クロス・ツーリズム ロゴ 【特別寄稿】“Tourism×子どもの成長と旅育” ~非認知能力は旅で育む。子どもたちの未来に向けて 子育て世代をサポートする社会で取り組む旅育の意義とは~

子どもの成長や教育にとり、日常生活と異なる旅は、社会の広さや多様な価値観に触れる絶好の機会です。コロナ禍の行動制限が子どもの将来へ影響すると懸念される今、子どもたちの才能を認め、自己肯定感やコミュニケーション力など非認知能力を育む旅での学びを、社会全体でサポートすることが必要です。自ら旅育を実践し、旅育メソッド?を提唱する筆者がその効能と社会的意義を考えます。

村田 和子

村田 和子 旅行ジャーナリスト・旅育コンサルタント
トラベルナレッジ代表

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目次

1. 今なぜ旅育?子どもの学びはタイミングが重要

目を輝かせ、様々なものに関心を寄せる我が子の様子に、「旅で子どもの成長を育む~旅育~」の可能性を見いだし、自ら実践しながら「親子の絆を深める場」「子どもの成長を育む場」として、家族旅行の意義やノウハウを伝えてきました。昨今は自治体、企業と協同し、次世代に向けた旅育の環境整備を進めています。

家族に寄り添い活動をする中で、アフターコロナに向けた今こそ、子どもたちに旅での学びが必要であり、教育手段としての旅(旅育)の認知を広めるチャンスだと感じます。

コロナ禍では、子どもたちは制限のある生活を余儀なくされ、行事や校外学習も延期や中止となるなど、自分の努力を認める機会や、新たなものと出会い、挑戦する場が失われました。旅育をテーマに講演を行った小学校・幼稚園の保護者対象のアンケート(*1)では「コロナ禍での生活は将来に影響するか?」という問いに、82.4%が「YES(影響する)」と回答。(参照:グラフ①)。理由として「適切なタイミングに、必要な経験をさせてあげられなかった」「交流が減少し、マスク生活が続く中、コミュニケーション力が育まれているのか心配」など、日々成長する子どもにとって、体験や学ぶタイミングは重要であり、コロナが収束すれば元通りとはいかないと、危惧する様子がうかがえます。「環境が許せば新しいチャレンジやたくさんの経験をさせてあげたい」というコメントも多く、また親でなくともコロナ禍を経た子どもの将来のために、何かできないか?という機運の高まりも感じます。

旅育の取り組みは、親の思いや悩みに寄り添い、共感を得ることが大事です。子育て世代を取り巻く社会環境やコロナ禍を経た親の思いを踏まえながら、観光業として旅育に取り組む社会的意義やメリット、具体的なヒントを紹介します。

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2. 旅は社会の広さや多様性を認めるチャンス

グローバル化、多様性が叫ばれる中ですが、子どもと社会の関わりは想像以上に希薄になっています。核家族化、共働き世帯の増加、IT技術の進化などライフスタイルの変化が主な要因であり、コロナ禍で社会との隔たりはますます大きくなっています。

前述の保護者アンケートでは、「日常で子どもが関わる大人の数(親を含む)」は「5人以下」が76.5%となりました。(参照:グラフ②)。両親、学校や園の先生、習い事の先生、友達のお母さん……そんなところでしょう。過去実施のアンケートでも同じ傾向がみられ、子どもは狭い偏った価値観の中で日常を過ごしていることがわかります。防犯面からも「知らない人とは話さない」というルールが家庭で定着し、子どもが社会を知る機会は、親を含めた数人頼みの状況です。

昔は祖父母が同居していたり、地域の行事も盛んで近所とのつながりも深くなっていたりなど、特別なことをせずとも世代を超えた交流や多様性に触れる機会がありました。社会が子育てに深く関わることで、親や本人も気づいていない良さや才能を認め、自己肯定感を育み、人生の目標を見つけることもあったでしょう。

子どもは自分のまわりが社会のすべてだと思い、偏った価値観の中で生きにくさを感じ、あるいは些細なことに深く悩む傾向があります。「自分の日常は広い社会のほんの一部」という気づきは、強い心を持ち、自分らしく生きることにつながります。日常で社会の広さや多様性を認めるのが難しい昨今、意識して機会を作ることが必要であり、旅はその絶好のチャンスとなります。子どもの世界の狭さに気が付いていない親も多くいます。観光に関わる我々が、子どもに旅が必要なことを認識し、大きな視点から伝え取り組むことで、社会にインパクトある流れとなり、それは将来の日本を支える柱になると考えます。

