連載
玲玲細語 ~中国人研究員が見て感じた日本と中国~
中国人の訪日クルーズ旅行は、これからが勝負!
昨今クルーズ旅行を選択する中国人旅行者が年々増えています。なぜ中国人、世帯年収の高い層がクルーズ旅行を選ぶでしょうか?中国出身の筆者が中国人がクルーズ旅行を好む理由について考察します。
6月は、中国の大学受験シーズンです。6月7日、8日、9日は、中国語で「高考」という大学進学ための全国統一試験でした。
中国と日本の進学システムの大きな違いは、中国では、学生が全国の統一試験を受けるのは1回のみで、それぞれの大学の入学試験を受けることがありません。この1回だけの試験で人生が決まるといっても過言ではありません。大学進学を目指す学生たちの受験勉強はすさまじいものです。ですので、学生だけではなく親たちもピリピリしています。その結果、笑顔になる学生もいれば、悲しい思いをする学生もいます。
私の学生時代も毎朝6時30分学校に着き、夜22時自宅に帰りそれからさらに勉強した毎日でした。当時の高考は毎年7月の7日、8日、9日でした。試験会場(教室)はエアコンがなく、室内温度30度の中、私と同じ会場にいた一人の女子学生が緊張?気温が高いあまり、倒れてしまったことを今も記憶しています。今思うと高考は、私にとって人生の決戦場というより、自分との戦いで自分を鍛え上げた、かけがえのない時間でした。8月初旬には試験結果の発表があり、私は笑顔になることができました。その夏は、友人たちと列車に乗り、20時間以上をかけて、青島に行きました。
当時の中国では「旅行」という概念が、一般にありませんでした。「旅行」に行く?「旅行」にお金を使うの?「旅行」とは何?詐欺なの?という時代でした。当時から旅行好きだった私は、かなり変わった中国人だったかもしれません(笑)。この列車の旅に行かせてくれた母に本当に感謝です。
私がなぜ青島を旅先に選んだでしょう?
青島ビールを飲みたいからではありませんよ。中国の内陸で生活していた私にとって、青島の青い海は幼いころからの憧れであり、世界一のきれいな海!?だと思っていたからです。私だけではなく、中国は四方を海に囲まれている国ではありませんので、海を見るだけで感動する中国人も非常に多いのです。このことは、クルーズ旅行を選択する中国人旅行者が年々増えている理由の一つではないかと思います。
弊社が行った「居住地別(沿岸部、内陸部)に見る中国人旅行者の旅行動向」の調査では、1年内以内の訪日クルーズ旅行経験者は沿岸部の中国人が21.6%に対して内陸部の中国人が33.7%とかなり高く、クルーズでの日本旅行の魅力が沿岸部から内陸へと広がり、内陸部での人気が高まっていることがうかがえました。また、クルーズ旅行を参加した中国人の世帯年収を聞いたところ、60万元(約1,000万円)以上が22.2%、24~60万元(約400万円~1,000万円)未満が45.2%と高い傾向となっています。(本調査結果を詳しく知りたい方は、こちらをクリックしてください。)
クルーズ旅行に強い中国の旅行会社「途牛旅遊」の報告によると、2016年に訪日クルーズ旅行に参加した中国人旅行者の居住地上位10都市のうち、内陸部の都市が5つ入っています。
なぜ中国人、世帯年収の高い層がクルーズ旅行を選ぶでしょうか?
その原点は「親孝行」「家族の絆」が当たり前であるという中国の伝統文化に関係していると考えます。中国の経済発展とともに、プチ富裕層の世帯が増えてきて、お金を出して、親たちを旅行に行かせたり、家族と旅行に行ったりすることが定着しつつあります。分かりやすく言えば、クルーズ旅行は中国人の文化・価値観に見合うコストパフォーマンスを演出しているからです。
私なりに考えた中国人がクルーズ旅行を好む理由は次の通りです。
- 手間軽減: 飛行機での移動よりクルーズ旅行は、移動の負担、荷物を運ぶ作業が少なく済むので、親・子供と一緒に旅行できる。
- 安全・安心: 船内に医者が駐在しているため、健康面の安心感がある。
- 楽しさ: 船内に免税店・カジノ・遊園地等があるから、親も子供も自分も楽しめる。
- 海眺め: 旭日・夕陽24時間いつでも海眺めできるから、海を存分に楽しめる。
- 効率性: 1回の旅で複数の都市を効率的に訪問できることからお得感を得られる。
- 安心・信頼: 乗船費用・飲食費用等はパッケージ料金となっているから、安心できるから
- 制限が少ない: 大家族でも一緒に移動できることや企業の報酬旅行としても利用できる
訪日中国人の爆買いは一段落しましたが、訪日中国人観光客、中国人のクルーズ旅行者はこれからも増えていきます。中国人の訪日クルーズ旅行において、日本の地方にお金が落ちていない等様々な声が聞こえます。クルーズ旅行者に期待したいところですが、中国からのクルーズ船内には多くの免税店、娯楽施設が設けられていますので、寄港地で買いものをする需要が低いようです。
でも落胆する暇はありません。日本は観光立国として間違いなく成長しているのです。爆買いからクルーズへ、ほしいものから体験することへ変化したニーズには、「海への憧れ」「海好き」の中国人をセグメント別に考え、世界の中国人観光客の争奪戦の中でも工夫次第でまだまだチャンスがあるはずです。