Accessible Japan・株式会社JTB総合研究所 共同調査
「海外在住障害者の日本アクセシブル・ツーリズム認識調査」
~日本のバリアフリー観光、期待と現実のギャップ。35か国221名の海外在住障害者の声から見えてきた課題~
結果概要
- 海外在住の障害を持つ人の多くが日本の歴史的建造物や庭などが車いすで行くことが困難と感じ、日本のバリアフリーは進んでいない印象を持っている
- 訪日経験者からは、トイレの清潔さや親切な人々に驚いたとのポジティブなフィードバックがみられたが、宿泊施設のアクセシブル・ルームの不足や観光地の足場の悪さなどの問題点も指摘された
- アメリカをはじめ、他国でアクセシブル・ツーリズムが進んでいると思う理由として、法律の整備を挙げる意見が多数。日本における法規制の遅れや不十分さが浮き彫りに
海外に向けて日本のバリアフリー観光情報を提供し、障害のある方のインバウンド旅行をサポートするAccessible Japan(tabiLabs株式会社 東京都渋谷区 代表取締役:グリズデイル・バリージョシュア(以下 Accessible Japan))と株式会社JTB総合研究所(東京都品川区 代表取締役社長執行役員 風間 欣人)は、共同調査「海外在住障害者の日本アクセシブルツーリズム認識調査」の結果を発表しました。
本調査では、Accessible Japanに登録している障害のある外国人およびその家族を対象として、日本のバリアフリーに関する事前イメージと、実際の訪日経験者の感想を調査したものです。特に、訪日時に生じた困ったことや、素晴らしいと感じたことなどの具体的な経験に焦点を当て、海外と日本のバリアフリーに関する認識の差異を明らかにすることを目的としています。この調査結果が、今後の訪日外国人向けバリアフリー情報の発信強化や、よりインクルーシブな観光環境の整備に向けた指針となることが期待されます。
我々は、すべての人々が楽しめる旅行を目指し、多様性を尊重した日本の観光のあり方について、新たな視点を提供する研究を引き続き推進してまいります。
調査結果
回答者の居住国別割合は、英語圏で7割程度、うちアメリカは4割以上
手動式車いすと電動車いすの割合はそれぞれ4割。今後、電動車いすの受け入れについて対応が求められる
難病を抱えている人も2割以上いることから、より多様な障害について知見を深める必要も
調査には35か国・地域から合計221人の回答がありました。その7割が英語圏であり、これはAccessible Japanが英語サイトであることが主な理由と考えられます。回答者の居住国・地域では、アメリカが43.4%で最多となっており、次いでオーストラリア(13.1%)、イギリス(11.3%)が続いています。Accessible Japanの会員登録もアメリカが最も多く、アクセシブル・ツーリズムへの関心が高いと推測されます(図表1) 。
障害の種類・状態は、手動式車いす利用者が43.0%、電動車いす利用者が42.1%とほぼ同程度でした。日本では手動式車いすが主流ですが、海外では電動車いすの利用も一般的であることがわかります。電動車いすは充電が必要であり、日本と海外では電圧が異なるため、バッテリー充電のための対策が必要です。また、大型の電動車いすに対応できる環境整備も求められます。
その他の回答者の内訳としては、難病(22.2%)、杖利用者(19.9%)、自閉症(14.9%)などが続きました。この結果は、アクセシブル・ツーリズムが幅広い障害や状況に対応する必要があることを示しています(図表2)。
公共交通機関も含め、アクセシブルな乗り物を必要としている人が80.5%
ハード面への配慮だけでなく、アクセシブルに関する情報提供へのニーズも高い
普段の外出で配慮が必要とされたものは、「アクセシブルな乗り物」80.5%、「アクセシブルな観光地や施設の情報」76.9%、「バリアフリートイレ」73.3%でした。アクセシブルな乗り物やバリアフリートイレなどの物理的なハード面の配慮だけでなく、アクセシブルな情報のニーズも高いことが分かりました。また、センサリーグッズやソーシャルストーリーなど、目に見えない障害をお持ちの方への配慮も求められています。これらは日常生活や旅行時に必要な基本的な配慮です。こうしたニーズに応え、適切に情報発信することで、訪日旅行の促進につながると考えられます(図表3)。
