コロナ禍収束から2年、旅行需要の変化を振り返る~2025年GWの旅行動向より
約2年前の2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症は2類感染症から5類感染症に移行されました。コロナ禍から人の往来の自由が戻り、旅行が急速に回復してきた過程を、先日発表されたJTBのGW旅行動向調査を基に振り返ります。
中尾 有希 副主任研究員
目次
※株式会社JTBの旅行動向調査は、各種経済指標、業界動向や交通機関各社の動き、宿泊施設の予約状況、各種意識調査などをもとに算出したもので、GW・夏休み・年末年始については1969年より、年間見通しについては1981年から継続的に調査を実施しています。(当社は、本レポートの調査・分析を担当しています)
今年のGW旅行動向の概要
今年もゴールデンウィーク(以下、GW)の旅行動向が発表されました。
総旅行者数は2,345万人、旅行消費額は総額で9,855億円に達したものの、前年に比べて減少すると推計しました。この背景には、新型コロナの影響で抑圧されていた旅行意欲が昨年で一巡したこと、物価上昇をはじめとする経済環境、前半の飛び石連休と後半の4連休の2つに分かれている暦も影響していると考えられます。
国内旅行者数は物価の高騰による家計の圧迫、混雑を避けて旅行時期をずらす傾向もあり、前年からやや減少の2,290万人となりました。また平均旅行費用は前年並みの36,600円となります。旅行先は居住地域外に分散し、遠方への旅行が増加していることが特徴です。また、男女29歳以下では関東、女性30代には近畿、女性60代には四国が人気など、性年代別での旅行先の違いも見られました。
旅行先を選んだ理由として、「観光客などで混雑してなさそうだから(7.9%)」は前年より0.9ポイント増加、一昨年からは5.4ポイント増加しました。インバウンドの急激な増加により「オーバーツーリズム」という言葉が一般化しつつあり、旅行時期をずらしながら、行き先も穴場を探す動きが年々強まっています。
一方、海外旅行者数は55万人と前年より増加すると予測しました。インバウンドの追い風もあり、国際線航空便がほぼ新型コロナ前の輸送容量に回復したことや、一部の層の収入増、需要促進のためのキャンペーンなどの影響により、前年を上回る見込みです。
なお、2019年のGWは今上天皇御即位に伴い、4月27日~5月6日が10連休となっており、例年に比べ海外旅行が活況を呈していたため対2019年比では54.8%ですが、2018年以前の水準と比較すると、7~8割程度までは戻りつつあると考えられます。旅行先としては、比較的近距離の韓国や台湾、シンガポールなどが人気の一方で、昨年は動きが控えめであったヨーロッパなど遠方も回復しているのが特徴です(図表1)。

出所:株式会社JTB「2025年ゴールデンウィーク(4月25日~5月7日)の旅行動向」(2025月4月3日)
コロナ禍前~2024年までのGWを振り返る
ここで、コロナ禍前である2019年から昨年2024年のGWの社会情勢と旅行について振り返りたいと思います。
2019年
今上天皇御即位に伴い、4月27日~5月6日が10連休。国内旅行が活況だったことはもちろん、円安や物価高が今ほど加速していなかったこともあり、例年に比べ海外旅行が非常に活況で、海外旅行者数は92.9万人でした。
2020年
1月15日、日本国内における初の新型コロナウイルスの感染者が確認され、感染拡大防止策として緊急事態宣言が 4月7日に、東京都、大阪府、神奈川県、千葉県、埼玉県、兵庫県、福岡県に対して発令されました。その後、4月16日には対象が全国に拡大し、5月25日まで継続されました。国内の不要不急の移動や海外との往来は、一部の業務などを除き厳しく制限されました。
2021年
緊急事態宣言が4月25日に、東京都、大阪府、京都府、兵庫県に対して発令されました。まん延防止等重点措置も 4月25日時点で、宮城県、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、愛媛県、沖縄県に適用されており、対象地域では飲食店の営業時間短縮などが求められ、国内旅行人数は地方圏を中心に2019年の4割程度となりました。
2022年
3月21日にまん延防止等重点措置が終了し、3年ぶりに全国的に行動制限のないGWとなり、国内旅行人数は2019年の7割弱まで回復しました。一方、海外との往来は、1日当たりの帰国・入国者数の上限は5000人に定められたまま、外国人の観光目的の入国は制限されているなど、引き続き厳しい水際対策が実施されていました。
2023年
1月27日、政府はGW明けの5月8日に、新型コロナウイルス感染症を2類感染症から5類感染症に移行することを決定しました。このような気運から、GWの国内旅行は2019年の95%まで回復しました。一方、海外旅行は当初、水際対策がGW最終日である5月7日まで継続される予定でしたが、GW直前の4月28日に、翌日29日からの終了が発表されました。間際の決定であったため、帰国時の手続きを煩わしいと感じていた人、情勢の様子を見ようと考えていた人、感染症への不安や怖さがあった人などは海外旅行を見送ったと考えられます。
2024年
5類感染症に移行して以降、初のGW。海外旅行は、旅行者数が45万人と前年の167.7%に増加しました。この増加は、新型コロナウイルス対策の水際対策の影響で海外旅行を諦めていた人々の反動などもあり、急速に進んだ円安や物価高の影響がありつつも、アジアを中心とした近距離の旅行先から、海外旅行の回復が感じられました。一方、インバウンドは急激な回復を見せており、2月以降は2019年を毎月上回っていました。
調査では、コロナ禍で刻々と変化する状況の中、旅行者の移り変わる意識についても比較調査してきました。2021年と2023年を比較すると「家族・親族や親しい友人以外には合わない」は16.6ポイントの減少、「旅行することを周囲に話さないようにする」は11.3ポイントの減少、「公共交通機関を使わず、自家用車やレンタカーを使う」は10.1ポイント減少するなど、大きく変化しました。逆に「露天風呂付客室や貸し切り風呂が利用できる施設を選ぶ」など、3年間変化が少なく、一部の旅行者にとってはコロナ禍をきっかけに定着した選択肢もあると考えられます(図表5)。

