連載
玲玲細語 ~中国人研究員が見て感じた日本と中国~
桜の木の枝を引っ張らないで!
~中国人旅行者は、なぜ枝を引っ張ってしまうのか?~
有楽町に新しくオープンした施設に入っているお店でポットのお茶を注文したあと、お湯の追加をお願いした際に「追加料金が伝票に記載!?」され、久々に文化の違いに衝撃をうけました。しばらく心が行方不明になっていましたがつい最近無事生還できましたので、コラムをお届けしたいと思います。
日本各地で桜が美しいシーズンとなりました。先日テレビで中国人旅行者が桜の木の枝を引っ張りながら写真を撮っていたという報道がありました。その翌日、3つ以上の中国サイト(微信アカウントを含む)で中国人のマナー違反行為が日本のテレビで報道されたという中国語の記事が拡散しました。読者のコメントには、「マナー違反をやめてください。恥ずかしい!」「人口が多い分、どうしてもそのような人が出るよね~」「中国人旅行者のマナー問題は中国国内の主流テレビでも報道されたり注意されたりしていて、徐々によくなってきていますよ」などが書かれていました。ネット社会で情報拡散の速さと怖さを改めて感じさせられた出来事でした。
今回はこの報道にあった2つのことに注目します。
一つは、日中英語の「桜の木の枝を引っ張らないで」多言語看板について
- この注意看板はゴミ箱の置き場の後ろに隠れていたものもあり、設置場所に疑問が残りました。設置者側目線で「看板を設置した=注意してもらえる」と思ってしまったと思われますが、伝え方にも工夫を期待したいところです。
- 「看板作り」についてですが、看板の文言に文化の違いを知らせるエッセンスも加えられたら桜の木の悲しみも少なくなるのではないでしょうか?報道をみながら、看板の制作にも中国人のアイデアが活用されればよいと思いました。
- 日本の花見は飲食を伴うため周辺地域の店舗にも経済効果をもたらします。桜を楽しめる観光スポットが増えていますが、旅行者に気持ち良く何度も訪れてもらうための「情報配信」、さらには地域において観光と経済の結びつきを理解する人材の育成や定着というソフト面を外から支援することも大切です。
もう一つは、「桜の木の枝を引っ張らないで」の理由について
- 桜シーズンでわざわざ高い訪日旅行代金(6日間で一人約10万円)と大切な時間を費やし、「桜の木の枝を引っ張りに来る」中国人旅行者は少ないと思います。桜の木の枝を手で触ると木に菌が侵入しやすくなり、木の寿命にダメージを与えることを知らないことや、桜が好きで日本旅行の記念として“自分の桜”の写真を撮りたいあまり、枝を引っ張ってしまったという人が多いと思います。
- 日本の報道には、単なる注意ではなく、「なぜいけないか」をきちんと説明することも重要だという話もでていました。個人的にこの考え方に共感し、訪日中国人旅行者が増えることによって中国人への理解が少しずつ進んでいる気がしました。
- そもそもですが、桜の木の枝を折るわけではないので、枝を引っ張るのはマナー違反になるのか、という認識については、中国人と日本人で違いがあります。中国人に限らずですが、外国人には「こうしてほしい」とハッキリ伝え、理由も説明することが重要です。
また、この考え方は訪日外国人旅行者受入に限らず外国人人材の採用・定着にも共通して言えることです。
日本では、上司が言ったからという理由で指示通りに仕事を進めていく日本人が多く見受けられますが、外国人には、「上司が言ったから」だけでは仕事を進めていくことに限界があります。なぜなら、「上司が言った」=「正しい指示」と考える人が少ないからです。
「上司が言ったから」と「上司が指示した理由」「指示通りにやる場合の到達点(予想でも)」をセットで外国人に説明することが重要です。その理由の一つとしては、海外では給料や待遇は個別に交渉することが一般的です。そのため、従業員は自分の業務内容や責任範囲などを事前に明確にし、自分の実績を積極的にアピールしたい!そして相応の要求もだしたいとの思いが強いからです。そのため、採用した外国人の力を発揮させたい場合、このような文化理解を踏まえたマネジメントが求められます。
日本に長く住んでいる私は、社会人になった当時と比べ、外国人としての感覚は徐々に鈍化してきているようで、そろそろ初心に帰る必要があるかもしれません。