「3,000社の8割」は日本企業
100年以上の歴史を持つ世界の企業3,000社のうち8割は日本企業
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シリコンバレーのクラウドサービス大手のエバーノート社は2008年に創業、今月10日には日本経済新聞社と資本・業務提携することで基本合意しています。同社は、100年先にも存続する会社となるための長期ビジョン策定に際し、100年以上の歴史を持つ企業についての調査を行いました。変化の激しいIT業界において、持続性を重視する姿勢は極めて珍しく、動きが注目されています。
エバーノート社の調査結果では、世界中で100年以上の歴史を持つ企業は約3,000社あり、そのうちの8割程度を寺社仏閣建築、老舗旅館、酒・呉服小売など日本企業が占めていることがわかりました。
なぜ日本においてこのような長寿企業が育ったのでしょうか。江戸後期、元禄バブルを経て人口減と経済の衰退期に入った時代、ファミリー企業が多かった日本では、事業の拡大よりも「家」の存続ということに重きをおきました。「三方よし」(売り手良し・買い手良し・世間良し:売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ)で知られる近江商人が活躍をし始めたのもこのころです。江戸時代の経営者は、短期的に自分たちだけが良ければよい、という戦略より、長期的視点に立ち、低成長ではあっても社会や人々の生活に貢献し、共存していく道を選んだのです。2008年に48期連続増収増益を達成し、「日本でいちばん大切にしたい会社」にも選ばれた長野県の伊那食品工業は企業の目的を、「売り上げや利益の大きさよりも、会社が常に輝きながら永続することにつとめる」とし、健康ブームの際も、無理な投資や社員の長時間労働などを避けるため、あえて寒天の増産には踏み切りませんでした。まさに短期的な視点より、長期的な視点に立った戦略と言えます。
エバーノート社CEOのフィル・リービンは、100年以上の歴史を持つ企業の研究から、自社の長期ビジョンとして以下の3点をあげました。
1.短期の数字にとらわれず、長期戦略を重視する
⇒長期的視点に立つ
2. 100年後にも創業時の気持ちを忘れない(仕事に夢中”in love with” であり、革新的”Innovative“かつ、信念を貫く”Act Decisively“)
⇒自分たちの満足を追求する
3. 聖域なくデザインの文化を追求する(生活者が本当に求めるものを提供するために、「価格が安いから実現できない」など、制約条件を設けず、社会に貢献する)
⇒買い手の満足を追求し、社会に役立てる
モバイルやSNSの普及、バーチャルリアリティや3Dプリンターなど、科学技術の進歩に伴う生活の変化は年々そのスピードを増しています。また、国際情勢や新しい感染症の流行・天災などもグローバルな交流に大きな影響を及ぼし、1年後の社会も読みにくい時代です。自分の目指す将来の方向性を明確に指針として持たなければ、前に進んでいくことが困難な時代と言えるでしょう。
ツーリズム産業に目を転じてみると、歴史的には創業100年以上続く老舗旅館なども多くみられ、巡礼の時代から観光旅行へ、団体旅行の時代から個人旅行へのシフト、生活者の志向の多様化やインターネットの普及による買い方・情報収集方法の変化など社会と共に旅のスタイルが大きく様変わりする中、比較的柔軟に対応してきたと言えます。
しかし今後は東京五輪の開催などをきっかけとして、インフラ整備を含め、より速いスピードで変化し、ますます未来はつかみどころがないものとなってくることが予想されます。
現在は国の政策も後押しする形で、訪日外国人旅行者は増加の一途をたどっており、様々な業界から熱い視線が集まっている状況ではありますが、短期的な視点で追い風に乗るだけではなく、いかに世界を見据えた長期的なビジョンを描くことができるのか、自社を取り巻く業界、ひいては日本社会全体がより幸せになるために何ができるのかを追求し、未来に向かってぶれない判断基準を持つことが、今後のツーリズム産業にとって重要なことではないでしょうか。