五感の中で唯一

印刷する

五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の中で唯一、感情・本能に関わる「大脳辺縁系」に直接伝達されるのは?

五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の中で唯一、感情・本能に関わる「大脳辺縁系」に直接伝達されるのは?
Source
「歴史的な建築物がある集落や町並み (重要伝統的建造物群保存地区)」での観光に関する調査

数字を
読み解く

ふとした匂いを感じた瞬間、あたかも今起こっていることであるかのように過去の情景が鮮明に蘇ってきた、といった経験はないでしょうか。これはフランスの作家、マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」という本の中で、主人公がマドレーヌの香りに触れ、幼少期を思い出した、という描写から「プルースト効果」として知られている現象です。

なぜ匂いによって、過去の記憶が呼び覚まされるのでしょう。それは、脳内での嗅覚の処理経路に関連するとされています。脳には、感情・本能を司る「大脳辺縁系」と、理性的な思考を司る「大脳新皮質」の二つがありますが、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の中で唯一、匂いだけが感情・本能に関わる「大脳辺縁系」に直接伝達されます。また、「大脳辺縁系」には記憶に関連する「海馬」という器官があります。そのため、匂いはリアルな感情を伴った追体験を想起させるきっかけとなるのです。

2019年5月に当社で実施した調査*1から、「歴史的な建築物がある集落や町並み」へ再訪するかしないかには、そのエリア内での食事経験が、大きく関っているということがわかりました。「食」は、その土地の歴史や生活文化を伝えるものであるという面もありますが、もしかしたら食事をした時の良い香りが記憶として刻まれ、何かの折にフラッシュバックすることで、「また行きたい」という気持ちになるのかもしれません。

以前、座った瞬間だけ、わずかに感じる程度の香りを忍ばせた車がありました。普段は気づかなくても、車の保有者が、いずれその車を手放した後、どこかで似たような香りを嗅いだ時に、その車のことを懐かしく思い出してほしい、あわよくば、また乗りたいという気持ちになってほしい、という一種のブランディングの試みです。

「匂い」を活用したプロモーションやブランディングは、あまり一般的ではないかもしれませんが、直接感情に働きかけることができる、という意味では、効果的に取り入れることができれば、強力なツールとなる可能性を秘めているのではないでしょうか。 

(はや)

*1 「歴史的な建築物がある集落や町並み (重要伝統的建造物群保存地区)」での観光に関する調査