コロナ禍以降に成人を迎えたZ世代の旅行についての考察(若者とライフスタイルに関する調査より)

本コラムでは、JTB総合研究所で観光事業に関わってきた立場、現在は大学で教鞭をとり学生を社会に送り出す立場の両方の視点から、旅行消費者としての若者の志向がどのように変化し、今後の若い世代の考え方や生き方がどこに向かっていくのか、について、調査結果をもとに考察します。

波潟 郁代

波潟 郁代 客員研究員
西武文理大学サービス経営学部 教授

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目次

1. コロナ禍以降に成人を迎えたZ世代は、初期Z世代と旅行スタイルに違いはあるか

現在、JTB総合研究所から埼玉県にある西武文理大学サービス経営学部に出向し、「観光論」を教えています。会社では社会の変化や技術の進化が人々のライフスタイルや価値観、旅行スタイルに与える影響について調査研究を行ってきました。世代にも着目し、Z世代といわれるデジタルネイティブの若者の行動と周囲への影響力に関心を持っていたので、大学は現在の若者の、こちらの認識を超えた行動や考えに触れられる貴重な場といえます。
 一言で若者といっても、その時代の社会や経済環境により、若者自身の考えや行動に違いが生じます。2000年代初頭は「若者は旅行をしない」といわれていましたが、2015~16年頃から20代前半の、特に女性の出国率が急上昇し、若者の国内外の旅行意欲が高まっていきました。当時は比較的安定した経済環境が続き、雇用が改善されていた時期でもあり、ちょうど初期のZ世代が成人を迎え始めた頃と重なっていました。
 それから10年近くが経ち、その間に3年に渡る新型コロナウイルス(以下新型コロナ)のパンデミックがありました。コロナ禍に実施した旅行に関する調査*では、20代が旅行をけん引していました。大学に着任した2023年春、学生に旅行について聞くと、コロナ禍の影響もあり、旅行の経験値はやはり少なく、情報媒体や旅行関連企業、商品サービスの認知度も想像以上に低いと感じました。既に初期のZ世代は20代後半になっています。新型コロナを経て、現在成人を迎えるZ世代と上の世代とでは違いもあると考え、インターネットによる意識調査を実施しました。
 現在、高等教育機関への進学率(大学、短大、高専4年次、専門学校)は文部科学省の「学校基本調査」によると8割を超えています。18~19歳は、進学を機に多くが主体的に新たな経験を積み始める年代で、旅行もその一つです。本調査では一つは観光事業に関わる立場から、旅行消費者としての若者の志向を理解し、一つは学生を社会に送り出す立場から、今後の若い世代の考え方や生き方がどこに向かっていくのかを把握することを目的としました。
 なお、本文では調査結果のうち旅行について一部を紹介し、ライフスタイルや価値観については次の機会とします。
注)*JTB総合研究所 新型コロナウイルス感染拡大による、 暮らしや心の変化と旅行に関する意識調査(2020~2023年)

2. コロナ禍の学生生活と調査概要

現在の大卒社会人1年目は学生時代に新型コロナの影響を大きく受けた年代です。2020年4月に全国に拡大した緊急事態宣言で、多くの大学で入学式は中止、夏まで登校できず、授業はオンラインになりました。2022年半ばから正常化が進み、海外旅行の水際対策が緩和されたものの、すぐに就活や卒業研究が本格化し、彼らはあっという間に社会へ巣立っていきました。今年の1年生、2年生は新型コロナ収束後の2023年、24年の入学です。国内外の旅行、インターンシップと、移動の制限なく多くの経験を積む機会に恵まれ、本務校でも積極的に活動する学生が見られます。
 今回の意識調査では、若者の変化や違いをより詳細に知るために、Z世代の若者を「Z世代初期」、「Z世代コロナ期」「Z世代ポストコロナ」の3つに分け集計しました(表1)。「Z世代コロナ期」は、コロナ禍(2020年~22年)が18~19歳にあたり、何らかの移動の制約を経験した世代としました。4年制大学でいうと、現在の社会人1年目、大学4年生、大学3年生が対象です。「Z世代ポストコロナ」は新型コロナが5類に移行した2023年以降に18~19歳になった世代です。なお、旅行実施の有無の質問に関しては、まん延防止等重点措置が終了し、旅行需要が高まった2022年は「収束期」に含めました。調査概要と各世代の特徴は下記の通りです。
 
