よそ者・若者・ばか者」と言われますが、これまで「若者」の中に高校生など地域に住む学生の存在を意識する関係者はそれほど多くなかったかもしれません。ですが、今や「未来が危機」と地球温暖化対策を求めて世界130か国以上の子どもたちをストに巻き込み大人たちをも動かしつつあるのは、スウェーデンの16才の高校生です。地方創生もまた、未来を生きる若者や子どもたちが当事者意識を持ち、社会貢献意識の高い彼らが現状を知る・関わる機会を増やすべき時期にあります。責任と期待を背負うメンバーとして、地域の高校生の存在を意識することも大切なのではないでしょうか。
<関連HP>
内閣府 知的財産戦略推進事務局 クールジャパン戦略 クールジャパン官民連携プラットフォーム「クールジャパン高校生ストーリーコンテスト」HP