統計開始以降2番目

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日本の冬の平均気温、統計開始以降2番目の暖冬

日本の冬の平均気温、統計開始以降2番目の暖冬
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気象庁「日本の季節平均気温」

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気象庁によると、2023年から2024年の日本の冬の平均気温は過去2番目の高さを記録しました(※1)。暖冬の原因の1つである2023年春から続くエルニーニョ現象(スーパーエルニーニョ現象)は終息に向かっており、夏にはラニーニャ現象が発生する可能性が予測されています(※2)。これらの現象は日本の経済活動に様々な影響をもたらします。

エルニーニョ現象とは太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなる現象です。温室効果ガス等による人為的な要因ではなく、海洋や大気の相互作用によって、数年おきに発生する自然の変動です。気象庁の定義によるとエルニーニョ監視海域の海面水温が基準値の+0.5℃以上の状態が6ヶ月以上持続した場合を「エルニーニョ現象」、−0.5℃以下の状態が持続した場合を「ラニーニャ現象」と定義しています(※3)。一方で「スーパーエルニーニョ現象」とは平年に比べて+1.5℃から2℃以上の状態が続く現象です。2023年もこれに該当します。

出典:日本財団18歳意識調査「第62回‒国や社会に対する意識(6カ国調査)‒

図1 1997年11月の月平均海面水温平年偏差(左は典型的なエルニーニョ現象)及び、1988年12月の月平均海面水温平年偏差(右は典型的なラニーニャ現象)(※4)

エルニーニョ現象が発生すると日本は冷夏・暖冬、ラニーニャ現象が発生すると暑夏・寒冬になる傾向があります。日本の経済活動に対してどのような影響をもたらすのでしょうか。例えば小売業界では、2023年のように暖冬になると、殺虫剤や食塩などの売上が増加し、アレルギー関連商品は売れる時期が通常より早まるなど、商品需要に大きな影響をもたらします(表1)。一方で、2024年にラニーニャ現象が発生して暑夏になれば、冷やし麺やかき氷などの冷たい食品、夏服、制汗剤、防虫用品、扇風機などの夏物商品の需要が例年よりも早めに高まり、需要の高い状態が継続するでしょう。(※6)

表1 暖冬で売れるもの一覧(※5)
暖冬で売れるもの 理由(推測)
殺虫剤・防虫剤関連 気温が高いと虫が発生しやすいことから
食酢や食塩 気温が高いと酸味や塩味のあるものが売れることから(寒いと甘味、旨味が売れる)
制汗剤・日焼け止め・ドリンク類 気温が高いと外での活動が増えることから
アレルギー関連商品 花粉の飛び始めが早いことから
除湿剤、防水・撥水剤 暖冬の年は低気圧の通過が多く、太平洋側で雨や雪が増えることから
マヨネーズ 暖冬で野菜の価格が下がることからサラダ用に

近年、日本気象協会やウェザーニューズのような民間の気象情報会社は小売業界に対して独自の需要予測モデルを作成し、コンサルティングを行うことで数ヶ月先の商品需要予測、最適な仕入実現に向けた支援を行っています。小売業以外の業界においても様々な気象データをビジネスや事業に活用する「気象ビジネス」(表2)が注目されています。

表2 気象ビジネスの事業の一例 (※7)
事業名 事業内容一例
航海気象 気象海象をはじめ、運航や航海リスクを考慮した支援を、船舶へ提供
航空気象 安全で経済的、そして快適な空の旅のために、事前に予測可能な現象に対する対応策支援情報の提供
道路気象 気象による災害リスクや交通渋滞リスクを予防、回避するために、総合的な対応策情報を提供
防災気象 災害時、住民の命と財産を守るために自治体の最適な防災体制の支援
イベント気象 イベント当日の気象状況と中止基準を超える気象現象(強風、強雨等)の発生から開催可否判断の支援
流通気象 気象を味方につけ、コンビニやスーパーにおける利益の最大化・ロスの最少化に向けた支援
農業気象 農業における気象リスクの軽減や利益の最大化を支援
気候テック 気候変動リスクを分析し事業の継続性やレジリエンスなど、企業のサステナビリティ経営をサポート
スポーツ気象 チーム・選手が最高のパフォーマンスを発揮するために、最適な戦略・戦術の組み立てや最良の準備を支援

ツーリズム業界においてエルニーニョ・ラニーニャ現象はどのような影響をもたらし、どのように「気象ビジネス」に活用することができるのでしょうか。
 例えば暖冬になると、人々の外出が促され、ゴルフ場やテーマパーク等のレジャー施設の入場者数が増加傾向になります。一方で悪影響は、スキー場などの冬のレジャー施設の雪不足による休業や、来場者数の減少などがあります。エルニーニョ現象が発生した2015年は、暖冬の影響で冬のレジャーの低迷により国内消費支出額が大幅に減少しました(※8)。
 また、その年の気温によって各地の紅葉の時期、桜の開花時期が変わり、観光客の訪問時期がシフトすることも、ツーリズム業界に大きな影響をもたらします。予めその年の気象現象の予測が出来れば、事前に設備の最適化、適切な人員配置などの対策を行うことが出来ます。実際に滋賀県のグランスノー奥伊吹では、日本初の人工造雪機等を導入し、ゲレンデの積雪量やコンディションを維持して営業を続けたことで、2023年の暖冬の影響のなかでも過去最多の入場者数を記録しています(※9)。
 2024年にラニーニャ現象となった場合、ツーリズム業界への影響は、暑夏による屋外施設の入場者数の変化や旅行中の熱中症の増加、秋の西日本太平洋側の降水量の減少による消費者行動の変化などが考えられ、早めに対策をしていくことが重要です。

2023年の事例から分かるように、気象現象は様々な自然の変動や、地球温暖化などが複雑に絡み合い、私たちの生活に大きな影響を与えています。消費者が旅行の前に現地の気温、服装、旬の食べ物などの情報を入手して旅行に役立てるのと同様に、観光事業者が気象情報を事前に活用し、来場者数等のビジネス予測を組み立て、対策を打つことは非常に重要ではないでしょうか。
 
※1 気象庁「日本の季節平均気温」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/win_jpn.html
※2 気象庁「エルニーニョ監視速報」
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho1.html
※3 気象庁「エルニーニョ現象及びラニーニャ現象の発生期間」
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/elnino_table.html
※4 気象庁「エルニーニョ/ラニーニャ現象とは」
https://www.data.jma.go.jp/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino.html
※5 日本気象協会 Weather X「2023~24年冬の天気と暖冬で需要が高まる商品」
https://weather-jwa.jp/news/topics/post1192
※6 ウェザーニューズ「春夏の小売需要傾向2024」
https://jp.weathernews.com/news/46069
※7 ウェザーニューズ「サービスラインナップ」
https://jp.weathernews.com/your-industry/
※8 第一生命経済研究所「エルニーニョが秋~冬の経済に及ぼす影響」
https://www.dlri.co.jp/report/macro/279896.html
※9 奥伊吹観光株式会社「【過去最速】開業54年目に営業日数71日目で入場者数「20万人」突破!!関西最大級の規模を誇る滋賀県「グランスノー奥伊吹」!」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000185.000025847.html