V-RESAS 解説コラム 「宿泊」からわかること
現在、新型コロナウイルス感染症により、影響を受けている地域の状況を適時適切に把握し、経済活性化と感染拡大防止のバランスを取っていくことが非常に重要な局面となっています。そのような中、2020年6月新型コロナウイルス感染症 [COVID-19] が、地域経済に与える影響の把握、及び地域再活性化施策の検討におけるデータの活用を目的とした、サイト「V-RESAS」が公開されました。本コラムでは、サイト「V-RESAS」(https://v-resas.go.jp)において可視化されている「宿泊」データの見方について解説および考察をします。
篠崎 宏 客員研究員
岩佐 嘉一郎 主任研究員
目次
※本コラムは、内閣府地方創生推進室と内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が提供する「V-RESAS」(2020年7月28日更新)に掲載された原稿を、許可を得て再掲するものです。
可視化の背景
観光は地方創生を支える主要産業として、国内旅行者だけにとどまらず、ここ数年急増してきた訪日外国人旅行者の消費を牽引し、周辺の関連産業も含めた地域経済波及に貢献してきました。しかし、現在新型コロナウイルス感染症の影響により国内外における人の移動や対面での交流は激減し、全国各地の宿泊施設をはじめとする関連事業者は営業の自粛、場合によっては休業や廃業をも余儀なくされ、厳しい経営環境に直面しています。
また、観光は、人(観光客)が移動することそのものであることから、目的地や経路上において感染拡大防止と経済活動をどのように両立させていくのかが非常に難しい問題となっています。これに対し、5月には全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会等から「宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン」、6月には観光庁から観光客向けに「新しい旅のエチケット」が示され、医療の専門家を中心に産官学で「観光」の復活に向けて着々と準備が進められています。
夏休みを迎え、各地で観光客の動きが活発化する可能性もあり、その動向把握があらゆる面から重要となってきます。
この「宿泊」では、利用者の方が客観的データに基づき、各地域における宿泊状況を可能な限り正確かつ迅速に把握し、地域経済復興と感染拡大防止のバランスを取っていくための判断ができるよう作られました。
このデータの活用方法
「宿泊」では、「観光予報プラットフォーム推進協議会」が保有する、旅行会社の店頭・国内ネット販売・外国語予約サイトなどの販売実績と宿泊予約データを用い、都道府県・地域ブロック別に宿泊者の約2ヶ月前の動向を前年度と比較できるよう、グラフによる可視化を行っています。2週間ごとに更新される宿泊者データをもとに地域の動向を把握し、分析や施策検討に利用できると思われます。自地域の前年同時期との比較はもちろんのこと、全国的な動向と比較した自地域の状況や連携・競合するベンチマーク地域との比較などにも活用することができるでしょう。
データの説明
「観光予報プラットフォーム推進協議会」が保有する宿泊データは2019年で1億3千万泊を超えています。V-RESASでは、この宿泊データの項目から宿泊開始日・宿泊都道府県・エリア・宿泊者の分類(子ども連れ(子ども=13歳未満)・男女二人(カップル・夫婦)・女性グループ・男性グループ・男女グループ(子ども含む)・一人)を利用し、以下のグラフを表示できるようになっています。
① 全国・全宿泊者の分類毎の宿泊者数(前年同週比)
② 地域ブロック別宿泊者数(宿泊者の分類ごと)(前年同週比)
③ 都道府県/エリア別宿泊者数(宿泊者の分類ごと)(前年同月比)
※ 詳細地域は厚労省の「二次医療圏」の区分を当該都道府県内の各々の観光エリアと見立て適用しています。
※ データは2週間ごとに更新されます。その際に過去のデータ集計値に修正が入ることがあります。
グラフの見方
出典:V-RESAS、観光予報プラットフォーム推進協議会
V-RESASでは、「観光予報プラットフォーム推進協議会」が保有するデータを用い、宿泊者数・予約者数のグラフを開発しました。トップページでは、前年同週と比較した宿泊者の分類ごとの宿泊者数を都道府県別に塗り分けたヒートマップと9つの地域ブロックに分類した折れ線グラフで一覧しています。宿泊者の分類ごとに前年と比較することにより、どの分類の宿泊者が戻りつつあるのかを把握することができます。また予約代表者の居住地を選択することにより、都道府県内宿泊者と都道府県外宿泊者の増減を見ることができます。前年同月と比較することにより回復初期段階における宿泊者の分類および宿泊地域の選択範囲を読み取ることができます。
このグラフから読み取れること
V-RESASで沖縄県を選択し、「宿泊」をみてみます。5月の都道府県別宿泊者の前年同月比では沖縄県内外の宿泊者ともに大きく落ち込んでいることが読み取れます。宿泊者の分類もすべての分類で大きく落ち込んでいます。同じく隣接都道府県が存在しない北海道も沖縄県と同じ傾向となっています。全国的にみても5月は新型コロナの影響で宿泊者が最も落ち込んだ月となりました。
考察
沖縄県発表によると感染症の影響により、5月の入域観光客数は前年比5.3%(▲94.7%)と大幅に減少しています。このような状況下で、沖縄県民を対象に県内の旅行会社等が販売する宿泊を伴う県内旅行商品の代金を1人最大15,000円補助する「おきなわ彩発見キャンペーン第1弾(6月5日 〜7月30日)」がスタートしました。宮古島市観光協会発表の資料では5月前年同月比6.77%(▲93,23%)から6月は19.41%(▲80,59%)と12.64%回復しており、その効果を読み取ることが出来ます。おきなわ彩発見キャンペーンは既に第2弾(7月10日~8月30日)がスタートしており、早い段階で前年並みの数字に達する可能性を感じます。
宮古島市役所では、政府および沖縄県のプロモーション効果を見越したうえで、「新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」策定、観光協会会員200社、調理師組合及び飲食業組合100店舗、宮古島美ら海連絡協議会90事業所を中心に、急ピッチで万全な受け入れ体制の構築を進めています。地域住民への新型コロナウイルス対策に加えて、今後は政府や都道府県、市町村の施策内容と連動した、自地域のwith新型コロナウイルスの受け入れ体制構築が重要となってきます。
出典:V-RESAS 解説コラム「宿泊」からわかること (2020.7.28)