連載
玲玲細語 ~中国人研究員が見て感じた日本と中国~
ニューノーマル時代、中国におけるリモート観光のいろは
中国では新型コロナウイルスの影響で旧正月に自宅に留まることによりバーチャル旅行やリモート観光を楽しむ動きが急拡大しました。
(1)中国におけるリモート観光の現状と動向
リモート観光は、オンラインで現地の観光を遠隔で体験できるものです。中国ではリモート観光を「雲旅游」と呼んでいます。主に3つのタイプがあります。
一つは、WEB上でVRを利用して疑似体験できるというバーチャル旅行。事前に観光地の写真と音声紹介をセットで制作し、360°パノラマの疑似的な見学が可能となります。2016年にVRブームが中国で起きた際は、ゲーム会社や不動産仲介会社が活用して広げましたが、新型コロナウイルスの影響では、観光業でのVRの活用が進みました。ちなみに中国の不動産仲介業界では自社アプリにてVR、動画、写真の3種類の手法で内見サービスを提供するのが一般的ですが、観光業には、現時点では博物館による独自の導入が多く、視聴者から視聴料を得ることがなく、サービスの付加価値として提供しています。
二つ目は、ライブ配信アプリやプラットフォームを使って、リアルタイムで観光地と消費者をつなげる「旅行+直播(観光+ライブ配信)」。2020年3月以来、「携程Boss直播(トリップBossによるライブ配信)」がスタートし、2020年6月24日までにトリップの董事長梁建章氏が15省市にいって、各地の歴史、慣習などにあわせて、服装のCosplayや特技などを披露しながら、観光地の紹介や主に宿泊商品(部屋+観光チケットセットなども含む)の販売をライブ配信で行いました。3か月間15回のライブ配信を視聴したのが延べ4000万人に達しました。特に2020年4月15日の、快手(ライブ配信や動画配信の専門アプリ)と提携し、江蘇省の観光復興助力を紹介した1時間のライブ配信では、2,201万元(約3億3千565万円)の旅行商品の販売(電子商取引タオバオ等活用)を実現したことが話題となりました。日本ではこの手法を「ライブコマース」として2019年からの紹介が増えているように見受けられますが、企業においても個人においても、まだ認知度は高くありません。
三つ目は、「旅行+短視頻(旅行+ショット動画)」という形。3分間以内の動画が多く、観光関連企業・施設による配信もあれば、旅行者自身が撮った動画を編集してアップすることも多いのが特徴です。私の場合、トリップを20年ちかく利用している古いユーザーとして、旅の動画をよくトリップのアプリ内にある「旅拍」にあげています。(トップアプリにたくさん便利な機能がついていて、別途それを紹介する文章?/動画?を作成したいと思わせてくれます)
二つ目の「旅行+直播(観光+ライブ配信)」と三つ目のと「旅行+短視頻(旅行+ショット動画)のサービスについては、「ヤフオク!ライブ」が似た性質を持っていますが、日本ではこのようなサービスがまだ少ないため、これらに関するビジネスの仕組みを以下の表を通じて簡単に紹介します。(注:新しいビジネスモデルとしてやり方等が変わることがありますので、あくまで現時点の情報としてご理解ください)
表1:ライブ配信における収益構造
表2:UGC/PUGC/PGCの比較
(2)新常態(新しい日常)下、中国の「旅行+直播」の動向
2月以来「旅行+直播」による観光地の紹介が増えてきています。
- 自粛期間中(目安:1月23日~3月の1週目まで)
タオバオのライブ配信を利用した蘇州博物館によるライブ配信が高い人気を獲得しました。蘇州博物館はライブ配信だけではなく、ゲーム形式によるリアルタイムで双方向コミュニケーションができる取り組みも行いました。視聴者にとって新しい知識を吸収できたとともに、遠隔からも自ら参加できる観光の実現ができました。その結果、普段平均1日6~7,000人の来館者ですが、2回のライブ配信の視聴者が58万人に上り、オンラインを通じて潜在顧客の掘り起こしにつながる可能性が現実となり、オフラインでのお土産販売休止もオンラインで再開できました。チベットにあるポタラ宮(世界遺産)のライブ配信も人気が高かったのですが、オンラインショップを持っていないため、視聴者にとってお土産を買えないのは残念でした。 - ゴールデンウイーク〈2020年5月1日~5日まで〉期間
トリップと快手が発表した「2020・ゴールディング期間“直播”+旅行報告」調査によると、ゴールデンウイーク中に、男性の旅行者が自らライブ配信を行う比率が女性より20%高く、男女比6:4となります。5月1日に、雲南省麗江古城、北京天安門、珠穆朗馬峰(チョモランマ・世界最高峰)の順でライブ配信の視聴者が多くなりました。自粛期間と比べ、ゴールデンウイーク中は、観光地・観光施設のかわりに、旅行者自らライブ配信をする動きが増え、ここでも多くの情報が拡散されています。まさにSNS時代のマーケティングDRESSにあてはまります。(Discovery:発見、Response:反応、共感、Experience:体験、Story:物語化、Share:共有)
(3)今後、リモート観光を広げていく?
リモート観光は新しい観光スタイルとして加速しているように見えるものの、国によって拡大するスピードや方向性が異なっていくことも考えられます。中国で起きたリモート観光は、必ずしも日本で同じことが起きるとは思いませんが、一つの参考としてリモート観光に関する中国と日本の現状をまとめてみました。
中国でも、日本でもほかの国・地域でも、リモート観光を実現させることがゴールではありません。リモート観光はあくまで手段であり、それを活用することによって地域の潜在顧客を掘り起こし、地域の消費拡大につなげることが狙いになります。
新型コロナウイルス「第2波」「第3波」の恐れがある中、日本国内における国内旅行の回復を最優先にしていることは大賛成ですが、インバウンド再開となったとき、もしくは再開する見通しが見えない中、海外旅行者の方々とどのように持続可能な関係性を作っていくかは、今からもう一度考えていくべきでしょう。