連載 玲玲細語

バックナンバーをすべて見る

玲玲細語 ~中国人研究員が見て感じた日本と中国~

「インターネット+」中国の自転車シェアリングサービスが開花する?!

2015年7月に中国国家国務院より「インターネット+(インターネットプラス)」行動計画が発表されました。これは、インターネットと製造業との連携を図り、IoTに関わる産業の健全な発展を目的としたものです。それ以降、中国全土では様々な業種業界で、新しい事業モデルの開発や、既存事業の整合・合併等が進み、交通分野でも新しいビジネスモデルが生まれてきています。

印刷する

昨年、中国で最も注目されたのは、一般市民の「外出の足」と関係する、中国のタクシー配車アプリ「滴滴出行」が行ったUber Chinaの買収でした。それまでに滴滴出行を含め、各タクシー配車企業が投資ファンドから多くの資金を受け、消費者獲得ため、「焼銭(お金を燃やすような感じでの資金投入行為)」プロモーションを行いました。

例えば、消費者が滴滴のタクシー配車サービスを使うと、乗車クーポンもしくは乗車料金の還元を受けられ、実質乗車料金が0円になるサービスがありました。

表1:中国のタクシー配車サービスの歩み(主に2社)

中国のタクシー配車サービスの歩み

出典:百度・捜狐ニュースより作成

今年に入り、タクシー配車の資本角逐が一段落となり、今資本参入が熱くなっているのは、自転車シェアリングサービス事業となります。10年前から中国各省会都市(県庁所在地)で政府主導の市民向けの自転車シェアリングサービスを提供し始めましたが、自転車の利用・管理等の問題で、普及がなかなか進まないようでした。このような背景の中、2015年からベンチャー企業がこの分野に参入し、2016年には自転車シェアリングベンチャー企業が誕生、2016年が自転車シェアリング元年とも言われています。日本でよくみられるポートなどは存在せず、利用者は道路脇に白い線で区切られている公共スペースに設置されている自転車を、いつでも・どこでも自由に借り出し・返却できます。利用時間の管理や支払いはすべてアプリで行われます。

公共スペースに設置されている自転車

著者撮影

自転車シェアリングを提供しているのは、主に10社(ブランド)が存在しています。ブランド別の自転車シェアリングの利用状況ですが、主に2社のベンチャー企業Mobike(摩拜単車)とofo(共享単車)が高い市場シェアを占めていることがわかります。(図1と表2)世界的にみて、自転車シェアリングというのは新しいサービスではありませんが、利益を生み出す仕組みづくりはまだまだ模索中のようです。

ブランド別自転車シェアリングアプリダウンロード数

出典:速途研究院 『2016年共享単車市場報告』より作成

Mobikeは、2015年1月にUber出身の王氏が設立したベンチャー企業です。技術や自転車の革新に力を入れて、企業の経営理念に関する宣伝等を工夫しています。市場占有率はofoに次いで2位となっていますが、アプリのダウンロード回数やアクティブユーザーは一番多いと言われています。
Mobike(英語サイト) http://www.mobike.com/global/about

もう一つは、2014年に北京大学を卒業した戴威が設立した「ofo」となります。ofoは、「最後の1キロ」問題を解決する理念で、大学校内を中心に、消費者獲得に力を入れてきました。「滴滴出行」からの出資を受け、2016年の市場シェアは業界No.1の座を勝ち取りました。
ofo(英語サイト) http://www.ofo.so/index.html

2017年に入って、この2社ともにシンガポール市場へ参入し、自転車シェアリングサービスの提供をはじめました。中国国内に限らず海外での競争も激しくなっているように見えます。

表2:主に2社のブランドMobikeとofoの比較

Mobikeとofoの比較

速途研究院の報告書によれば、2017年中国の自転車シェアリング市場規模は2016年より倍増し、売上は1億元(約16億円)、2020年まで2億元(約32億円)を超えると予測されています。一方、自転車の投入(400万台超)は1級大都市に集中しており、全体の7割を占めています。利用者は20代と30代に集中している傾向です。(図2と図3)ほかの年代と比べ、大都市に住んでいる20代と30代の中国人は新しいサービスに興味や関心が高いことも伺えます。自転車シェアリングサービスのほか、この年齢層の中国人の消費行動にもっと注目してみるべきでしょう。

中国における自転車シェアリングサービス市場規模

出典:速途研究院 『2016年共享単車市場報告』より作成

年齢別利用者構成

出典:速途研究院 『2016年共享単車市場報告』より作成

昨年北京や上海等に出張した中で長江デルタにMobikeの人気の高さを肌で感じました。Mobikeのブランディング戦略が成功していると言えるでしょう。資本で勝負するのみならず、理念・ビジョンで事業展開しつつ、消費者への情報発信をCEO自ら行っていくというプロモーションを展開しています。

気付けば、訪日中国人が温水便座の爆買いから始まり、今では中国人消費者の消費心理が徐々に変化が起きているのでは?と改めて思いました。そんな中、中国ブランド格力空調が有名人起用などのCM宣伝をせず、当時の董事長自ら自社の経営理念である「中国製温水便座」・「中国製炊飯器」を中国人に買ってもらう!という強い思いを語って、ニュースやSNSなどで拡散され、一躍人気者となり、今でも多くの方に支持されています。

今の中国人は、身分の固化(階層の固定化)・時代の交錯した社会で生活しています。インターネットの発達によってアプリで出前を注文できるものの、空気・水の汚染に悩まされていたり、滴滴を使って、高層ビルが林立している道を走りながら、三国志の英雄に憧れていたり、ドローンで旅の記憶などを記録しながらも、清朝等の昔の時代ドラマに共感しています。交錯している時代に暮らしている中国人は熱くなることも早いですが、冷めることもまた早いようです。訪日旅行も、中国市場での商品販売等も、このような文化の違い(現状)を徐々に理解していくのが、今後さらに必要となるでしょう!