連載
FRE~EDO~M ~3つの大陸で育まれた自由な視点から’今’をみる~
2018年は日本でのLGBTツーリズム元年となるか?
21世紀に入り、私たちの暮らしは大きく変わりました。ロボットやAI、ICTの浸透はもちろんのこと、人権や男女間格差に関しても変革が起きつつあります。
21世紀に入り、私たちの暮らしは大きく変わりました。ロボットやAI、ICTの浸透はもちろんのこと、人権や男女間格差に関しても変革が起きつつあります。今や女性が大統領、首相、企業のCEOとなることも珍しくありません。また昨年の9月、長らく女性の権利が抑圧されてきたある国で女性の自動車運転やスタジアムでのスポーツ観戦の解禁が発表されたことも、歴史的な一歩と言えるでしょう。
一方、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)への理解も徐々に進み、同性の婚姻や養子縁組を公式に許可する国も増えてきましたが、まだ70以上の国々では法的に禁じられ、法に反した場合は重い刑に処せられる場合もあるようです。
昨年の5月、UNWTOはLGBTツーリズムに関するレポートの第二版を発表し、多くのカテゴリーでLGBTへの取り組みが進んでいるとともに、LGBTは観光だけにとどまらず、広く地域への経済効果が高いことが明らかとなりました。同レポートでは、LGBTへの取り組みを積極的に推進した国は、ブランド力や認知度が向上し、旅行者の愛着も増したとしています。
地域的にみると、ヨーロッパや北米では早くからLGBTを認める法律などを整備してきましたが、東アジアではまだ取り組みが始まったばかりの国も多くみられます。台湾では、2017年に2019年5月までに同性婚の法制化を実施することが決定され、日本では2015年に渋谷区を皮切りに始まったパートナーシップ制度が2018年7月に大阪で導入されました。政令指定都市としては、札幌、福岡に続く3例目となるものですが、まだ全国的な動きではありません。
しかしながら、2016年に発表された「性的マイノリティについての全国調査」(*)では、20代の約7割は同性同士の恋愛に抵抗感がなく、徐々に人々の意識も変わってきているようです。私自身、師事した中で最も尊敬する教授の一人もLGBTであることをカミングアウトしましたが、私の彼への尊敬の念はカミングアウトの前後で全く揺らぐことはありませんでした。
LGBTは私たちが住んでいる社会の現実であると共に、毎年2千億USドル以上の消費を生み、今後さらに影響力を増すことが予想されています。世界経済にとっても、私たち観光に携わるものにとっても、意識して取り組んでいかなければならないテーマです。
では私たちは、これからどのように取り組みを進めていけばよいのでしょうか。例えば、バルセロナ、ロンドン、パリはもちろん、イビザ島、カナリア諸島、ミコノス島など各地の島々の事例なども参考になりそうです。LGBTに人気の場所では、LGBTを対象としたイベントの開催、専用のバー、ホテルや観光情報サイトの整備など、LGBTツーリズムでその土地を訪れる人々にとって不安なく旅行ができるインフラや情報提供、仲間と出会える環境などが整えられ、観光客の増加に寄与しています。
日本は質の高いサービスや設備、文化・伝統・芸術・食の複合的な魅力を持ち、LGBTを惹きつける世界でも有数の目的地としての潜在力を秘めていると考えられます。平成30年度、復興庁の「新しい東北」交流拡大モデル事業として、「目指せ!ダイバーシティ東北【LGBTツーリズム】」が選定されました。2018年が日本でのLGBTツーリズムにおける新たな幕開けとなることを期待します。
(*)釜野さおり・石田仁・風間孝・吉仲崇・河口和也 2016『性的マイノリティについての意識―2015年全国調査報告書』科学研究費助成事業「日本におけるクィア・スタディーズの構築」研究グループ(研究代表者 広島修道大学 河口和也)編