1つの島に22か所

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スウェーデンのストックホルムにあるユールゴーデン島には、22か所の博物館(Museum)があります。

スウェーデンのストックホルムにあるユールゴーデン島には、22か所の博物館(Museum)があります。
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「ユールゴーデン島」公式サイト

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ストックホルムの中心部にある緑豊かな島、ユールゴーデン島は、ストックホルム市街地から徒歩30分の場所にある約279ヘクタール(東京ドームの59倍の大きさ)の島です。国内外から毎年1500万人以上の訪問者が訪れ、その数はスウェーデンの人口の約1.5倍に相当します。この島で、2024年4月23日から26日まで「GSTC2024グローバル・サステナブル・ツーリズム・カンファレンス」が開催され、50カ国以上から500人の代表者が集まりました。

ユールゴーデン島は1452年から王立公園となっていますが、これはコロンブスがアメリカに到着する40年前のこと、というから驚きです。そして今でもユールゴーデン島はストックホルムの緑のオアシスとして、また住民のための大きなリビングルームのような場所として、多くの市民に親しまれています。夜間でも閉鎖されることなく、入場料も必要ありません。この文化的で自然豊かな島には、スカンジナビア半島でも人気が高い美術館である、スカンセンとヴァーサ号博物館を含む22の博物館(Museum)、劇場、音楽会場、レストラン、庭園、記念碑、彫刻公園、美しい自然があり、何百年もの間、エンターテイメントとレクリエーションの中心地であり続けてきたのです。

このような歴史から、The Royal Djurgården Society(王立ユールゴーデン協会)は長期にわたり、首都の中心部に位置する観光地として持続可能性の開発に力を入れてきました。2022年にはその努力を認められ、国連の持続可能な開発目標に沿う体系的な取り組みとして、グリーン・デスティネーション・プラチナ賞を受賞しています。

持続可能性の取り組みにあたっては、島内のすべての施設が協力しあい、短期的および長期的な持続可能性の目標を設定しています。関係者たちは文化遺産を大切に守り続けていくことで、スウェーデンがより持続可能な未来へのビジョンを達成しようとしているのです。
22の美術館の中でも特に持続可能な努力で際立つ2つの施設を紹介したいと思います。

まず一つ目は、1891年に設立された世界初の野外博物館、スカンセンです。スカンセンは、おそらくスウェーデンで最も人気のある博物館で、歴史的に興味深い家屋や農場が全国各地から移築され、保存されています。歴史的な側面だけでなく、スカンセンはバルト海の海洋生物を含む、75種類のスカンジナビアの家畜と野生動物を飼育する動物園でもあります。博物館にはいくつかの庭園もあり、ローゼンダールズ・ガーデンはそのバイオダイナミックな農業の実践で知られています。バイオダイナミック農法とは、有機農法をさらに進めた持続可能な農業の一種で、自然との調和を重視します。農地全体を一つの生きた有機体と捉え、土壌、植物、動物、昆虫、そして人間が互いに関連し影響しあう生態系を大切にします。また、自然のリズムや周期(月の満ち欠けや季節の変化など)に合わせて農作業を行うことも特徴の一つです。
例えば、スーパーフードとしても知られるケールが旬の時期、人間もケールを食べたいと思う一方、同じように芋虫もケールが大好物で、何もしなければ2日と持たずに食べつくされてしまいます。しかしながらバイオダイナミック農法の環境では、野鳥が芋虫を食べることで、網や農薬を使うことなく、ケールの葉を守ることができるのです。このような取り組みを通じ、新しい世代に動物や植物などを一つの環境として統合することが可能であることを教える教育的な役割も果たしています。

二つ目は、難破船博物館です。バルト海は、特殊な条件下もあって難破船の保存がよく、世界最大の文化遺産地域となっています。難破船博物館は、海底の遺物を引き上げることなく、訪問者が実際にみているかのような体験を提供するためのテクノロジーを駆使しています。難破船「Resande Man(旅行者)」の展示では、水中での音など臨場感をもって、訪問者を難破船に連れて行く没入体験が提供されています。実際には、遺物は展示されていませんが、訪問者は難破船の中で撮影された画像に囲まれ、実物大の難破船がプリントされたカーペットの上を実際に歩き、その場でガラスケースに展示された遺物をみているかのような体験をすることができます。また今後は、ダイビング探検をライブ配信するためのAR/VR技術を導入することも検討されています。これにより訪問者は、これまで見ることができなかった難破船のリアルタイムの様子も見ることができるようになります。

ユールゴーデン島は、都市部の観光地が数千万人もの訪問者を引きつけながら、持続可能性を達成できている生きた事例といえます。関係者が協力し、人間の影響を最小限にとどめる共通の目標を見つけることで、エリアの自然と文化を保存することが可能となります。

みなさんも、次回ストックホルムを訪れる際には、ぜひこの美しい島を訪れてみてはいかがでしょうか?(KY)

<参考情報>
在日スウェーデン大使館公認 観光情報サイト
http://letsgo-sweden.com/djurgarden/
ユールゴーデン島のサスティナビリティについて
https://sustainable.royaldjurgarden.se/en/home-en/
「GSTC2024 Global Sustainable Tourism Conference 実施について」GSTC(Global Sustainable Tourism Counci)公式サイト
https://www.gstcouncil.org/largest-gstc-global-conference-stockholm-2024/
「Resande Man(旅行者)展示について」難破船博物館(VRAK Museum of Wrecks)公式サイト
https://www.vrak.se/en/visit-the-museum/exhibitions/resande-man/