日本のアクセシブルに関するイメージは、「日本の寺や庭など、車いすで行けないところが多い」が67.0%
「ホテル・レストラン・店など部屋や建物が狭い」、「日本はアクセシブル・ツーリズムが進んでいない」は訪日経験者の方が高く、イメージよりも実際の評価の方が低い結果に
日本のアクセシブルに関するイメージは、「日本の寺や庭など、車いすで行けないところが多い(67.0%)」、「ホテル・レストラン・店など部屋や建物が狭い(55.2%)」など、日本の建築様式に対する懸念が上位となりました。また、日本のアクセシブル・ツーリズムの遅れや、公共交通機関の混雑による車いす利用者の困難さを指摘する声も47.1%と高い割合となりました。
訪日経験別にみると、訪日経験者の方が割合が高いのは「ホテル・レストラン・店など部屋や建物が狭い(63.5%)」、「日本はアクセシブル・ツーリズムが進んでいない(48.6%)」、「大浴場や温泉は車いす利用者などは入れない(41.9%)」、「日本語以外の言葉が話せる人が少ない(37.8%)」、「アレルギーやグルテンフリーなど食への対応をしてくれない(9.5%)」で、イメージよりも実際の評価の方が低い状況が明らかとなりました。早急な改善が必要なポイントといえます。
逆に、「電車は混雑していて車いすでは乗れない」は、訪日経験者よりも未経験者の方が10.8ポイント高くなりました。海外のメディアなどで日本のラッシュアワーが紹介されることがあり、そのようなイメージを持っている外国人が多いのかもしれません。日本の公共交通機関の対応などについて、正しい情報発信をしていく必要もありそうです(図表4)。
訪日旅行で困ったことは「宿泊施設にアクセシブル・ルームが少ない」が50.0%、「観光地の足場が悪い」が40.5%
良かったことは「親切にしてくれる人が多かった」、「トイレが使いやすい」、「電車に乗るときに駅員が手助けしてくれる」
回答者のうち、訪日経験のある74名に対して、訪日旅行について聞きました。訪日経験回数は1回が半数以上で、訪問先として上位に挙がったのは東京、京都、大阪、訪日旅行での関心事は日本の食文化や歴史的建造物でした。これは、健常者の訪日旅行ニーズとほとんど変わりませんでした。
アクセシブルな視点から、訪日旅行で困ったこと・良かったことを聞きたところ、困ったこととしては、宿泊施設におけるアクセシブル・ルーム不足、観光地の足場が悪い、大浴場や温泉へのアクセスが困難であるなどが挙げられました。これらは日本の観光施設やサービスが、障害を持つ人々にとってまだ十分に利用しやすい状況にないことを示しています。特に、日本語のみの情報提供や、人が多すぎて観光を楽しめないという回答は、言語的なバリアと混雑によるストレスが大きな障害となっていることを示唆しています。
一方、良かったこととしては、親切にしてくれる人が多いことやトイレが無料で使えることが高く評価されており、日本のおもてなしの文化が障害を持つ人々にも好印象を与えていることが明らかになりました。また、「電車での移動時に駅員が手助けしてくれる」との回答も多く、日本の公共交通機関におけるサポートが評価されていることが分かります(図表5)。
アクセシブル・ツーリズムが進んでいると思う国はアメリカ、イギリスなど。理由は「法律が整備されている」
日本は「東京」との回答が多く、国全体としての法規制の不十分さが明らかに
障害を持つ人々にとって、アクセシブル・ツーリズムが進んでいると感じた場所や国はどこなのでしょうか。自由記述で尋ねたところ、40名以上が「アメリカ」と回答しました。今回のアンケート回答者の4割がアメリカ在住者であることが影響していますが、その理由として「ADA法1 によって定められている」という意見が多く、国内外でADA法への理解が浸透していることがわかります。他の国・地域としては、イギリス、スペイン、北欧などが挙げられました。これらは、日本に比べてアクセシブルに関する法的拘束力が強い国々です。