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3. 注目高まる「非認知能力」は旅で育む

子育て世代の最大の関心は、「子どもが自分らしく幸せな人生を歩むために、どう育てるか?」という「教育」にあります。変化が激しく予測できない時代となり、社会で必要とされる能力や教育の在り方(学校のカリキュラム・大学入試制度等)も変化。従来の知識・学力に代わり、活動の礎となる「自己肯定感」や「コミュニケーション力」など、いわゆる「非認知能力(社会情緒的スキル)」が注目されています。

非認知能力の多くは、旅を通じて育むことができ、新しい教育が目指す方向と、旅の効能は親和性が高いのですが、多くの人は教育ツールとして旅を想起することはありません(参考:グラフ③)。「非認知能力」が大切だと理解をしても、具体的にどうすればよいかわからず試行錯誤する、あるいは従来と変わらず受験勉強に時間と費用を割いているのが現状です。

日常と異なる環境の旅では、新たなことにチャレンジし成功体験を積む、興味・関心と出会うなど、自己肯定感へつながるチャンスにあふれています。多くの人と交流し様々な価値観に触れることで、多様性を認め、コミュニケーション力も磨かれます。変化が激しく、学び続けることを求められる時代に必要な「知る・学ぶ楽しさ」も、非日常の旅の体験で育むことができます。

丁寧に、そして具体的に、「なぜ今、旅なのか?」「旅が子どもの成長にどう作用するか?」「何を心がけたらいいか?」などを説き、親の思いに寄り添い、ニーズを先回りしたサービスや環境を整えることは、子どもたちが、よりよく生きることへとつながります。

観光業にとっても、親の最大の関心ごとである「教育」と「旅」を紐づけることはメリットがあるでしょう。例えば、家族旅行が「レジャーではなく教育」という認識が広がれば、親が休暇をとるモチベーションが上がり、滞在日数の伸び、平日の稼働向上等も期待できます。旅行の費用も教育費の一環となれば、景気の影響を受けにくく、予算増大も見込めます。

また、旅育においては「どこは行くかより何をするか?」が重要であり、有名な観光地や施設の有無は関係ありません。工夫次第で多くの地域で取り組むことができ、地域活性の一助にもなります。

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4. 旅育施策のヒント~旅育メソッド?をもとに

旅そのものが学びの宝庫ではありますが、より学びを大きくするために、心掛けたいコミュニケーションのヒントを「旅育メソッド?」としてまとめ提唱しています(下記)。対象は3歳から9歳の子どもです。講演等で旅育を認知した親の実践意欲は高く、教育ツールとしての旅の可能性を改めて感じます(参照:グラフ④)。
 短い旅の中で真の成長を育むには、親だけではない周りのサポートや、環境整備が必要です。以下、旅育メソッド?をもとに、観光事業者として考えうる取り組みやヒントを紹介します。

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  • 計画や準備は子どもと一緒に
  • 旅育の成功は、タビマエが鍵となります。親がすべて計画するのではなく、親子一緒に計画をすることで、子どもの旅でのモチベーションが上がり、積極的に楽しみ、学びも多くなります。

    タビマエの計画をサポートすることは、観光事業者にとっても「地域や施設を深く知ってもらう⇒子どもが楽しみ・成長する⇒満足度が向上する⇒再訪(あるいは情報拡散等)」という好循環が期待できます。

    タビマエのアプローチは、ホームページやメール、SNS、オンラインツアーなど、ITの活用が浮かびますが、ダイレクトメール(以下、DM)なども有効です。2021年に福島県のスパリゾートハワイアンズが子ども向けに作成したDMは、ハワイアンズらしく表紙はパスポートのデザイン。袋とじをひろげると、大きく広がり紙面いっぱいに館内の地図が描かれ、旅の計画が書き込める仕様になっています。家族でDMを囲み、「何をしようか?」とワクワクする様子が目に浮かぶようです。本DMは、郵便局主催の第36回 全日本DM大賞で「銀賞」を受賞しています。

