日本が141の国と地域の中の9位、世界のトップテンの仲間入りしたこととは?
観光競争力2015年版で、日本が141の国と地域の中9位に
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ダボス会議で知られる世界経済フォーラム(WEF)の観光競争力の2015年版が先ごろに発表になりました。日本の観光競争力は世界141の国と地域のうち過去最高位の9位となり、2011年22位、2013年14位からついにトップテンの入りを果たしました。全体の結果では1位がスペイン。以下フランス、ドイツ、米国、イギリス、スイス、オーストラリア、イタリアと続きました。日本はアジア各国の中では初めての1位となります(表1)。
この観光競争力レポート(Travel & Tourism Competitiveness Report)は隔年で発表されている世界の旅行・観光業に関する報告書で、2015年は評価算出基準となる4領域14項目93指標に基づき、オープンデータや各種調査により算出しています(図1)。訪日客の増加で観光への関心が高まり、多様な分野で経済効果も大きく期待されていることから、今回の結果は日本国内でも大きく報道されました。報道内容では、日本のランクアップの理由に、「顧客への対応」「テロ発生」「鉄道インフラの質」の指標が世界1位だったことがあげられていました。しかし実は「顧客への対応」「鉄道インフラ」は2013年度版も1位、「テロ発生」は新しい指標です。大切なことは、総合ランクの上下に一喜一憂するのではなく、各指標の結果やこれまでの背景を、現実の姿と重ねて考えてみることなのではないでしょうか。
今年のレポートから観光を通じた日本の活性化のために何をすべきかを、近々研究員よりコラムオピニオン欄で報告しますが、ここでは印象的なポイントについていくつか言及したいと思います。
評価算出基準となる項目・指標の改定
レポートは例年、多少の項目や指標の改定を行ってきましたが、2015年版は比較的大きな見直しがなされ、4領域14項目93指標に基づき算出されました。13年は3領域14項目79指標でした。93指標のうち34が新しい指標に替わっています。今回1/3以上が新しい指標となったため、新しい指標が優位に働いた国もあれば不利になった国もあると考えられますが、旅行・観光のトレンドも変わりゆくものです。見直しは必要とともに、総合順位の推移だけに捉われずに各指標の意味を理解することが必要でしょう。
日本の評価とおもてなし
日本は7項目でランクをあげ、6項目でランクを下げましたが、レポートでは、日本特有の文化資源(無形文化遺産)を含む豊かな文化資源、効率的な地上交通インフラおよび航空ネットワークが高評価を得たと同時に、ICTの整備でWifiサービスも国をあげて取り組んだことが評価されています。日本の人的資源の基準は高いレベルで、特に「Treatment of customers(顧客対応)」は世界でも際立っています。またアジア圏で中間層が増えているという地理的要件の恩恵も大きいといえるようです。
一部報道では「日本のおもてなし」が好評価を受けたと表現されていましたが、正確には「Treatment of customers(企業の顧客対応)」が1位ということです。一方、今回の指標の見直しで、一般の生活者からみた「Affinity for Travel & Tourism(観光への親近感、親和性、11年131位、13年77位)」という項目や「Attitude of population toward foreign visitors(外国人旅行者への対応、同91位、74位)」という指標が除外されました。理由は尺度が不正確であるからということです。英国観光庁はロンドン五輪の成功に向け’welcome’を国全体の重点施策として推進してきました。イギリスも「親近感」は決して高いものではありませんでしたがこの取り組みの結果順位をあげました(11年85位、13年45位)。評価の基準からはなくなりましたが、取り組みとしては「おもてなし」は事業者だけではなく、国一体で取り組むことが必要と思われます。
トップの入れ替わり・・・スイスが首位から6位に、イタリアが大躍進
日本とオーストラリアを除くと欧州の実力が際立っていますが、13年まで不動の1位だったスイスが今回6位となりました。逆に13年に26位だったイタリアが8位と大躍進しました。指標の見直しの影響もあったかと思われますが、スイスに関しては引き続き各項目の評価は総じて高く、人的資源や労働者市場、持続的な環境保全についてはトップです。一方、「文化的資源およびビジネス旅行」の項目で2013年の6位から28位と大きく後退しました。その理由の1つに項目に含まれる新しい指標「Oral and intangible cultural heritage(口承・無形文化遺産)」の評価が89位だったことがあげられます。これは世界無形文化遺産の登録数で評価されますが、スイスには世界無形文化遺産の登録がありませんでした。
新しい指標‘Oral and intangible cultural heritage(口承・無形文化遺産)’
この新しい指標は世界無形文化遺産の登録数で評価されます。無形文化遺産には地域コミュニティなどで代々受け継がれてきた慣習や芸能、知識、技能などがあげられます。これらは自然や歴史といった環境変化に応じて創造を繰り返し、その国の文化や多様性や独創性を表す資源であるとして、今回初めて指標に加わりました。
日本では13年の和食、14年の和紙の世界無形文化遺産登録が記憶に新しいですが、日本の総登録数は22で、中国に次ぐ多さです。日本の登録リストを見ると、もとは千年以上各地域で独自に育ち、伝承された「生活文化」の象徴といえるものが多くあります(表2)。日本観光の魅力は雄大な自然や荘厳な建造物を観光することに留まらず、それらに附随する伝統的習慣や芸能といった生活文化も体験する楽しみがあると言われていますが、この指標が加わったことで、物見遊山ではない、無形の文化体験が今の観光に大切な要素であることを世界も認知したと考えられないでしょうか。もっと先をみれば、多様性を受け入れ独自に進化した日本のポップカルチャーのようなもの、新しい文化を創造するパワーも競争力の指標になる日が来るかもしれません。