入島者0人の特別な日

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サカ暦の新年にあたる「ニュピ」では、バリ島全域で外出が禁止され、陸・海・空全ての交通が停止するため、入島者が全くいなくなります。

サカ暦の新年にあたる「ニュピ」では、バリ島全域で外出が禁止され、陸・海・空全ての交通が停止するため、入島者が全くいなくなります。
Source
外務省海外安全ホームページ「ニュピ祭における注意喚起」

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バリ島は、世界的に有名な観光地として知られていますが、年に1日だけ、観光客を含むすべての入島者がゼロとなる特別な日があります。それが、サカ暦の新年にあたる「ニュピ(Nyepi)」です。この日はバリヒンドゥー教徒の精神修養の日であり、断食と瞑想に専念するため、バリ島全域で外出が禁止され、空港も閉鎖されます。また、火や電灯の使用が禁止され、町の商店も営業を停止します。このため、英語では「Day of Silence(静寂の日)」と呼ばれ、バリヒンドゥー教徒は家で静かに瞑想を行います。この規制は観光客にも適用され、過去にはニュピの日に外出した外国人観光客が国外追放された事例もあります。ニュピの日程はインド起源のサカ暦に基づいて決まるため、毎年異なりますが、例年3月中に行われることが多く、2024年は3月11日でした。2025年は3月29日に行われます。
 ニュピの日は、一見すると観光客にとっては何もできない退屈な1日に思えるかもしれません。しかし、この「何もできない」状況が、逆に特別な体験を生み出しています。バリ島のホテルでは、観光客向けにヨガや瞑想といったイベントを開催しています。近年、こうしたコンテンツを含む医学、生理学、脳科学、心理学の効果検証を基づいたヘルスツーリズムが注目を集めています。特に、現代の多忙な生活に疲弊した人々にとって、心と体のリフレッシュを目的とした活動は重要であると考えられています。現代の生活における疲労の一因として、スマートフォンやモバイル機器の長時間利用が考えられます。2023年に行われた総務省情報通信政策研究所の調査によると、休日のスマホを含むモバイル機器の利用時間は、全世代で約2時間半、10代は約5.5時間、20代も約5時間と大変長いことがうかがえます。ニュピの日には、こうしたデジタル機器の使用が原則として禁止されるため、自然と「デジタルデトックス」を実施することができます。
 ニュピの日の何もできないという状況は、逆に「何もしなくても良い」という解放感を味わうことができ、忙しい日常から解放され、非日常的な時間を体験する貴重な機会となります。
 ニュピの例は、観光地の魅力が必ずしも目に見える観光スポットだけにあるのではないことを教えてくれます。地域の伝統や習慣を直接体験することの重要性、「何もしない贅沢」を通じた新たな観光スタイル、そして一見デメリットに思える要素をユニークな体験に変える発想など、視点を少し変えるだけで、新しい観光の形が見えてくるかもしれません。(MDK)
 
<参考文献>
国土交通省国土政策局「各国の国土政策の概要」
https://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/international/spw/general/indonesia/index.html
The Jakarta Post ”Two Polish nationals deported from Bali for ignoring Nyepi strictures”
https://www.thejakartapost.com/indonesia/2023/03/27/two-polish-nationals-deported-from-bali-for-ignoring-nyepi-strictures.html
JTB総合研究所 観光用語集「ヘルスツーリズムとは」
https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/health-tourism/
総務省情報通信政策研究所「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書<概要>」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000953019.pdf