出所:株式会社JTB「2025年ゴールデンウィーク(4月25日~5月7日)の旅行動向」(2025月4月3日)よりJTB総合研究所が作成

出所:株式会社JTB「2025年ゴールデンウィーク(4月25日~5月7日)の旅行動向」(2025月4月3日)よりJTB総合研究所が作成

出所:東京外国為替相場/TTM(Telegraphic Transfer Middle Rate)(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国為替相場情報」より)

出所:株式会社JTB「2023年ゴールデンウィーク(4月25日~5月5日)の旅行動向」(2023月4月6日)
物価高に、オーバーツーリズム、人々はどのように旅行を楽しむか?
コロナ禍を経て、日本の国内旅行は新たな局面を迎えています。世界的な物価高騰の影響で、交通費や宿泊費、食費などが旅行にかかる費用が上昇しています。
特に国内旅行については、コロナ禍で需要が低迷していた時期に、国や自治体による各種キャンペーンで比較的安価な旅行が可能であったことが記憶に新しいため、現在の物価高騰との落差を強く実感させられる状況となっています。
またコロナ禍の影響により、宿泊施設や飲食店など観光を支える現場で、人手不足が深刻化しているケースもあり、特に地方で顕著です。また海外からのインバウンドが急増し、人気の観光地ではオーバーツーリズムが懸念されています。海外旅行においては物価高に加え、急速に進んだ円安の影響もあり、2019年より割高に感じやすくなっています。
実際に2024年のGWに「今後1年間に旅行する際の懸念事項」について聞いたところ、国内旅行では「物価が高い(36.1%)」の懸念がどの性年代でも高い傾向にある一方で、「インバウンドの影響により観光地が混雑している(31.8%)」という懸念は高い年齢層で顕著にみられました。海外旅行については、「円安が続いている(44.4%)」が最も多く、次いで「海外の物価が高い(36.1%)」となっていました(図表6)。
こうした状況の中でも、旅行者はさまざまな工夫を凝らして旅行を楽しんでいます。費用を抑えるために、最も多い工夫は「同じ旅行先のまま、曜日を平日にずらすなどより安くなる日程に変更する(20.6%)」、次いで「より安く行ける旅行先を選ぶ・変更する(18.1%)」と旅行計画に関するものが挙げられました。また、「カードや決済のポイントやキャンペーンを活用する(16.4%)」、「飲食物を持参する(14.2%)」、「お土産の購入を控える、量を減らす、単価を下げるなどして金額を抑える(14.0%)」などは特に女性で高い結果となり、旅行を楽しみながらも幅広い方法から賢く費用を節約する姿勢が強まっています(図表7)。
オーバーツーリズム対策としては、「早めに交通や宿泊施設の予約を行う(31.0%)」が最も多く、次いで「繁忙期を避けた時期に旅行する(19.1%)」、「混雑が少ないと予想される旅行先や観光スポットを選ぶ(16.4%)」、「同じ旅行先のまま、曜日を平日にずらすなど混雑が少ないと予想される日程に変更する(15.9%)」の順となりました。早めの予約による席や部屋などの確保、および混雑を避けるための時期や場所の選定など様々な工夫を行いながら旅行する様子がうかがえます。SNSなどを活用して穴場を探す動きなども今後はさらに強まるかもしれません(図表8)。
これらの工夫は、旅行の質を高め快適に旅行すること、同時に費用を抑えるための戦略として活用されています。変化の速い時代の中で今後も、旅行者は変わり続ける環境に適応しながら、新しい旅行のスタイルを模索していくことでしょう。本調査では数値だけでなく、引き続き旅行者の意識や行動の変化も追っていきます。

出所:株式会社JTB「2024年ゴールデンウィーク(4月25日~5月5日)の旅行動向」(2024月4月4日)

出所:株式会社JTB「2024年夏休み(7月15日~8月31日)の旅行動向」(2024月7月4日)

出所:株式会社JTB「2024年年末年始(2024年12月23日~2025年1月3日)の旅行動向」(2024月12月5日)