2時間半以内の移動

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ここ数年でFlight shame （飛び恥）という言葉が広がりました。この意味は、大量の化石燃料を使用する飛行機は、気候変動に与える影響が大きく、飛行機に乗ること自体が環境破壊に加担するため、「恥」であるとの考えからです。コロナ禍前の2019年、全世界における航空業界のCO2排出量は全排出量の約2％を占めていました。

現在、各航空会社は、持続可能な航空燃料（ジェット燃料：SAF）の導入や、カーボンニュートラルへの取り組みなどでCO2排出量削減策を進めていますが、その一つ、近距離の移動では飛行機を使わず、よりCO2排出量の少ない鉄道の利用を促す方法が話題になっています。
　オーストリアでは、オーストリア航空とオーストリア連邦鉄道が連携し、首都ウィーンの空港とザルツブルク中央駅を結ぶ乗車時間約3時間の列車を運行しています。2020年7月、その運行本数は10倍に拡大され、代わりに飛行時間約50分のウィーン～ザルツブルグ間の航空路線が廃止になりました。現在、オーストリア航空の目的地検索をすると、飛行機と鉄道を組み合わせた結果が表示されます。
　フランスでは2021年7月、温室効果ガス排出量を2030年までに、1990年比で40%以上削減する目標が法制化されました。その中には、鉄道によって2時間半以内で移動可能な発着地を結ぶ航空路線について、乗り換え利用者が多い路線を除き、2022年3月までに廃止する項目があります。これによりエールフランス航空とフランス国有鉄道は、2021年7月19日出発分から、飛行機と鉄道を組み合わせた予約サービスを開始しています。
　オーストリア航空、エールフランス航空、どちらも飛行機と鉄道の乗継便をまとめて予約することが可能で、交通機関が遅延した場合の接続保証もあります。さらに鉄道の移動でもマイルが貯まる、飛行機のステータスに合わせたグレードの鉄道車両が利用できるなど、飛行機利用と同等のサービスを提供しています。まさに飛行機の近距離便を廃止する代わりに、鉄道を航空便の一つと見立てているのです。

日本では、山地が多いことから線路の直線区間が短く、新幹線など一部の列車を除き移動時間がかかるため、近距離でも飛行機が活躍しています。加えてLCCの登場により利便性が増し、時期によっては飛行機の価格が新幹線や鉄道より安くなることも、飛行機利用を促す要因の一つです。東京-新大阪間の新幹線乗車時間は約2時間半。仮にフランスなどの考え方を導入した場合、東京-大阪間の飛行機は鉄道に代わられ、交通体系が変化することになるでしょう。

社会課題としてCO2排出量の削減は避けられない中、鉄道の利用促進は有効な方法の一つです。日本でも新幹線内にリモートワーク専用車両や豪華寝台列車ができるなど、鉄道はニーズに合わせて変化し続けています。一方で飛行機も環境対応を積極的に進めており、「飛び恥」ではなくなる可能性があります。将来的には、鉄道と飛行機をうまく組み合わせた旅行が増えるかもしれません。便利さや移動効率を追求し続けてきた人間にとって、鉄道の旅は見落としていた景色やゆっくりとした時間のありがたみ、人との出会いなどに気づく楽しみもあります。コロナ禍を経た変化、そしてSDGｓに取り組むにあたり、人間にとっても地球にとっても、「本当にいい選択」とは何か、今一度考える時なのかもしれません。(Y)

＜参考資料＞
観光産業ニュース「トラベルボイス」：「フランスの『観光×環境』の最前線を取材した、鉄道2時間半区間の航空国内線は廃止、続々と復活する夜行列車」（2021.11.2）
https://www.travelvoice.jp/20211102-149933
IDEAS For GOOD ：「フランス、『電車で2時間半以内で行ける国内線空路』を全面禁止へ」（2021.4.16）
https://ideasforgood.jp/2021/04/16/france-short-flight-ban/
オーストリア航空：AIRailについて
https://www.austria.info/jp/service-and-facts/getting-there-and-around/airlines/airail-and-fly
エールフランス航空：TRAIN + AIRについて（英語ページ）
https://www.airfrance.fr/FR/en/common/resainfovol/avion_train/reservation_avion_train_tgvair_airfrance.htm