【調査概要】
調査名 :若者のライフスタイルと旅行に関する調査
     (西武文理大学 波潟郁代/高瀬浩、ナビタイムジャパン 藤澤政志)
調査方法:インターネット調査
調査期間:2024年3月8日~3月14日
調査対象者:
<事前調査>
全国に居住する男女19歳~69歳 6,881名
<本調査> スクリーニング調査回答者のうち19歳~39歳で、2022年、2023年のいずれの年か、あるいは 両年に宿泊を伴う旅行をした人987名(国内海外は問わず、帰省を含み、出張を除く)

(表1)若者世代の名称と特徴

※各世代の名称、生年は諸説あるが、JTB総合研究所の分類を採用した上で筆者加筆
JTB総合研究所「日本のミレニアル・ポストミレニアル世代の価値観と旅行に関する調査」2018年

3. コロナ禍前・コロナ禍・収束後と、一貫して高いZ世代の旅行意欲

旅行の実施状況については、「感染拡大期(2020年~21年)」と「収束期(2022年~23年)」の2つの期間の実施の有無(両年あるいはどちらかの年に旅行をしたか)を事前調査で調べました。いずれの期間も男女ともに20代が最も実施率が高く、次に高いのは男女とも、感染拡大期は30代、収束期は18~19歳となり、一貫して若者が旅行をけん引していました(図1、2)。
 若者を詳細にみるため、実施率を表1の世代に合わせて集計し直すと、感染症拡大期では「Z世代初期」以外は男性が高い傾向でした。男性は「Z世代コロナ期」「Z世代初期」「ミレニアル世代」がほぼ同程度の上位で、女性は「Z世代初期」が最も多く、「ミレニアル世代」「Z世代コロナ期」と続きました。
 収束期では「ミレニアル世代」以外は女性が高い傾向でした。Z世代だけでみると、男女とも「Z世代初期」が最も高く、「Z世代ポストコロナ」「Z世代コロナ期」と続きました(図3、4)。「Z世代ポストコロナ」は、感染拡大期は高校生にあたり、受験や就職などがあり、実施率は低めでしたが、収束期では男女ともに「Z世代初期」に続き2番目に高くなりました。新型コロナの影響を受けない現在、「Z世代ポストコロナ」は成人を迎え、自分で自由に旅行を始めたことが分かります。
 「Z世代コロナ期」は、旅行実施率に関しては、全体が低迷した中、感染拡大期、収束期、いずれも他の世代と比較して低いわけではなく、特別この世代だけ大きな影響を受けたとは言い切れないようです。
 「Z世代初期」の女性は、2015~16年以降に成人し、海外旅行では女性20~24歳の出国率を押し上げた世代です。コロナ禍前、コロナ禍、収束期と一貫して他より高い旅行意欲を維持しています。既に20代後半にはいっていますが、2023年の出国率では女性25~29歳の出国率は他より高く(法務省出入国管理統計)、成人を迎える時期は自らの意思で旅行経験を積み始める貴重な時期として、その後の旅行意欲に影響すると考えられます。

 

 

4. コロナ禍の生活を経験して、国内旅行をしたいという気持ちは約5割向上

本調査では、収束期(2022年および2023年)の旅行経験者を対象に、旅行やライフスタイルについて聞きました。なお、「Z世代コロナ期」のサンプルが少ないため男女合算で集計しました。
 コロナ禍での生活から、対比する気持ちについてあてはまるものを選択してもらったところ、「国内旅行をしたいという気持ちになった/高まった」は「近い/やや近い」と答えた人は全体で52.8%(合算値)と半数以上になりました。「プレゆとり世代」が最も多く(61.7%)、「Z世代コロナ期」は最も低くなりました(48.4%)。一方で、「Z世代コロナ期」は「国内旅行をしたいという気持ちがなくなった/低くなった」は高い結果となりました(31.9%)。「海外旅行をしたいという気持ちになった/高まった」は「Z世代コロナ期」が最も高く、48.8%でした。「Z世代コロナ期」は最も旅行に行きたい時期に移動制限があり、むしろ国内旅行意欲が萎えたり、正常化が早かった海外への関心が高まったりした人も多かったとも考えられます。

(図5)コロナ禍の生活から感じたこと(単一回答)

 