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    「日本のハワイ」パスポート・ 夏の冒険ハワイアンズ*2
    約20センチ四方の袋とじのDMは、広げると6倍の大きさになる。子どもが中心となって旅行の計画を立て、旅行後には旅の思い出を書き込めるようにデザイン。家族の会話のきっかけとすることで、コロナ禍で旅行しづらい雰囲気の中、足を運んでもらえるよう工夫。本DMからの予約者数はコロナ禍前の60%まで伸長し、前年比では約5倍の予約者数を獲得。

  • 家族それぞれで過ごす時間を作る
  • 子どもは、親と離れ初対面の人と過ごすことで、視野が広がり表現力が磨かれるなど、大きく成長します。親も心身をメンテナンスする時間となり、再会した折には、お互いの経験を共有し、家族のコミュニケーションも活発になります。

    現状では、子どもが一人で体験できるプログラムや過ごせる場所は、特に未就学児において環境が十分とはいえません。ワ―ケーション施策の側面からも、親が仕事をする間の子どもの居場所については関心が高まることが予想され、整備を進める必要性を感じます。日々忙しい親がリフレッシュする選択肢も用意・提案することが大切です。

  • 役割や目標を設定、褒めて成功体験に
  • 小さな目標を設定することで、子どもは自ら意識して動き、できたら褒めることで成功体験となります。「教えるのではなく、見守る」「子どもを旅仲間として尊重する」「がんばりを褒める」などを心掛けたいところです。

    そうはいっても親も得手不得手があり、反抗期が始まる小学校高学年になると、親だからできないことも増えてきます。観光施設や宿のスタッフは、子どもにダイレクトに接することができる貴重な立場にあります。親も子育てでは手探りの中、旅での学びをサポートする、あるいは親と異なる立場や視点から、子どもの良さを認めるなど積極的に関わることで、旅育の精度を上げることができます。

他にも体験プログラムの充実など、旅育の施策はいろいろと考えられますが、陥りやすい注意事項を2つあげておきます。

  1. 地域や自社の素材ありきで考えない
  2. 「どんな課題を解決するのか?」「子どもにどう成長してほしいか?」など、まずは旅を通じた子どもの成長をイメージすることが大切です。そこから「地域や自社のどんな素材が役立つか?」「新たに必要なことはなにか?」を考えることで、親の共感を得る魅力的な取り組みになります。

  3. 子どもの「やりたい」「楽しそう」を引き出す
  4. 旅育という言葉から、「何かを学ばせよう」「教えよう」という思いが先行し、結果として知識に偏るなど、子どもからみるとワクワク感のないサービスや商品になることが多々あります。大切なのは、子どもが自分で考え、自分で決める。それが成功体験になることです。子どもの「やりたい」「楽しそう」という気持ちを大切に、あるいはそういった気持ちを引き出す工夫や仕掛けが成功の鍵となります。

5. 観光立国として、未来の種まきとして

冒頭でも触れた通り、コロナ禍での制限のある生活で、子どもの「自己肯定感」「コミュニケーション力」など、非認知能力の低下が危惧されます。

過去は変えられませんが、未来は変えられます。繰り返しになりますが、旅は子どもの才能や関心を発掘する機会になり、旅での成功体験は自己肯定感へと繋がり、旅でのたった一度の経験が子どもの人生の目標や夢へなることも少なくありません。

家族旅行で深まった絆は心の安定となり、チャレンジを成し遂げた誇らしい気持ちや自信は心地よい家族旅行の思い出とともに記憶され、将来にわたり子どもの心の支えとなります。
やがて子どもも成長し、自らが親となって子どもを連れて旅をする日も来るのです。

旅を通じて育った子どもたちが、自分らしく幸せに生きること、世界で活躍できる人材となることは、観光立国である日本にとっても、様々な側面でプラスとなります。未来への種まきとして、今、旅育への取り組む社会的意義・必要性を強く感じます。

 
*1)保護者アンケート:2022年7月開催の旅育講演の前後に、聖徳学園小学校・聖徳幼稚園の協力を得て実施(講演前n=34名、講演後n=36名)
*2)参考:第36回 全日本DM大賞 https://www.dm-award.jp/winner/36th/