回答には日本も挙がりましたが、「東京」という都市名での回答が多く示されました。特定の大都市がアクセシブルな環境整備を進めている一方で、国全体としての法規制が遅れていたり不十分であったりする現状が示されています(図表6)。
1 ADA法(Americans with Disabilities Act 障害を持つアメリカ人法):1990 年7 月に制定された適用範囲の広い障害による差別を禁止する公民権法
まとめ
今回の調査結果から、海外在住の障害を持つ人々は、日本のアクセシビリティに対して一定の不安を抱えつつも、日本文化やサービスに高い関心を寄せていることが分かりました。しかし、実際の訪日経験では、アクセシブル・ルームの不足や観光地へのアクセス問題など、多くの改善点が指摘されています。例えば、東京や大阪などの主要都市では、公共交通機関のバリアフリー化が進んでいるものの、地方ではまだ対応が不十分なケースが見受けられます。観光地においても、歴史的建造物や自然景観を楽しむ際に段差や階段が多く、車いす利用者にとってはアクセスが困難な場所も少なくありません。
これらの課題に対応し、情報提供を充実させることで、障害を持つ人々がより日本を訪れやすくなる可能性があります。例えば、SNSなどを活用した詳細なバリアフリー情報の提供、観光施設やホテルでのスタッフ教育の強化、そしてアクセス改善に向けたインフラ整備の推進が挙げられます。
また、他国と比較して法規制面で遅れがあるとの指摘は、今後の日本のバリアフリー政策に対する重要なフィードバックといえます。特に、観光業界全体での障害者支援の取り組みを強化することが求められており、これにより日本の観光地がより多様な旅行者に対応できる魅力的な目的地となるでしょう。さらに、アクセシブル・ツーリズムを推進することで、国内の障害者にもより多くの旅行機会が提供され、彼らの生活の質向上にも寄与することが期待されます。このような取り組みを通じて、健常者と障害者が共に楽しめる観光地づくりが進むことが望まれます。
Accessible Japanについて
tabiLabs株式会社は、障害のある方々が安心して旅行できる環境を提供する企業です。2015年に設立された「Accessible Japan」は、日本国内のバリアフリーな宿泊施設や観光地、交通機関の情報を提供し、障害者旅行者の頼れる情報源となっています。また、「tabifolk」というグローバルなコミュニティも運営し、旅行者同士が情報交換できる場を提供しています。
社名:tabiLabs株式会社
代表取締役:グリズデイル・バリージョシュア
所在地:東京都渋谷区道玄坂 1-10-8 渋谷道玄坂東急ビル2F-C
設立:2015年(2024年5月1日にtabiLabs株式会社として法人化)
URL:https://www.accessible-japan.com/
株式会社JTB総合研究所について
株式会社JTB総合研究所は、2012年、株式会社JTBの創立100周年を機に、ツーリズムを通じ社会や地域の課題解決への貢献を目指してスタートしました。調査研究、コンサルティング、観光教育の事業を柱に、ツーリズムの枠組みにとらわれない新しい時代のシンクタンクとして、地域や企業の発展に貢献すべく、取り組みを進めています。
社名:株式会社JTB総合研究所
代表取締役社長執行役員:風間欣人
所在地:〒140-0002 東京都品川区東品川2-3-14 東京フロントテラス7F
設立:2001年6月21日(2012年6月1日より、JTB総合研究所に社名変更)
URL:https://www.tourism.jp/
お問い合わせ
Accessible Japan
問い合わせ先:info@accessible-japan.com または hello@tabilabs.global
株式会社JTB総合研究所
(調査担当者)主任研究員 勝野 裕子
問い合わせフォーム:https://www.tourism.jp/contact/
調査・研究結果 本文
調査概要
- 調査手法
- インターネットアンケート調査
- 調査期間
- 2024年9月19日~10月15日
- 対象者
- Accessible Japanに登録している障害をお持ちの外国人またはその家族221人
調査に関するお問い合わせ
株式会社JTB総合研究所 広報担当
お問い合わせ