5. 旅行のきっかけになり得る情報媒体は、世代別で傾向や境目が明らかに

旅のきっかけや旅先の決定につながる情報媒体は、今や動画が主流といえます。本調査でも「行きたい場所が出ているYouTubeなどの動画(旅行先優先で見る)」が全体で最も多い37.1%、「フォローしている人や関心あるテーマのうち、旅行に関わるYouTubeなどの動画(好きな人や趣味・関心事優先でみる)」は29.7%ありました。
 テレビについては「旅や関心ある場所のテレビ番組(オンデマンド含む)」は全体では28.4%と投稿動画や画像より低くなりました。ただし、テレビは「プレゆとり世代」だけが大幅に高く(34.6%)、一番のきっかけになっています。逆にすぐ下の「ミレニアル世代」は世代別では最も低く(24.4%)、「プレゆとり世代」と差が開きました。ミレニアル世代が10~20代の頃にネット系動画が広がり始め、影響を受けはじめた初期の世代であると考えられます。
 「ガイドブックや旅行雑誌、新聞記事、ファッション誌など雑誌の旅行特集(サイト含む)」「関心ある場所の政府観光局や観光協会のウエブサイトおよびSNS」もテレビ同様、「プレゆとり世代」と「ミレニアル世代」の間の差が開きました。テレビを含むこれらの媒体は、いわゆるマスメディアで、プロの編集による一般的な旅行情報を提供していますが、投稿動画や画像と違い、総花的な内容が多くなる傾向になり、旅行のきっかけづくりにはミレニアル世代以下の関心を引き寄せにくいのかもしれません。

(表2)旅のきっかけや旅先の決定につながる媒体(複数回答)

 

6. 旅行の計画は、若い世代ほど、旅行情報専門サイトより検索エンジン頼み

旅先での具体的な計画を立てるための情報源(商品の予約購入は除く)については、全体では「Googleの口コミ(30.4%)」「インスタグラムで検索(30.2%)」「Googleのキーワード検索上位の結果表示(27.6%)」と検索機能を利用したものが上位でした。インスタグラム検索では、特に「Z世代コロナ期」と「Z世代ポストコロナ」が高くなりました。
 若い世代ほどGoogleの口コミの利用は他世代より高い一方で、旅行情報専門サイトの「旅行口コミサイト」の利用は低く、また「観光協会など旅行先の観光関連事業者のサイト」「オンライン専門宿泊予約(OTA)や旅行会社サイトの観光情報」なども低い傾向でした。特に「Z世代ポストコロナ」はガイドブックや雑誌(サイト、紙・デジタル版含む)の利用が低く、若い世代は旅行の計画の際に旅行情報専門媒体をあまり活用していないことがうかがえます。これらの媒体は存在自体が知られていないか、プロによる編集で信頼性が高いにも関わらず表記が網羅的で平坦なため、自分でどうするか判断しにくいのかもしれません。動画は全体的に利用率が低く、具体的な計画の活用というより、認知や関心を高めることに効果的であるようです(表3)。
 従来からあるテレビ、ガイドブック、雑誌や観光協会などの情報媒体は、下の世代になるほど存在が低くなりましたが、それぞれの媒体の認知度についても調べました。「Z世代コロナ期」「Z世代ポストコロナ」の認知度は低く、また「名前を知っているものはない」と回答した割合は高くなりました。雑誌系の認知はターゲットの読者層にもよりますが、多くで「Z世代初期」と「Z世代コロナ期」の間に認知度の開きがありました。「Z世代コロナ期」は年齢による旅行経験の少なさに加え、コロナ禍による経験の少なさも影響していると推察されます。若い層ほど検索サイト頼みで、旅行情報専門媒体を活用しきれていないと考えられます。詳細は省きますが、OTA、旅行会社の認知度も情報媒体と同様の傾向でした。

(表3)旅先の行動を決める際によく活用する情報源 上位12項目(複数回答)
※予約や購入のための旅行商品やチケットなどの情報源は除く

 

(表4)ガイドブックや旅行特集の多い雑誌(紙、電子版やサイトを含む)の認知度(複数回答)

 

7. 旅は理想とする生き方、暮らし方を体現する手段になり得るか

新型コロナが収束し、自由に旅行できるようになった今、旅行に期待することは何なのか、調査結果を表5で表しました。上位4つの項目は、旅行中に直接得られる感情や効果への期待と受け取れますが、あらゆる世代で高くなり、特に「Z世代ポストコロナ」は平均より5ポイント以上高い結果でした。
 世代が上昇すると、自分の子供の成長や教育、旅行先での交流、第二、第三の居場所としてリピートする場所づくりなどが高くなり、理想とする生き方、暮らし方を体現する手段としての旅行への期待がみえてきます。特に「Z世代コロナ期」「Z世代初期」は「日常からの開放感や癒しを得る」「家族、友人との親睦を深める」は上位ながらも他世代より低く、「趣味を同じくする人達との交流を広げる」「第二、第三の居場所として思い入れのある、リピートしたい場所をつくる」「より多くの知らない人たちと交流する機会や場を持つ」「Iターン、Uターン先の候補地が現れる」が前後の世代より高くなりました。
 近年、働き方改革の取り組みが進み、コロナ禍を経てリモートワークも広がっています。価値観の多様化もあり、仕事一辺倒の生活から、仕事外で好きなことや好きな場所で居場所をつくり、地域社会に関わりを持つライフスタイルも増えています。これぞZ世代の特徴を反映しているといえます。これからさまざまな生き方を選択できる、あるいは選択しなくてはならない時代に生きているという意識も結果につながったかもしれません。今後「Z世代ポストコロナ」が変化するかも注目です。

(表5)旅行に期待すること、もたらしてくれること(複数回答)

 

8. 学生が自発的に意味ある良質な体験をしようとする機運づくり

以上が今回の調査結果ですが、経年調査を今後も続け、若者のライフスタイルと旅行に関する意識・行動の変化をみたいと考えます。
 ところで、この結果は、自分の身近な学生たちにあてはまるかというと、ほぼ状況は合致していると捉えています。着任2年目の夏休みが過ぎ、学生と接する中で、以前より旅行に意欲的な学生が増えたと実感します。海外旅行に関しては二極化傾向で、一度海外に行くとその楽しさや学びが分かり、再度出かける傾向にあります。一方で海外に行かない学生は、円安や金銭面の要因もありますが、新型コロナで大学の海外研修が途切れたことや、先輩や友人など身近に海外旅行経験の話を聞ける人がいなくなり、海外に行くまでのハードルが上がったままのように見受けられます。
 前述の4節の表2の、旅のきっかけになる項目の上位4番目に「行きたい場所の旅行経験について、家族・友人・知人と話し合ったり、聞いたりすること(全体28.4%)」がありますが、「Z世代コロナ期」だけが少なく20.5%でした。コロナ禍と重なり、国内外問わず旅行体験を気軽に話し合う人や機会も少なくなってしまった可能性が考えられます。だからか、授業をしていると、勉強はともかく、国内外の地域の事例には好奇心を持って聞く学生が多いと感じます。
 先日、11月10日まで新潟県で開催中の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の関係者に、大学の授業で外部講師を依頼しました。学生の反響は大きく、「実際に行ってみた」、「学んでいるブライダル論とサイトスペシフィックアートが結びついた」などの報告を受けました。一方で、学生をみていると、旅行情報を調べる時は、検索エンジンやSNS頼みが多く、上位に表示されたサイトの内容を見ても、それがどんな情報源なのか意識が薄く、時に非効率、そして、正しく俯瞰した情報を得られるのか疑問に感じることもしばしばです。これは旅行情報に限った話ではないと感じます。だからこそ、学生たちに正しい情報を提供し、良質な体験を自発的に行えるような機運づくりが大切と考えます。
 モラトリアムという言葉は、大学生活では就活を経て社会に出るまでの「準備期間」「自分探しの期間」という意味で使われています。その期間に自らの意思で多くの経験を積むことで、視野を広げ、やりたいことを絞り込み、また今後の人生で直面するであろう様々な決断の場面での判断材料を増やすことができると考えています。旅行はたとえレジャー目的でも、その下支えの一つといえます。現在は大学生の就活が早まり、残念ながら多くの経験を積むことができるモラトリアム期間は以前より短くなっています。学生たちが卒業して社会に出た時、多少の不安は多様な経験でカバーできると確信できるよう、旅行もその手段として捉え、今のうちに多くの旅行を経験し、そこから多くのものを見て学んでほしいと思います。
 
【参考資料】
総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査2024年度」
https://www.soumu.go.jp/iicp/research/results/media_usage-time.html